お題『夢と現実』
夏期補習1日めが終わって、家に帰ってきた萌香。
自室に向かわずリビングに置いてある、ソファベットの上で横になり夏の暑い日差しにやられた体を冷房で冷やしていた。
萌香「あつ〜い、お腹空いた〜」
と言ってもお手伝いさんや、執事がいるわけでもましてや未来の猫型ロボットなんて現実にはいるわけがないのですぐに美味しい食事がテーブルの上に用意されることはない。それでも、冷蔵庫には母親が作ってくれたお弁当がある。萌香は気だる体を起こしてそれを取りに向かい、電子レンジという素晴らし家電製品に感謝しつつ温めボタンを押した。萌香はレンジの中央でクルクルと回るお弁当箱を眺めながら呟く。
萌香「電子レンジって人の夢と希望が現実になった機械だよね。これを最初に発明した人は偉大だなぁ」
萌香の言ったことは電子レンジに限ったことではない。この場に真珠星(すぴか)や委員長が居たらきっと
こういうのかも知れない。
『いや、それ以外にももっとあるだろう!?』
End
お題『さよならは言わないで』
幼い頃から父親の仕事の都合で何度も引越しや転校が多かった。私(わたし)はそれが嫌だった。友達ができて仲良くなっても1年、早ければ3ヶ月でその友達と別れることになるんだ。
小学校2年生の春、母親が嬉しそうに私達兄妹(きょうだい)に言った。
母親「お父さんの仕事、今度は長期滞在かも知れないわ」
真珠星(すぴか)「本当に?」
源星(りげる)「信用ならねぇな」
母親「本当よ。お父さんを信じてあげて」
源星「そう言って、何度も俺らを裏切って来たじゃねぇか!?あのクソ親父は!!」
走って玄関に源星は向かう。母親の引き止める声も聞かずドアを開け、そのまま外へ出て行った。真珠星はその場で泣き崩れる母親を横目に兄(源星)の後を追いかけ外に出た。源星はすぐに見つかった。アパートの目の前にある。砂場とブランコしかない小さな公園のブランコに座っていた。真珠星はそっと隣に立って源星の顔を覗き込むようにして声を掛けた。
真珠星「お兄ちゃん、み〜つけた!」
真珠星の満面の笑顔を見た源星は、心の中でずっと押さえていた気持ちが溢れ、言葉にならない声を押し殺して泣いてしまったのだ。
源星「……うぅっ」
兄の泣き顔を初めて見た真珠星は、後ろに回りぎゅっと抱きしめ優しい声で話す。
真珠星「次、転校する時は『さよならは言わないで、また会おう』ってクラスの皆んな言って別れよう」
泣いて気持ちが落ち着いたのか、鼻水をずるずると啜りながら
源星「あ“あ“……そうだな」
真珠星は源星が元気を取り戻したと理解して、勢いよくブランコを後ろから押した。そして––––
真珠星「家(アパートの部屋)まで競争〜」
と言って家に向かって走り出した。負けるまいとブランコから降りた源星は真珠星を追いかけて行った。
End
お題『光と闇の間で』
「世の中(現代社会)には光と闇がある。人々(私達)ははその間(はざま)で生きている。
学校生活においてもそれは当てはまるだろう。
仮りに【光】を司る生徒会とするならその逆を司る【闇】は風紀委員会だろうか。
ではその間(はざま)は一般生徒なのかそれとも我々教師なのか」
とブツブツ独り言を言いながらピ◯ソに似た教師が自分の席に座り頭を抱えながら悩んでいた。そこへ夏目◯石に似た男性教師、鷲崎(わしざき)が声を掛けた。
鷲崎「また悩み事ですか?八分儀(はちぶんぎ)先生」
ピ◯ソに似た教師こと八分儀は些細な事でも深く悩んでしまうのだ。
八分儀「はい。先ほど私も鷲崎先生と同様に1年の夏期補習生徒、補習クラスB組の監督をしてまして、その時補習に来ていた生徒が私に「光と闇の間」は何かと問われまして……」
鷲崎「なるほど、して先生の答えは?」
八分儀「それが……すぐには何も答えられませんでした」
鷲崎「まぁ、難しい質問ですからね」
八分儀「はい。その生徒私の答えがあまりにも遅いので、他の生徒に同じ質問をしていました」
鷲崎「他の生徒は何か答えましたか?」
八分儀「はい。光と闇は【政治】その間は【お金】だと答えていました」
鷲崎「なるほど。いろんな考えありますね」
八分儀「そうですね」
鷲崎「その内容、夏休み明けの職員会議に出してみますか?」
八分儀「え!?それはやめませんか。私、今以上に悩みそうです」
八分儀と鷲崎は鞄から弁当を取り出して昼食を食べ始めるのだった。
End
お題『距離』
夏季補習は午前中で終わる。教科時間にして3時限程度だ。一人の教師が一つの教室を監視する。
補習の課題は赤点(40点以下)を取った教科よって違う為個別で配られる。余談だが、萌香達がいる空き教室の振り分けは総合計点数で決まれられた順位である。
萌香達がいる補習A組は大神と樺本(かばもと)との会話、それに伴って急遽教師の変更により他の補習組と比べて大幅に時間が削られた。
萌香は代わりの教師より本日分の補習用紙を受け取る。
萌香「多い……これ今日中ですか?」
代わりの教師「そうだ。終わるまで帰れんぞ」
萌香「そう、ですか」
萌香の隣から声が聞こえる。どうやら萌香を呼んでいるらしい。
大神「なぁ、なぁ。子猫ちゃん」
萌香「あ、あたし?」
大神「そうや。自分や、あのさ日本史の教科書持ってへん?」
萌香は驚いて思わず大声を出しかけたが、すぐに自分の口を塞いだ。まさか隣の席に運命の人がいるなんて、思わなかった。あまりにも近い距離だったから気づかなかったのだ。萌香は鞄の中を探してみた。すると日本史の教科書が入っていた。しかし萌香は日本史は赤点を取っていないのだ、どうやら別の教科書と間違えて持って来てしまった。
萌香「はい。どうぞ」
萌香は大神に日本史の教科書を貸した。
大神「ありがとう。助かったわ。子猫ちゃんは俺に教科書かして大丈夫なん?」
萌香「に、日本史は大丈夫。あたし別の教科と間違っって持ってきたみたいだから」
大神「そうなんや。もし課題の中に忘れた教科書あったら言うてな、休み時間に取りに行くから」
萌香「ありがとう。その時はよろしくね」
大神「おぅ。任しとき〜」
萌香は心の中で––––。
『今、運命の人と会話して少しだけ心の距離が近づいた気がする』
と思うのだった。
End
お題『泣かないで』
夏休みの始まりはどうしても思い出してしまう。
中学生の頃に抱いた淡く涙の味がした初恋の想い出を–––––。
兄、源星(りげる)の友達、白鳥(しらとり)に夏祭りに誘われた日、真珠星(すぴか)は白鳥に自分の想いを伝える為に気合いを入れたが、履き慣れない下駄の所為で怪我をしてしまい告白どころではなかった。
あれから数日、リビングでT Vを観ながらカップのバニラアイスを食べている真珠星のスプーンを奪い、源星はそのスプーンでアイスをひとすくいして食べる。
源星「うん。美味い!」
真珠星は手に持ったアイスを食べようとしたが、手に違和感を覚えた。
真珠星「あれ!?スプーンがない?」
源星「スプーンってこれか?」
真珠星「……ぁ!?お兄ぃ。食べてたでしょ!?スプーン返してよ」
源星「食べたさそのアイス美味いな!もう一口くれたら返してやる!」
真珠星はカップを兄に手渡した。
真珠星「……はい」
源星「なんだよ今日は素直じゃねぇか」
断れると思った源星はいつもと違う真珠星に拍子抜けしてしまった。夏祭りの後家に両親がいるところでは心配かけまいと気丈に振る舞っているのを源星は知っていた。だから源星も普段通り真珠星にちょっかいを出す。一口、二口食べた後カップとスプーンを真珠星に返し、源星は真珠星に明後日白鳥の家に行くことを告げた。それに反応した真珠星は、源星の顔を見て一言放った。
真珠星「私も行きたい!連れてけ!」
ー明後日の夜ー
真珠星は源星と一緒に白鳥家に訪れた。そして屋上へ上がる。話を聞くに大学の課題で星の観察日誌を提出する為らしい。望遠鏡を覗くと無数の星が輝いていた。
真珠星「すごい綺麗ですね」
白鳥「そうだよね。都会と思えないくらい綺麗に見えるよね(笑)」
真珠星「はいっ!」
真珠星は感動していた。その様子を見て微笑む白鳥。
白鳥「真珠星ちゃん。元気になって良かったね。お兄ちゃん」
源星「お前の兄貴じゃねぇ。白(しら)の名前出したら途端に元気になったんだよ。あいつ」
白鳥「そうなんだ。ねぇ、僕達の関係知ったら真珠星ちゃん驚くかな?」
源星「だろうな。あいつお前のこと……」
真珠星「白鳥さん!望遠鏡覗いて下さい!夏の大三角形が見えますよ」
白鳥「わぁ、本当だね。源星も覗いてみなよ」
源星は望遠鏡を覗き込もうとした瞬間ズボンのポケットから携帯電話が鳴った。画面を見るとバイト先の店長からだ。
源星「わりぃ、ちょっと電話に出るわ」
そう言って屋上から出て行った。白鳥は真剣な顔をして真珠星に聞いて欲しい事があると伝えると、真珠星も私もですと応えた。
真珠星「あの……私、白鳥さんが好きです」
白鳥「ありがとう。……でも真珠星の想いには応えられない」
真珠星「どうしてですか?歳の差ですか!?」
白鳥「違うよ。真珠星ちゃんは僕の事多分男の人だと思っているよね?」
真珠星「はい」
白鳥「ごめんね。違うんだ僕は……女なんだ」
真珠星の目からポタリポタリと涙が溢れた。
白鳥「ごめんね。泣かないで!?騙すつもりはなかったんだ。本当にごめんね」
真珠星は焦る白鳥の言葉が全く聞こえないほどショックだった。
End