お題『あなたへの贈り物』
すっかり体調が良くなった船星(ふなぼし)はお気に入りのアロマキャンドルの残量が少なくなってきたので、電車で2駅離れた場所にある。小さなアロマ店を訪れていた。
騒がしくない小鳥の囀りの音が流れる店内BGM、それに合わせて心地よいハーブの香りに包まれる店内は船星にとって癒しの店である。男性店員が船星に声を掛けた。
男性店員「久しぶりダネ。わたーる君元気だったカイ?」
男性店員ことモンターナさんはこのお店の店長さんであり植物学者でもある。
船星「まぁ……数日間体調が優れなかったんですが、ようやく元気になりました」
モンターナ「それは良かっタ。もし君さえ良ければ店の奥でハーブティーを飲んでいかないカ?今日、新作の商品ブレンドティーを発売したばかりなんダ」
船星は笑顔で答える。
船星「あとで頂きます。先に商品を見てもいいですか?」
モンターナ「あぁ、すまない。何やら急がせてしまったようダネ。ゆっくりと見てクレ、会計ならレジ横のベルを鳴らしてもらえると助かるヨ。ではあとで」
モンターナは手を振り店の奥へ戻っていく。船星はお気にりの森林の香りを手にした。ついでに店内に並べられた他の商品を見て回る。そしてアンティー調の天使がハート型の器を両手で持ち空へ掲げているようなキャンドルボルダーを発見した。
船星「これ、買っていこうかな。部屋に飾ってもよさそう」
船星は見つけた天使のキャンドルボルダーと先ほど手にした森林の香りのアロマキャンドルを持ってレジに向かう。ベルを鳴らすと店長のモンターナが駆け足でやって来て会計をし始めた。会計を済ませると、天使のキャンドルホルダーを破れないように新聞紙で梱包し、小さな紙袋にアロマと一緒にまとめて入れてくれた。そして店の奥で店長が調合したハーブティーを飲んでいるとモンターナは戸棚からブレンドハーブティーの茶葉が入った小さめの缶を船星へ手渡す。
モンターナ「これはあなた(わたーる君)へ贈り物だよ」
船星「え?頂いても良いのですか?」
頷くモンターナは続けて。
モンターナ「勿論。遠慮しないデ。なんたって新商品発売記念だからネ!!」
親指を立て船星に向けてウインクをするのだった。
End
お題『羅針盤』
萌香からメールの返信が届いた。内容は以下の通りだ。
『To;大神君 From;萌香
日にち 8/5希望だよ。確認だけど待ち合わせ場所などの変更はないかな?』
大神「5日か……。多分あいつらも大丈夫やろ。1番(いっちゃん)心配なのは船星(ふねぼし)やねんなぁ。万が一あるし聞いておくか。返信はそれからやな」
大神は船星に電話を掛ける。
船星『……はい。大神?』
大神「おう。あれから体調大丈夫か?」
船星『うん、すごくマシになった。……ありがとう。あと迷惑かけてごめんね』
大神「何言うてんねん。……あれは俺が勝手にしたことやから、気にすんなや』
船星『ところで、用事あって連絡したんだよね?』
大神「せや。延期しとったイルミネーションの件やけど子猫(萌香)ちゃん達8/5行けるみたいなんやけど、船星はどないや。行けそうか?」
船星『……体調さえ問題なければ、行けるよ。誘ってくれてありがとう。そう言えば待合せ場所って【紫八潮(むらさきやしお)】駅の入口にある【羅針盤】のオブジェ前だよね?』
大神「そうやで。それがどうかしたん?」
船星『ううん。確認したかっただけだよ。じゃあ僕そろそろ寝るよ』
大神「おう、夜分遅くに電話掛けてごめん(堪忍)やでぇ。ほなお休み〜」
船星との通話を切った。携帯の液晶画面に表示された時刻は23時を回っていた。大欠伸をする大神。
大神「返信メール……明日の朝でえぇか(苦笑)」
枕元に携帯を置いて目覚まし時計を6時にセットし大神はベットの中に潜るのだった。
End
お題『明日に向かって歩く、でも』(今回の物語はお題『風のいたずら』の続きです)
委員長は買い物帰りに先日麦わら帽子を届けに来てくれた男性と偶然に再会した。そして約束通り男性は委員長の家の客間で麦茶をご馳走になっている。
委員長「ごめんなさい。まだ部屋の中暑くて……」
男性は委員長が持ってきたおしぼりで顔を拭う。男性の名は【芳野 月(よしの ゆえ)】(20歳)で大学生だと名乗った。
芳野「大丈夫やで。おしぼり冷たいから丁度ええよ」
なかなか汗が引かないがそれでも笑顔で応える芳野。
委員長が空になったコップに麦茶を注ぐ。
委員長「芳野さん。……あの……商店街でお見かけした時の話なのですが、何か悩んでらっしゃいませんでしたか?」
芳野「えっ?!」
芳野は驚いてそれ以上何も言えなかった。
委員長「私(わたくし)の勘違いでしたら申し訳ありません」
委員長は俯いてしまった。長年学校で学級委員長をしていて自分の近くや同じクラス人の不安なオーラに少し敏感になってしまいついおせっかいになってしまう
。
芳野「当てられてびっくりしたわ。秋更(あきざら)ちゃん。超能力者(エスパー)なん?」
委員長「ち、違いますよ」
芳野は淡々と悩み事を委員長に話した。それは進路の事だった。母親の実家がある京都の公立の医大に去年奨学金を借りてまで入学したけど、自分が本当に医者になりたいのか今考えると分からなくなったらしい。
委員長「これは私、個人の意見ですがそんな先の未来を見据えるより、今は明日に向かってゆっくり確実に今しか出来ないことを歩まれた方がよろしいのではないでしょうか。それでも立ち止まって悩んでしまったら私が一緒に打開策を考えますから!どうかおひとりで悩まないで勇気を持ってお話しして下さい」
と芳野に言いながら、本当は自分にも言い聞かせていた。冬の初めに家に訪れる姉への事で祖父母や友人にどう打ち明けるか頭の隅で委員長は悩んでいるのだった。
End
お題『ただひとりの君へ』(今回の話はお題『あなたのもとへ』の続きになります)
今だに手付かずの英語の課題、英和辞書を意味もなくパラパラを捲る。すると机の隅に置いていた携帯からピコンっと着信音が鳴った。萌香は気だるそうに画面を見ると【メール1通受信】と通知が来た。開いてみると送信者は大神であった。
萌香は嬉しくなってぱあぁと顔が明るくなる。
萌香「大神君だぁ。なんだろう」
『To 子猫ちゃん From 大神天河
小真莉(こまり)は妹で健太(けんた)は弟やで。ホンマに間違ってごめんな。あと延期にしとったイルミネーションのやけど8/4〜8/6のどれかで行かへん?友達何人でも誘ってええから!ほな、返信待ってるわ」
萌香「妹ちゃんと弟君だったんだぁ。なぁ〜んだびっくりしたぁ」
萌香の中で小真莉と健太は親戚の子供で遊びに来ているとばかり思い込んでいた。
萌香「メール返さなきゃ。2人はいつが空いているのかな?少し遅い時間だけど電話してみよう」
萌香は連絡アプリLe Lien(ルリアン)を起動し、仲良しグループから2人に電話をかけた。
<<プルルル>>……<<ガチャ>>
最初に出たのは委員長だ。
委員長『あら、こんばんわ輪通(わづつ)さん。どうしたの?』
萌香「夜分遅くにごめんね。えっと延期になったイルミネーションの件なんだけど……」
遅れて真珠星(すぴか)も通話に参加する。
真珠星『2人共こんばんわ!萌香遅れてごめんね』
萌香は「ううん」と電話越しに首にを左右に振る。要件を2人に話すとどの日にちも今は大丈夫と答えてくれた。
委員長『他に変更はないか、確認をお願いしてもいいかしら?』
萌香「うん。任せて!!返信ついでに聞いてみるね。2人共ありがとう〜。じゃあバイバ〜イ」
通話を切った。忘れないように萌香は先に携帯のアプリ機能スケジュール帳にイベント追加し、ただひとりの君(大神)への返信を返すのだった。
End
お題『手のひらの宇宙」
大神小真莉(おおがみこまり)は机に向かい夏休みの自由研究について悩んでいた。大神家次男の健太(けんた)と共同部屋なので、小真莉の真後ろには健太が夏休みの宿題に取り組んでいた。
小真莉「健兄(けんにい)、自由研究やった?」
健太「ずっとしとるよ」
小真莉「ずっと?!終わってへんの?」
健太は手を止め小真莉の方へ椅子を半回転させる。
健太「うん。オレの自由研究は夏休み最終日で完成やからなぁ」
小真莉「小真莉も同じのしようかな」
健太「小真莉には無理やし、危ないからやめた方がえぇわ」
小真莉「何それ!?ってか健兄の自由研究なんなん?」
健太「晩御飯の献立日記」
晩御飯の献立日記とは、健太が夏休み入ってから終わるまで毎日の晩御飯を1人で作ったり、継母(母)や大神天河(アニキ)と一緒に作る等自分がその日食した晩御飯を絵日記にしてつけているのだ。夏休みに入ったその日に思いつき、真面目にコツコツと出来る健太にはピッタリな自由研究と言えるだろう。
小真莉「小真莉、それイヤやわ」
健太「誰もしろなんて言うてないやろ。小真莉はどういう自由研究がしたいん?」
小真莉「すぐに終わるのがえぇなぁ」
健太「それやったら––––」
と席を立ち本棚に向かい、一番下の段にある図鑑を手にして、表紙を小真莉に見せる。
小真莉「宇宙図鑑?」
健太が提案した自由研究は『手のひらの宇宙』と言うタイトルをB5サイズの無地のノートに書く。その内容は太陽系の惑星を一つ一つ図鑑を見ながら手書きで写す。小学3年生から理科は始まるが宇宙に関して勉強するのはもう少し後かも知れない。しかし自由研究なら先行しても問題ないだろう。それに太陽系だけなら8個で終わる。仮に太陽を入れても9個しかない。すぐに終わらしたい小真莉にはうってつけである。
健太「うん。丸描いて、色塗って、惑星の大きさあとその惑星について思ったことを一言書いたら終わり(しまい)や。簡単やし、小真莉にも出来ると思うで」
小真莉「例えば?」
健太は図鑑を開き水星のページを捲り広げて説明する。
『太陽から1番近いところを回っている。大気や海がない。昼間の温度は最高で430℃、夜は-160℃。大きさ約4,879km 【ひとこと「1番小さい惑星やし、太陽に近いのに燃えないのは何故だろう」』
健太「……ってな感じで書いたらえぇんちゃう?」
小真莉「ふ〜ん。分かったやってみるわ」
健太「完成したら、確認したるで」
小真莉「え〜。1番初めは大神天河(お兄ちゃん)に見せるって決めたもん。健兄は最後やで」
ニヤリと少し意地悪な顔で話す。提案した健太よりも自分が1番好いている人から見せて褒めてもらいたい小真莉であった。
End