お題『雪を待つ』
とても寒い日、幼い頃あたしはよくベランダから庭に出ては外で何かを待っていた。
幼少期の萌香「きょう、ふる?」
幼い萌香の問いに遊びに来ていた萌香の母親の友達、英里(えり)が答える。
英里「う〜ん。寒いから降るかもね」
幼少期の萌香「ちゃっくさん、ふるかな?」
英里「降ったら萌香は嬉しい?」
幼少期の萌香「うん!」
英里「あたしは微妙だなぁ」
幼少期の萌香「どうちて?」
英里「仕事に行けなくなるから……」
すると買い物から帰ってきた萌香の母親が庭にやって来た。
萌香の母親「英里。子守させてごめんね。すごく助かった。ありがとう」
英里「いいえ」
空から白くて丸い冷たいものが落ちてきた。
萌香の母親「降ってきたね。萌香〜。寒いからお家の中入ろう〜」
母親の呼びかけに答えベランダから家に入る。
そう、萌香の待っていたのは“雪“だったのです。
End
お題『イルミネーション』
夏季補習最終日の3時限終了後、萌香は意を決して大神に連絡先を聞いてみた。すると大神の反応は焦っていたりドキドキしている様子もなく全く表情を変えず制服のズボンのポケットから携帯を取り出しアドレス帳を萌香に見せた。
大神「ほい。怪しいサイトに俺の情報渡さんといてや〜(笑)」
萌香「怪しいサイトって何?」
大神は一瞬驚いた。
大神「……えっ!?まぁ、そんなん知らんで当たり前やな。(笑)俺もよう知らんし……。あ、下手に調べたらあかんで!!」
萌香「?…うん」
このネット社会で怪しいサイトがあることを知らない人が身近にいるとは思わなかった。10コ下の妹でさえそのサイトにアクセスしなくてもそういう情報は知っている。授業で習ったと自慢げに話していた。最近は授業の一環でプログラミングを習うらしい。
大神と萌香は荷物を持って教室を出た。
廊下を歩き一階へ向かう。萌香は少し寂しげに話す。
萌香「夏休みが終わるまでしばらく大神君と会えないんだね。寂しいなぁ、せっかく連絡交換したばかりなのに……」
チラリと大神の顔を見上げる。大神はこちらに見向きもせず答えた。
大神「そんなん言わんでも。いつでも、連絡してくれたらえぇやん」
萌香「本当に?」
大神「おう!」
やっとこちらの顔を見たかと思ったら目の前は靴箱だ。大神と萌香はそのまま別れ二人は家路に着く。
夕方萌香の携帯にメッセージが届いた。
『お疲れ。子猫ちゃん!今週の土曜日の夜に俺とイルミネーショ見に行かん?友達連れてみんなで遊ぼうや!!』
萌香は天にも昇る気持ちだ。速攻で返事を返した。もちろん答えは「Yes」しかないのである。
End
お題『愛を注いで』
毎月第3日曜日は商店街で町内バザーが開催されている。
祖父と祖母そして私(わたくし)の3人家族は毎月それに
出品側として参加していた。出品目は祖父が作った季節の野菜だ。小規模な畑で作る為数に限りはあるし、形が歪な物もあるのだが、それなりに人気があるようだ。
来場者は近所の人が多く、他県の人が来ることは滅多にない。
近所の人A「今月は何がおすすめですか?」
祖父「葉にんじんとトマトです」
近所の人A「じゃあ、それをいただくわ」
祖父「ありがとうございます。葉にんじんは1袋売りになりますが、よろしいですか?」
近所の人A「えぇ。良いですよ。あ、トマトは3つお願いします」
祖父「わかりました。袋詰めを致しますので、先に隣でお会計をお願いします」
近所の人Aは祖父の隣に立つ委員長に向かう。
祖父の後ろで祖母は手際よく野菜を袋つめしていく。
会計が終わった頃合いを見て、祖母は近所の人Aに袋を手渡す。
近所の人A「ありがとう。私ね、毎月、秋更(あきざら)さんの作るお野菜楽しみしてるの。また来るわね〜」
祖父「ありがとうございます。こちらもお待ちしております」
祖父は一礼した。商社で営業職に長年勤めていた祖父は退職した今でもバザーの時は昔を思い出し積極的に接客をしてくれている。
近所の人曰く祖父の対応はすごく丁寧である。それでいて祖父の作る野菜は美味しいと評価が高い。それは一つ一つ我が子のように愛を注いで作っているからだろう。
End
お題『心と心』
生活指導の教師ことヒ◯ラー似の穴黒(あなぐろ)は有給休暇消費の為休暇中の校長から夏季補習期間中の3日間、学校の見回りを頼まれていた。
穴黒「3日間と言わず、ずっと私(わたし)が校長に代わって再び公務をしても構わないのですがねぇ……」
穴黒はかつてこの学校の副校長だった。先代の病弱な校長に代わって公務を行なっていた。当時の教頭と穴黒はとても仲が悪く言い争いは日常茶飯事。それは教頭と穴黒が目指す生徒と教師の在り方が違っていたからだ。
当時の教頭「毎度毎度同じ事を言わせないでください!!あたくしは教師が生徒を暴力で従わせるなんておかしいと言っているのです!心と心を通わし話し合いで解決すれば良いではないですかっ!?」
穴黒「あの野蛮な生徒(猿達)が言葉を理解出来ないから教師はやむ終えずしてるだけだと言ってるだろう!!」
当時の教頭「まぁ〜!?生徒を猿呼ばわりですって!?もぅ〜っ耐えれません。副校長!あなたにはしかるべき処置をある方に実行して頂きますから!!」
そう言って教頭は辞表と書かれた封筒を副校長に叩きつけ職員室を出て行く。翌日の放課後PTAの会長と副会長、教育委員会の教育長が学校に訪れ生徒に対し暴力で指導したとされる3名の教師と副校長の処遇について言い渡された。
教育長「3名の教師はそれぞれ別の学校へ異動して頂きます。そして副校長あなたはこの学校に残り副校長としてではなく生活指導教師として勤務して頂きます。つまりは役職の格下げ、及び給料を現在の半分に削ります」
穴黒「そ、そんなぁ。し、しかしですね。私が今、副校長を降りたら学校はどうなるのですか!?校長は今、療養中ですし……」
教育長「問題ありません。明後日から急遽別の地方学校より新しく校長が赴任されますのでご安心を。それではこのあと教師の方々には異動先をお伝えしますのでこのまま残って下さい。副校長、いえ穴黒さんは即刻退室し自席を片付け願います」
穴黒「は、はい」
穴黒は席を立ち会議室から出ていく。今考えると当時の教頭の言うことは正しかった。だか、生徒にも非があると私は思っている。教師を舐め腐っていた生徒の態度が許せなかった。素行の悪い生徒を持つ担任がいつも職員室とは別の教室で隠れて泣いているのを私は授業中の廊下の見回りで知っている。生徒を正し道に戻すには時には暴力は仕方ないと私は思っていた。
あとから別の教師に聞いた話によれば当時の教頭は数年前から親しくしているPTAの会長に相談をし、PTAの会長が知り合いの教育委員に直接働きかけていたらしい。当時の教頭はよほど私の事が嫌いで「副校長」という役職を降ろしたかったんだろうなと思うのだった。
End
お題『何でもないフリ』
夏季補習3日め朝。学校に着き校舎の内入理、靴箱から上履きに履き替え2階空き教室に向かっていた萌香。
階段を登り、途中の踊り場で両腕を上げて体を伸ばしていた。
萌香「ん〜〜っ。今日で最後かぁ」
すると萌香の背後から大神が声をかけて来た。
大神「おはようさん!萌香(子猫)ちゃん。こんなとこでボケーっと立っとたら遅刻すんで(笑)」
萌香「お、大神君!?おはよう!え、嘘!?遅刻?」
萌香は慌てて階段を駆け上がり走って空き教室まで向かう。教室の扉を開け一歩踏み出し––––。
萌香「間に合った〜」
と言いながら席に着く。隣の席に座る大神はくっくっくと笑いを堪えているが次第にあはははと大笑いし始めた。
萌香「何かおかしいことあったの?」
きょとんとした顔をする萌香。大神は笑いながら教室に飾られた時計を指差す。萌香は大神が指し示す方へ目をやる。
萌香「8時10分……遅刻じゃ……ない!?」
大神「子猫ちゃん騙されやすいタイプやなぁ。気をつけなあかんでぇ(笑)」
萌香「き、今日はたまたま油断しただけだもん!」
大神「今日はっていつも誰かに騙されとるんか?」
萌香「騙されてません〜」
この3日間大神と毎日会う中でだんだん仲良くなっていった二人。萌香は大神の前でただの補習仲間として好意のないフリをしていたが、内心はずっと心臓がバクバクしていたのだ。
3時限終了後萌香は、意を決して大神に伝える。
萌香「大神君!連絡先教えて!!」
End