お題『風のいたずら』(再投稿)
8月初めの朝。委員長(可崘)は庭で祖父が趣味である家庭菜園の雑草抜きの手伝いをしていた。
祖父「可崘(かろん)、日射病になるといけないから、麦わら帽子を被りなさい」
委員長「おじいちゃん、まだ大丈夫よ。さっき朝日が昇ったばかりじゃない」
しかし祖父は縁側へ行き麦わら帽子を手に取り委員長の頭に被せた。
祖父「なってからじゃ、遅いんだよ」
委員長「……それもそうね。ありがとう」
祖父が委員長の頭から手を話すと、急に突風が吹いた。風のいたずらとでも言えるくらいに被った麦わら帽子が飛び家の塀を軽々と超えてしまった。
委員長「あ!?待って。私(わたくし)の麦わら帽子」
委員長は庭から家の玄関へ行き塀の外に周った。けれどそこには麦わら帽子はなかった。
委員長「どこへ行ってしまったのかしら?」
周りを見ても無い。向かえの家に頼んで庭に入れてもらい探した。それでも見つからなかった。
今度は自分の家と隣の家の屋根の方を探す。それでも見つからず委員長は俯き、壁にもたれかかった。
委員長「本当にどこに行ってしまったの」
すると自分の家の左2軒先からこちらに歩いてくる1人の男性の姿が見えた。彼の右手には委員長の探しているものがあった。思わず委員長はその男性へ駆け寄る。
委員長「あの、すみません。その麦わら帽子見せてもらってもよろしいですか?」
男性「え?はい。どうぞ」
委員長「ありがとうございます」
男性はじっと麦わら帽子を確認する委員長を見て訪ねた。
男性「あのぅ?……秋更(あきざら)さんのお宅ってどこですぅ?」
委員長「私(わたくし)の家ですが?ご用件をお聞きしますよ」
男性「えぇねん、えぇねん。大した、用事ちゃういますから……あんさんにお渡した麦わら帽子、この近くの神社で拾っただけやから……」
委員長「そんな遠くまで、飛ばされたんですか!?……どうりで見つからないわけだわ(笑)」
男性「もしかしてタグの後ろに名前書いとった麦わら帽子の落とし主さんか!?」
委員長は笑顔で答えた。
委員長「はい。先程の風のいたずらで飛ばされてしまい探していたのです。わざわざ届けて下さってありがとうございます」
委員長は深々と頭を下げて礼を言った。続けて––––
委員長「あの、お礼と言ってなんですが麦茶でもお飲みになりませんか?」
男性は顔の前で片手を左右に振り遠慮していた。すると庭にいた祖父が玄関の入口まで出て来て、委員長の名前を呼んでいた。
祖父「かろ〜〜ん!!」
委員長「は〜〜い!……すみません。家のものに呼ばれてしまいましたので、ここで失礼します。縁がありましたらその時は麦茶ご馳走になって下さいね」
委員長はまた深く頭を下げ家の方へ入っていくのだった。
End
お題『透明な涙』
大神小真莉(おおがみこまり)はポロポロと透明な涙を流しながら晩御飯の冷やし中華を食べていた。
健太(けんた)「何もなくことないやろ。明日には帰るって兄貴言ってたし」
小真莉「そうやど……でもぉ〜((泣))」
ずるずると冷やし中華を啜る。ついでに鼻水も啜っていた。涙いて少し目が腫れる、その姿を兄貴に見せてやりたいと心の底から思いながら健太は黙々と晩御飯を食べていた。すると母親が笑顔で小真莉に向かい話かけた。
母親「小真莉ちゃん。泣くか、食べるかどっちかにしなさい。健太くんと一緒に作った晩御飯が美味しく食べられへんやないの」
ピタリと小真莉は泣くのをやめ、透明な涙は枯れた。
笑顔の裏の母の顔が怖さが数分毎に増しているのを小真莉は肌で感じるのだった。
End
お題『あなたのもとへ』
大神から『ごめん。間違ったわ(笑)』と謝罪のメールが送られて来てから数時間経った日の夜。
萌香は晩御飯を食べ終えて勉強机に向かい夏休みの課題のプリントを広げて嘆いていた。
萌香「英語難しいよぉ〜。パパが仕事に行く前に教えて貰えばよかったぁ。せっかくパパが課題『手伝ってあげる』って言ってくれたのに……あたしったらまたパパが怖い話すると思い込んで断ってしまったよぉ。……素直に「教えて」って言えばよかったぁ〜」
今更嘆いても仕方ない。萌香の父親は子供の時に仲良くなった外国の友達がいる。その子とその親に英語を習ったことがあるので英語は得意らしい。だから萌香は今すぐにでもあなた(パパ)のもと(仕事場)へ行けるならいきたいと思うのだった。
End
お題『そっと』(『あたたかいね』の続きの話です)
1時間後大神が船星(ふなぼし)の食べた食器を下げに2階の部屋を訪れた。コンコンとドアを叩く。返事がない。寝ているのだろうかとそっと部屋に入る。
大神「船星〜。部屋入るでぇ」
予想通り船星は寝ていた。……が、何やらうなされているみたいで時折『うぅっ』と唸っている。
大神は船星の額に触れた。熱い。
大神「熱あるやんか!冷えピタ!買ってきたスーパーの袋の中にあったわ。ちょー待っててや。取って来るさかい」
ささっとサイドテーブルから小鍋と豆皿等の乗ったお盆を下げ、1階の台所の流し台へ置き小鍋の蓋を開けた。船星は具材は全てたいらげていた。強いていうなら出汁は少し残っていたが大神的に許容範囲で満足げだ。小鍋に水を張る。後で洗おう。今は一刻も早く冷えピタを持って行かねばならない。
冷蔵庫の扉を開けガサガサとスーパーの袋を取り出し、冷蔵庫の扉を閉めた。取り出したスーパーの袋からから冷えピタを持って2階へ駆け上がる。
船星の部屋のドアを開け、静かに船星の側に近寄る。
ハァハァと呼吸が荒くなっている。近くにタオルがなかったので、ティッシュで額の汗を拭う。そして冷えピタを1枚箱から取って透明の薄いシートを剥がし、青色のジェルのついた粒々が肌に触れるように船星の額にそっと貼る。
寝ていた船星が気づいた。
船星「冷たくて……気持ちいい」
大神「せやろ」
船星に笑顔を向ける大神。船星は起き上がろうとしたが大神がそれをさせなかった。
大神「病人は寝とくもんやで!無理に起きやんでええんや」
船星「……ごめん」
大神「気にすんなや。体調悪い時くらい他人に甘えんとそうしな……。!?あかん、話暗くなる。やめや、俺、今日船星の家泊まるわ!」
船星「そ、そんな。これ以上大神に迷惑かけられないよ。それに大神の家族の人が心配するだろうし……」
船星は大神から顔を逸らした。
大神「あのなぁ。そんなん電話一本で済む話や。居場所さえわかっとら大概の親は何も言わん。それに俺の家族のことなら心配せんでえぇ。逆に病人ほっといて帰る方が親に怒られる(どやされる)わ(笑)」
大神は苦笑いをして船星の部屋をあとにした。そして1階へ降りて台所の流し台へ向かい、食器を洗う。洗い終わるとGパンの後ろポケットから携帯を取り出して家の電話へかける。
大神「あぁ。おかん、俺。天河(てんが)。今日さ、友達の家に泊まるわ。……うん……そう。なんや体調悪いみたいやから看病して明日帰って来るわ。小真莉(こまり)には上手いこと言うといてや。ほな」
End
お題『まだ見ぬ景色』
自分の部屋でベットを背にして床に胡座(あぐら)をかいて携帯の受信メールをぼーっと眺めていた。
大神は自身が継母(母)宛に作成し送信した相手が子猫(萌香)ちゃんであることを返信で分かり、大して本文を読まずにさっさと返信し、正しい相手(継母)にメールを送信後、落ち着きを取り戻した大神は萌香からのメールを読み直していた。
萌香『あたし……“まだ“大神君のお母さんじゃないよ。小真莉と健太って誰?』
大神「“まだ“ってどういうことやねん。なんか気になるなぁ。……とりあえず聞かれとることだけ返すか。それに延期しとったイルミネーションの開催期間も迫って来とるしついでに連絡入れとくか」
大神は服装や髪型、話す言葉でチャラく見られがちだが、律儀なとこがあるそれに、約束は守るタイプなのだ。
『To 子猫ちゃん From 大神天河
小真莉(こまり)は妹で健太(けんた)は弟やで。ホンマに間違ってごめんな。あと延期にしとったイルミネーションのやけど8/4〜8/6のどれかで行かへん?友達何人でも誘ってええから!ほな、返信待ってるわ」
大神「これで【送信】っと!」
萌香が抱くまだ見ぬ景色を大神が知るのはもっと先の話である。
End