よつば666

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お題『あたたかいね』

 体調を崩した船星(ふなぼし)の家に大神がスーパーの袋を2、3袋持って玄関のドアが開くの待っている。船星はパジャマの上からカーディガンを肩に羽織りマスクをして鍵とドアチェーンを解錠し玄関の扉を開けた。

大神「おう。ありがとう!早速やけど台所借りて良えか?」

船星「う、うん。いいけど。綺麗じゃないよ」

大神「かまへんよ。そんなん俺やるから。お前は部屋戻って休んどき。ってかお前の部屋2階か?」

船星「うん。2階の角部屋なんだ」

大神「そうか〜。じゃあ出来上がったら持って行くわ」

と言って大神は流し台に溜まった食器類を洗い始めた。船星は大神が何かを作ろとしていることだけは分かった。しかし一体何が出来るかまでは分からずにいた。船星は、リビングに取り付けられたエアコンのリモコンで冷房ボタンを押した。そして台所に置いてある小型のサーキュレーターのボタンを押し、大神の邪魔にならないように静かに自分の部屋へ帰る。
30分後船星の部屋からドアをノックする音が聞こえた。

船星「はい、開いてるよ」

と言っても大神は部屋に入るとしなかった。それどころかーーーー。

大神「悪りぃ、今、両手塞がっとるから開けてくれへんか?」

船星は言われた通りベットから降りてドアへ向かい開けた。現れた大神は両手でお盆を持っている。
お盆の上には鍋敷きの代わりに新聞紙が敷かれ、その上に小鍋が置いてある。小鍋の右隣には豆皿あり、本来の使用法と違い豆皿の上にレンゲと箸が置かれている。箸置きが見つからず、代わりらしい。船星はベット横のサイドテーブルの上に積まれた本をすぐさま片付けて、大神に「ここに置いて」と指示した。

お盆を置き、小鍋の蓋をぱかっと取る。中から湯気がふわっと上へ昇り同時にカツオの出汁の香りが部屋中に渡る。小鍋の中はうどんだった。かけうどんではなく白ネギと蒲鉾が2切れそれに卵が入った『月見うどん』だ。よく見ると出汁の色が違う。いつも船星食べるうどん出汁は黒っぽい。それとは比べものにならないほど薄い茶色だ。これが俗に言う“関西出汁“だろうか。ゴクリと唾を飲み込む。

大神「心配せんでも毒なんか入ってへん。俺さま特製の月見うどんや!味の保証はあるさかい、ゆっくり食べてや」

船星「あ、ありがとう。じゃあ、頂きます」

船星は手を合掌してからレンゲを持ち、出汁を掬い口へ運んびそれを嚥下した。鰹の他に昆布も含まれている。それだけじゃないほのかに甘いのはなんだろうか。出汁だけでも身体(からだ)が温まる。

船星「美味しいよ。それにすごくあたたかいね」

大神「せやろ。……アホぉ、病人に冷たいうどん出す奴(バカ)がどこにおるねん。出汁だけじゃなくうどんも食いや。1時間ほどしたらまた部屋来るわ」

船星「うん。ありがとう」

大神は部屋のドアを閉め、台所へ行き後片付けを始めた。

End

1/12/2025, 3:52:40 AM