お題『あたたかいね』
体調を崩した船星(ふなぼし)の家に大神がスーパーの袋を2、3袋持って玄関のドアが開くの待っている。船星はパジャマの上からカーディガンを肩に羽織りマスクをして鍵とドアチェーンを解錠し玄関の扉を開けた。
大神「おう。ありがとう!早速やけど台所借りて良えか?」
船星「う、うん。いいけど。綺麗じゃないよ」
大神「かまへんよ。そんなん俺やるから。お前は部屋戻って休んどき。ってかお前の部屋2階か?」
船星「うん。2階の角部屋なんだ」
大神「そうか〜。じゃあ出来上がったら持って行くわ」
と言って大神は流し台に溜まった食器類を洗い始めた。船星は大神が何かを作ろとしていることだけは分かった。しかし一体何が出来るかまでは分からずにいた。船星は、リビングに取り付けられたエアコンのリモコンで冷房ボタンを押した。そして台所に置いてある小型のサーキュレーターのボタンを押し、大神の邪魔にならないように静かに自分の部屋へ帰る。
30分後船星の部屋からドアをノックする音が聞こえた。
船星「はい、開いてるよ」
と言っても大神は部屋に入るとしなかった。それどころかーーーー。
大神「悪りぃ、今、両手塞がっとるから開けてくれへんか?」
船星は言われた通りベットから降りてドアへ向かい開けた。現れた大神は両手でお盆を持っている。
お盆の上には鍋敷きの代わりに新聞紙が敷かれ、その上に小鍋が置いてある。小鍋の右隣には豆皿あり、本来の使用法と違い豆皿の上にレンゲと箸が置かれている。箸置きが見つからず、代わりらしい。船星はベット横のサイドテーブルの上に積まれた本をすぐさま片付けて、大神に「ここに置いて」と指示した。
お盆を置き、小鍋の蓋をぱかっと取る。中から湯気がふわっと上へ昇り同時にカツオの出汁の香りが部屋中に渡る。小鍋の中はうどんだった。かけうどんではなく白ネギと蒲鉾が2切れそれに卵が入った『月見うどん』だ。よく見ると出汁の色が違う。いつも船星食べるうどん出汁は黒っぽい。それとは比べものにならないほど薄い茶色だ。これが俗に言う“関西出汁“だろうか。ゴクリと唾を飲み込む。
大神「心配せんでも毒なんか入ってへん。俺さま特製の月見うどんや!味の保証はあるさかい、ゆっくり食べてや」
船星「あ、ありがとう。じゃあ、頂きます」
船星は手を合掌してからレンゲを持ち、出汁を掬い口へ運んびそれを嚥下した。鰹の他に昆布も含まれている。それだけじゃないほのかに甘いのはなんだろうか。出汁だけでも身体(からだ)が温まる。
船星「美味しいよ。それにすごくあたたかいね」
大神「せやろ。……アホぉ、病人に冷たいうどん出す奴(バカ)がどこにおるねん。出汁だけじゃなくうどんも食いや。1時間ほどしたらまた部屋来るわ」
船星「うん。ありがとう」
大神は部屋のドアを閉め、台所へ行き後片付けを始めた。
End
お題『未来への鍵』
星のかけら(石)の件は兄、藤雄(ふじお)の知り合いに任せることにした孝雄(たかお)はティリティリマタンギ島の残りの外周を2時半かけて歩いた。途中飛べない鳥【タカヘ】や世界最小のペンギン【ブルーペンギン】など日本では見れない鳥達を観察することが出来た。
夕方16時頃フェリーに再び乗りオークランドの街へ帰った。夕方18時頃藤雄の家で夕食をご馳走になり、夜20時兄の車で空港まで送ってもらい。21時のフライトで孝雄は日本へ帰国した。
数日後星のかけらの件で兄からメールで連絡が入った。
『To 孝雄
預かった星のかけらなんだがな、知り合いに調べてもらったんだが、あり得ない代物らしくな。詳しく調べたいからしばらく預からしてくれって言ってるんだ。アイツがいうには『未来への鍵(ヒント)』が隠されているかも知れない』だってさ。アイツがいう未来は宇宙のことらしい。ロマンある話だろう(笑)。だから悪いがもう少し調べさせてくれ。何かわかったら連絡する。From 藤雄』
兄のいうアイツとはサターン・ドンバラさんのことだろう。私がまだ大学生になったばかりの頃兄は彼のことをよくアイツと呼んでいたのを思い出した。
大人になった今でも交流が続いているなんて羨ましいなぁと孝雄は部屋で1人、NZLの空港で自分用のお土産に買ったマヌカハニーの入りのホットミルクを飲み一息ついた。
End
お題『星のかけら』
昼前、伊多孝雄(いだたかお)とその兄、藤雄(ふじお)はNZ L(ニュージーランド)のオークランドの街を一望できる展望スポット、マウント・イーデンと呼ばれる観光地に訪れた。目の前には芝生のように草が一面広がっている。まるでパスタ皿のように中央に窪んだ箇所があり、ここがかつての活火山だったということが物語っているかのように、中央部分以外にも浅く窪んだ箇所がいくつかある。しかし現在は火山活動は起こっておらず休火山となっている。孝雄は感動していた。
孝雄「凄いね、兄さん。こんなに深い火山できたクレーターを間近で見れるなんて幸せだ。久しぶりに研究したくなってしまったよ」
孝雄は今では萌香達の通う高校の校長先生だが,それ以前は別の地域の高校で生徒達の前で地学の授業をしていた。
藤雄「相変わらず,お前は火山とかそういうの好きだな(笑)もう一つお前に見せたい場所があるんだ」
そう言って孝雄達は火山で出来たクレーターとオークランドの街を眺めながら藤雄が出かける前に作った昼食用のお弁当を食べる。山を降りてしばらく車を走らせ今度は船着場に車を停めた。次の観光する場所はフェリーに乗ってティリティリマタンギ島という世界的に珍しい鳥類の楽園として人気ある島らしい。
外周を歩いて約1時間後足元に握り拳ほどの大きさの石を見つけた。孝雄は手にとってまじまじと観察していると……。
孝雄「兄さん、見てよ」
孝雄は子供の頃に戻ったように目を輝かせて兄に石を見せた。
藤雄「どうした」
孝雄「大発見だよ」
藤雄「だからどうした?」
孝雄「星のかけらを発見したんだよ!!」
「本当か?」と藤雄も石に飛びついた。
藤雄「俺の知り合いで石に詳しい奴がいるんだ。そいつに調べてもらえるか聞いてみるよ」
孝雄「え?日本に持って帰って自分で調べたいんだけど……」
藤雄「それは難しいな……石の種類や状況によって持って帰れるかは異なるんだよ」
孝雄「そう……なんだ」
藤雄「落ち込むなよ。俺が責任持って知り合いに頼んでみるからさ!」
End
お題『Ring Ring…』
枕元に置いていた携帯から電話の着信音がリンリンと鳴っている。結構長いな……。急ぎかなそう思いながら船星(ふなぼし)は携帯を手に取り画面に表示された名前を確認する。
船星「大神?」
着信相手は同じクラスの大神だった。電話に出ると……。
大神『お〜。船星。やっと出よった。お前メール見てへんやろ?』
メールなんて届いていたのか。船星は病院から帰って来てレトルトのお粥を2つ口ほど食べ、医者から処方された風邪薬を飲んで寝ていたので全く気づいていなかったのだ。
船星「……うん、ごめん。寝てた」
大神『お寝坊さんやな。もう夕方やで(笑)』
船星「……そうなんだ』
相変わらず元気な大神に、船星はついていけないので今すぐにでも電話を切りたくなった。しばらく無言でいると受話器の向こうから『大丈夫か?』と心配した大神の声が聞こえてくる。あ、まだ通話中なんだ。そう思い船星は返事をする。
船星「……うん、大丈夫だよ」
大神『ホンマか?なんか、めっさしんどそうやけど。お前まだ体調悪いんか?』
船星「!?どうしてわかるの?」
大神『どないもこないも、イルミネーション行く日、“体調悪い“からドタキャンしたやん自分。それにな最近風邪が流行っとるってバイト仲間が言うてたからなぁ。……ぁッ!?、エエこと思いつ〜いた!船星、今から1時間後にまた電話するさかい。すぐに出てなぁ』
急に通話が切れた。その後きっちり1時間後に大神から電話の着信が鳴る。
大神『船星。俺、今お前の家の前におるねん。部屋入れてくれへん?』
船星は慌てて部屋のカーテンを開け窓から外を眺めると携帯を片耳にあて、スーパーの袋を2、3袋手に持っている長身の青年(大神)がこちらに気付き身振り手振りで『開けろ』と言っていた。
End
お題『追い風』
後ろから吹いてくる風が僕の歩くスピードを少しだけ早くする。まるで誰かが背中を押してくれるかのように……。
そんな追い風に吹かれて道に落ちていた白いコンビニの袋が空へ舞い上がった。
船星(ふなぼし)は病院の帰りそれを目で追って家路に着くのだった。
End