お題『風邪』
今日はとても楽しみしていたイルミネーションの日。夜からだというのに朝からクローゼットの前でそわそわしている。
萌香「どうしょう〜。どんな服着て行こうかな」
すると、机の上に置いていた携帯からピロロン♪という音がなった。携帯を手に取り画面を見る。LeLien(ルリアン)に2通のメールが届いていた。
真珠星(すぴか)『ドタキャンでごめん💦昨日の夜から熱があってさ、体の怠さはマシになったんだけど、今朝になっても熱下がんなくてさ……。萌香がすごく楽しみにしてるの分かってるのに行けなくて本当(マジ)でごめん🙇♀️治ったらまた連絡する』
委員長『輪通(わづつ)さん、お早うございます。
あの当日の連絡でごめんなさい。祖母の体調が悪く看病する為今日行けなくなりました。本当にごめんなさい。』
2人の突然のキャンセルメッセージを読みそわそわから一気にずーんと心が沈んでしまった。たけど2人だって楽しみにしていたはずだとポジティブに考えた萌香は2人に『分かった。お大事に』という返信を返した。
昼過ぎ大神に2人の事を連絡しようとメールを作成していると大神から突然の電話の着信が来た。萌香は一瞬ドキッとして携帯を手から離してしまい床に落としてしまった。
萌香「あ、携帯が!?は、早く出なくちゃ」
鳴り続ける着信音。震える手で床から携帯を拾い電話に出る。
萌香「は、はい。もしもし」
大神『あ、やっと出てくれた。今日のイルミネーションの件なんやけど……。悪いんやけど延期にしても良(え)ぇかな。なんか今朝になって誘った友達皆んな体調悪いから行かれへんって言い出してドタキャンの嵐があったさかい–––––』
大神の声は聞こえている。しかし、話が全然頭に入ってこない。【延期】という言葉を聞いた後からだ。萌香は、携帯画面の受話器を切るアイコンをタップして電話を一方的に切った。切る間際まで大神は『もしもし』と言い続けていた。
数分後大神から延期にしてしまった謝罪のメールが届く。
夜、T Vを観ながら晩御飯を食べていると緊急放送が流れた。
T Vアナウンサー『昨日から季節外れのインフルエンザが流行しています。風邪のような症状が続く、または高熱が続く場合は個人で判断せず病院で診察を受診するようにして下さい』
萌香の母親「萌香も気をつけてね」
萌香「……うん」
萌香は食べ終えた食器を流し台へ置き自室に向かい大神からのメールを返すのだった。
End
お題『雪を待つ』
とても寒い日、幼い頃あたしはよくベランダから庭に出ては外で何かを待っていた。
幼少期の萌香「きょう、ふる?」
幼い萌香の問いに遊びに来ていた萌香の母親の友達、英里(えり)が答える。
英里「う〜ん。寒いから降るかもね」
幼少期の萌香「ちゃっくさん、ふるかな?」
英里「降ったら萌香は嬉しい?」
幼少期の萌香「うん!」
英里「あたしは微妙だなぁ」
幼少期の萌香「どうちて?」
英里「仕事に行けなくなるから……」
すると買い物から帰ってきた萌香の母親が庭にやって来た。
萌香の母親「英里。子守させてごめんね。すごく助かった。ありがとう」
英里「いいえ」
空から白くて丸い冷たいものが落ちてきた。
萌香の母親「降ってきたね。萌香〜。寒いからお家の中入ろう〜」
母親の呼びかけに答えベランダから家に入る。
そう、萌香の待っていたのは“雪“だったのです。
End
お題『イルミネーション』
夏季補習最終日の3時限終了後、萌香は意を決して大神に連絡先を聞いてみた。すると大神の反応は焦っていたりドキドキしている様子もなく全く表情を変えず制服のズボンのポケットから携帯を取り出しアドレス帳を萌香に見せた。
大神「ほい。怪しいサイトに俺の情報渡さんといてや〜(笑)」
萌香「怪しいサイトって何?」
大神は一瞬驚いた。
大神「……えっ!?まぁ、そんなん知らんで当たり前やな。(笑)俺もよう知らんし……。あ、下手に調べたらあかんで!!」
萌香「?…うん」
このネット社会で怪しいサイトがあることを知らない人が身近にいるとは思わなかった。10コ下の妹でさえそのサイトにアクセスしなくてもそういう情報は知っている。授業で習ったと自慢げに話していた。最近は授業の一環でプログラミングを習うらしい。
大神と萌香は荷物を持って教室を出た。
廊下を歩き一階へ向かう。萌香は少し寂しげに話す。
萌香「夏休みが終わるまでしばらく大神君と会えないんだね。寂しいなぁ、せっかく連絡交換したばかりなのに……」
チラリと大神の顔を見上げる。大神はこちらに見向きもせず答えた。
大神「そんなん言わんでも。いつでも、連絡してくれたらえぇやん」
萌香「本当に?」
大神「おう!」
やっとこちらの顔を見たかと思ったら目の前は靴箱だ。大神と萌香はそのまま別れ二人は家路に着く。
夕方萌香の携帯にメッセージが届いた。
『お疲れ。子猫ちゃん!今週の土曜日の夜に俺とイルミネーショ見に行かん?友達連れてみんなで遊ぼうや!!』
萌香は天にも昇る気持ちだ。速攻で返事を返した。もちろん答えは「Yes」しかないのである。
End
お題『愛を注いで』
毎月第3日曜日は商店街で町内バザーが開催されている。
祖父と祖母そして私(わたくし)の3人家族は毎月それに
出品側として参加していた。出品目は祖父が作った季節の野菜だ。小規模な畑で作る為数に限りはあるし、形が歪な物もあるのだが、それなりに人気があるようだ。
来場者は近所の人が多く、他県の人が来ることは滅多にない。
近所の人A「今月は何がおすすめですか?」
祖父「葉にんじんとトマトです」
近所の人A「じゃあ、それをいただくわ」
祖父「ありがとうございます。葉にんじんは1袋売りになりますが、よろしいですか?」
近所の人A「えぇ。良いですよ。あ、トマトは3つお願いします」
祖父「わかりました。袋詰めを致しますので、先に隣でお会計をお願いします」
近所の人Aは祖父の隣に立つ委員長に向かう。
祖父の後ろで祖母は手際よく野菜を袋つめしていく。
会計が終わった頃合いを見て、祖母は近所の人Aに袋を手渡す。
近所の人A「ありがとう。私ね、毎月、秋更(あきざら)さんの作るお野菜楽しみしてるの。また来るわね〜」
祖父「ありがとうございます。こちらもお待ちしております」
祖父は一礼した。商社で営業職に長年勤めていた祖父は退職した今でもバザーの時は昔を思い出し積極的に接客をしてくれている。
近所の人曰く祖父の対応はすごく丁寧である。それでいて祖父の作る野菜は美味しいと評価が高い。それは一つ一つ我が子のように愛を注いで作っているからだろう。
End
お題『心と心』
生活指導の教師ことヒ◯ラー似の穴黒(あなぐろ)は有給休暇消費の為休暇中の校長から夏季補習期間中の3日間、学校の見回りを頼まれていた。
穴黒「3日間と言わず、ずっと私(わたし)が校長に代わって再び公務をしても構わないのですがねぇ……」
穴黒はかつてこの学校の副校長だった。先代の病弱な校長に代わって公務を行なっていた。当時の教頭と穴黒はとても仲が悪く言い争いは日常茶飯事。それは教頭と穴黒が目指す生徒と教師の在り方が違っていたからだ。
当時の教頭「毎度毎度同じ事を言わせないでください!!あたくしは教師が生徒を暴力で従わせるなんておかしいと言っているのです!心と心を通わし話し合いで解決すれば良いではないですかっ!?」
穴黒「あの野蛮な生徒(猿達)が言葉を理解出来ないから教師はやむ終えずしてるだけだと言ってるだろう!!」
当時の教頭「まぁ〜!?生徒を猿呼ばわりですって!?もぅ〜っ耐えれません。副校長!あなたにはしかるべき処置をある方に実行して頂きますから!!」
そう言って教頭は辞表と書かれた封筒を副校長に叩きつけ職員室を出て行く。翌日の放課後PTAの会長と副会長、教育委員会の教育長が学校に訪れ生徒に対し暴力で指導したとされる3名の教師と副校長の処遇について言い渡された。
教育長「3名の教師はそれぞれ別の学校へ異動して頂きます。そして副校長あなたはこの学校に残り副校長としてではなく生活指導教師として勤務して頂きます。つまりは役職の格下げ、及び給料を現在の半分に削ります」
穴黒「そ、そんなぁ。し、しかしですね。私が今、副校長を降りたら学校はどうなるのですか!?校長は今、療養中ですし……」
教育長「問題ありません。明後日から急遽別の地方学校より新しく校長が赴任されますのでご安心を。それではこのあと教師の方々には異動先をお伝えしますのでこのまま残って下さい。副校長、いえ穴黒さんは即刻退室し自席を片付け願います」
穴黒「は、はい」
穴黒は席を立ち会議室から出ていく。今考えると当時の教頭の言うことは正しかった。だか、生徒にも非があると私は思っている。教師を舐め腐っていた生徒の態度が許せなかった。素行の悪い生徒を持つ担任がいつも職員室とは別の教室で隠れて泣いているのを私は授業中の廊下の見回りで知っている。生徒を正し道に戻すには時には暴力は仕方ないと私は思っていた。
あとから別の教師に聞いた話によれば当時の教頭は数年前から親しくしているPTAの会長に相談をし、PTAの会長が知り合いの教育委員に直接働きかけていたらしい。当時の教頭はよほど私の事が嫌いで「副校長」という役職を降ろしたかったんだろうなと思うのだった。
End