お題『ゆずの香り』
今年も柚子を使った食飲料の品々が萌香の家に届けられた。ジャムにジュース、そして萌香お気に入りの柚子の皮が入ったシャーベット。
一口アイススプーンで掬い舌の上乗せるとすぐに溶け、さっぱりした柑橘系の甘味の中に少し皮の苦味がして柚子独特の香りが口いっぱいに広がる。小さなカップに入ったシャーベットはあっという間に食べ終えてしまった。
萌香「はぁ〜。美味しかったぁ!マミィ、今年は新作があるって英里(えり)さん言ってたよね?」
萌香の母親「うん。まだ試作段階らしくて使用したら感想が欲しいそうよ」
母親の友達、英里は柚子は勿論文旦(ぶんたん)や新高梨等果物を栽培してる農家に嫁いだ。都会生まれの彼女は田舎暮らしに憧れていたようで、萌香が幼稚園に入園した頃マッチングアプリで知り合った彼と2年の遠距離恋愛を経て萌香が幼稚園を卒業した年にめでたく結婚(ゴールイン)した。
段ボールの奥から小さい箱が出てきた。開けてみると液体の入った100ml程のボトルが3つ並べられ個々に【シャンプー】、【トリートメント】、【ヘアオイル】と記載されたラベルが貼付されている。
試しにボトルの蓋を開け香りを嗅ぐ。
すっきりとするほんのり甘い柑橘系、その中にもやはり柚子独特の皮の香りが混ざる。夏用に少しだけミントも配合されているようだ。
柚子の香りにはリラックス効果や落ち込んだ気持ちを向上させたり、苛立ちの緩和、気分転換、疲労回復等効果があるらしい。
楽しそうな萌香の表情を見て母親はホッと胸に手を添える。数日前まで萌香は酷く落ち込んでいたからだ。
萌香の母親「早速、柚子の香りの効果かしら(笑)」
と母親は微笑んだ。
End
お題『大空』
生徒Aと生徒Bは河川敷の芝生の上で寝転がり空を見上げていた。
生徒A「何にもやることないな」
生徒B「そうだな。俺も大神みたいにバイトしようかな」
生徒A「いいなそれ!大神に頼んでみようぜ!」
生徒B「いや、無理だろ。大神にそんな権限ねぇし……」
生徒A「マジか!?」
生徒B「バイトだからな」
生徒A「ワンチャン……」
生徒B「ねぇって」
晴れ渡った大空の下二人はこのあと河川敷に居たことに後悔するはめになった。
End
お題『ベルの音』
小学4年生の頃私(わたし)は学校から帰るとすぐにハル、〔越鳥(えっちょう)春美(はるみ)〕の家へ遊びに行っていた。私より後から来た転校生のハルは日本人の父とニュージランドの母の間に生まれたハーフだ。
転校初日、ハルの周りは質問ばかりするクラスメイトに囲まれていた。困り果てていたところを真珠星(すぴか)が助けたのがきっかけで二人は仲良くなった。
ある日いつものようにハルの家で遊んでいるとシャンシャン、リンリンと鈴の音が家中に鳴り響いていた。
真珠星「クリスマスのベルの音みたいで綺麗だね」
ハル「Yes。もうすぐクリスマスで、NZ L(ニュージランド)のフレンドがワタシの家でクリスマスパーティーを開くの。その時にママが歌を披露するみたいなの。夕方になると鈴を鳴らして練習してる」
真珠星「へぇ。ハルは歌わないの?」
ハル「ワタシは歌わないわ。去年とても恥ずかしい思いをしたから」
真珠星「何があったの?教えてくれる?」
ハルは誰にも内緒よと言いながらカタコトの日本語で教えてくれた。
ハルは自分が自覚しているくらい音痴である。パーティー当日とても緊張しまい練習の時より音程がめちゃくちゃになりピアノの伴奏を狂わしてしまい、とても笑い者にされたらしい。それからというのも合唱は全て口パクになったと内緒の話を語った。
End
お題『冬は一緒に』(今回に限り2つのお題を投稿します)
大神から誘われた夏のイルミネーション日の前日の夜。
船星(ふなぼし)「あの子も来るんだ」
とベット中でポツリと呟き、目を閉じてあの子の顔を思い出していた。あの子とは萌香のことである。
しかし船星は一つ疑問に思う、一体どうやって誘ったのだろう。休みの間に会った?それとも誰かに連絡を聞いた?頭の中で自問自答を繰り返していたら目が冴えてしまい眠れなくなった。時間は刻々と進みとうとう当日の朝を迎えてしまった。待ち合わせは夜だ。昼まで寝れば大丈夫と思い、一度ベットから降りようとしたが、体に力が入らない。僕は知恵熱を出してしまったらしい。動かない体に無理やり力を込めて携帯を手にした僕は大神にドタキャン連絡をメールで送った。メールの最後にこんな文章をつけた。
『この夏のイルミネーションが中止になった場合の話だけど冬は一緒に見れるといいな……なーんてね(笑)』
End【冬は一緒に】
お題『寂しい』
数年前から、両親は僕の事など気にせず、外国に行ったまま一度も帰ってこないのである。
生活費等は銀行にお金を入れてくれているので、不便は無い。
だけど、この広い家に一人でいるのは……寂しい。
特に、体調を崩した日なんてもっと寂しさを感じてしまう。
いっそ犬や猫のペットを飼って寂しさを紛らわすことができるんじゃ無いだろうかとふと思った。
End【寂しい】
お題『とリとめのない話』
大神小真莉(おおがみこまり)はとりとめのない話を長々と喋る。ターゲットは決まって大神家長男天河(てんが)である。
小真莉「お兄ちゃん、聞いてや!今日な朝ラジオ体操で学校行ったんやけど、ずるい奴が居ったんよ。小真莉ははじめから体操してんのに。凛(りん)ちゃん、明日から旅行行くんやってえぇなぁ。小真莉もどっか行きーたいーなぁ〜。近所の駄菓子屋あるんやんかぁ……」
大神は夏季補習が終わってからバイトに行くまでずっと妹につきまとわれ話しかけられていた。
自分の部屋で机に向かって夏休みの宿題をしている現在(いま)も。いい加減耳障りな話に我慢の限界を超えかけ小真莉を叱ろうとしたその時、次男の健太(けんた)がドアをノックして部屋に入り声をかけた。
健太「アニキ、母さんが台所に来てって呼んでる」
大神(天河)「……わかった。今行くわ」
椅子から立ち上がり小真莉から離れる時小真莉は大神の腕を掴んだが、無言で簡単にそれを振ほどかれた。
部屋を出る時ドアの近くに居た、健太に小声で「助かった」と礼を言った。
小真莉は、その場で座り込んで、泣きそうになりがらも健太をキッと睨む。
小真莉「健兄(けんにい)のいじわる」
健太「いじわるちゃうわ。本当(ホンマ)に母さんに呼ばれたんやからしゃーないやろ。それに兄貴の勉強の邪魔したらあかんやろ」
複雑な話になるが大神家3兄弟妹(きょうだい)は全員血が繋がっていない、異母兄弟妹である。長男の天河は前妻の子、次男の健太は愛人の子、長女の小真莉は後妻(今の母親)の子なのである。
End