お題『泣かないで』
夏休みの始まりはどうしても思い出してしまう。
中学生の頃に抱いた淡く涙の味がした初恋の想い出を–––––。
兄、源星(りげる)の友達、白鳥(しらとり)に夏祭りに誘われた日、真珠星(すぴか)は白鳥に自分の想いを伝える為に気合いを入れたが、履き慣れない下駄の所為で怪我をしてしまい告白どころではなかった。
あれから数日、リビングでT Vを観ながらカップのバニラアイスを食べている真珠星のスプーンを奪い、源星はそのスプーンでアイスをひとすくいして食べる。
源星「うん。美味い!」
真珠星は手に持ったアイスを食べようとしたが、手に違和感を覚えた。
真珠星「あれ!?スプーンがない?」
源星「スプーンってこれか?」
真珠星「……ぁ!?お兄ぃ。食べてたでしょ!?スプーン返してよ」
源星「食べたさそのアイス美味いな!もう一口くれたら返してやる!」
真珠星はカップを兄に手渡した。
真珠星「……はい」
源星「なんだよ今日は素直じゃねぇか」
断れると思った源星はいつもと違う真珠星に拍子抜けしてしまった。夏祭りの後家に両親がいるところでは心配かけまいと気丈に振る舞っているのを源星は知っていた。だから源星も普段通り真珠星にちょっかいを出す。一口、二口食べた後カップとスプーンを真珠星に返し、源星は真珠星に明後日白鳥の家に行くことを告げた。それに反応した真珠星は、源星の顔を見て一言放った。
真珠星「私も行きたい!連れてけ!」
ー明後日の夜ー
真珠星は源星と一緒に白鳥家に訪れた。そして屋上へ上がる。話を聞くに大学の課題で星の観察日誌を提出する為らしい。望遠鏡を覗くと無数の星が輝いていた。
真珠星「すごい綺麗ですね」
白鳥「そうだよね。都会と思えないくらい綺麗に見えるよね(笑)」
真珠星「はいっ!」
真珠星は感動していた。その様子を見て微笑む白鳥。
白鳥「真珠星ちゃん。元気になって良かったね。お兄ちゃん」
源星「お前の兄貴じゃねぇ。白(しら)の名前出したら途端に元気になったんだよ。あいつ」
白鳥「そうなんだ。ねぇ、僕達の関係知ったら真珠星ちゃん驚くかな?」
源星「だろうな。あいつお前のこと……」
真珠星「白鳥さん!望遠鏡覗いて下さい!夏の大三角形が見えますよ」
白鳥「わぁ、本当だね。源星も覗いてみなよ」
源星は望遠鏡を覗き込もうとした瞬間ズボンのポケットから携帯電話が鳴った。画面を見るとバイト先の店長からだ。
源星「わりぃ、ちょっと電話に出るわ」
そう言って屋上から出て行った。白鳥は真剣な顔をして真珠星に聞いて欲しい事があると伝えると、真珠星も私もですと応えた。
真珠星「あの……私、白鳥さんが好きです」
白鳥「ありがとう。……でも真珠星の想いには応えられない」
真珠星「どうしてですか?歳の差ですか!?」
白鳥「違うよ。真珠星ちゃんは僕の事多分男の人だと思っているよね?」
真珠星「はい」
白鳥「ごめんね。違うんだ僕は……女なんだ」
真珠星の目からポタリポタリと涙が溢れた。
白鳥「ごめんね。泣かないで!?騙すつもりはなかったんだ。本当にごめんね」
真珠星は焦る白鳥の言葉が全く聞こえないほどショックだった。
End
お題『冬のはじまり』
一カ月経たないうちにまた双子の姉から手紙が届いた。前回の手紙の最後に殴り書きで書かれた。
【私(わたし)の代わりになって】
という文章を思い出し、手紙を読むことに躊躇する。
あの手紙以降姉に手紙の返信をしてない。
読まずに机の引き出しの奥へ閉まってしまいたい気持ちがある。けれどそうしないのは、もしかしたらおばあちゃん達に迷惑がかかる内容かも知れないと思うと途端にモヤモヤしてしまう。委員長は深呼吸して気持ちを少しばかり落ち着かせた。
手紙の内容は–––––––。
『双子の妹 可論(かろん)へ ねぇ、手紙届いてるよね?どうして手紙の返信してくれないの?忙しいの?やっぱり都会は楽しいのかな?羨ましいなぁ。可論だけずるいよ。“良い“思いばかりして……。ねぇ私(わたし)達双子だから、独り占めしちゃダメだよ。冬のはじまりに可論の家に遊び行くから待っててね。 優しいお姉ちゃんより』
冬の始まり……。今、7月の下旬夏休みが始まったばかりだ。となると11月の終わりもしくは12月の初めか……。どうしようかと考えているともう1枚小さな紙が封筒から落ちた。開いて見るとまた書き殴った文字で–––––。
【逃げちゃ駄目だよ】
と書かれていた。
End
お題『終わらせないで』
夏季補習で学校に登校してきた萌香。
これから三日間空き教室で補習授業が行われる。
教室の周りを見ると、ちらほら同じクラスの人でいれば、クラスの違う全く知らない人もいた。
萌香は空いている、窓際の方へ座った。
予鈴が鳴って、本鈴が鳴り始めた頃一人の男子生徒が教室に入ってきた。
大神「ま、間に合った」
男子生徒の背後に高身長で褐色のクレオパ◯ラに似た黒髪ストレートロングの女性教師が声を掛けた。
女性教師「大神君、遅刻ね。」
大神「カ、カバちゃん!?今日だけ多めに見てぇや。お願いやから」
大神にカバちゃんと呼ばれた女性教師こと樺本(かばもと)は萌香のクラスの副担任である。因みに担当教科は世界史だ。
樺本「ん〜。賄賂(わいろ)次第ね」
大神「はぁ?賄賂?それ教師がしたらアカンやろ」
樺本は鼻で笑う。
樺本「甘いわね。大神君、この学校は賄賂が罷(まか)り通る学校よ!!」
大神「アホくさっ。付き合ってらんねぇ」
そう言って大神は空いている席に座る。
樺本「ちょっとまだ、交渉中よ!勝手に会話を終わらせないで頂戴!!」
夏休み中の静かな廊下で樺本の声が響く。背後から樺本の右肩を誰かが叩いた。
樺本「なんですか!また遅刻者です……か」
後ろを振り向いた樺本の顔が青ざめていく、肩を叩いたのはヒ◯ラーに似た生活指導の教師だった。
彼は校長に夏期講習中、学校の廊下の見回りを頼まれていたのだ。
生活指導「樺本先生、その賄賂について詳しくお聞きしたいので今から、指導室までご同行願います」
樺本「……はい」
樺本は下を向いて生活指導に連れて行かれてしまった。数分後樺本先生の代わりにやってきたのは明日萌香達に補習を行う教師だったという。
End
お題『愛情』
夏季補習一日目の朝、萌香は母親と朝食を食べていた。
萌香「マミィのご飯ってどうして美味しいのぉ」
萌香の母「それはね。私の愛情がた〜っぷり入っているからよ」
萌香「そっか、だから美味しいんだね。でもパパがご飯作った時美味しくないのは愛情が入ってないから?」
萌香の母「それは、違うわよ!(笑)ちゃんと愛情が入ってるのよ。ただ……」
萌香「ただ?」
萌香の母「パパは料理が不得意なだけ。仕事で家族が揃って会う機会が少ないけど、いつも電話やメールで萌香の事が好き過ぎて心配しているのよ。たまにはパパにメールしてあげてね」
萌香の母は、食べ終わった食器をキッチンの流し台へ持っていき、洗い始めた。少ししてから萌香も食器を流し台へ持っていく。その後洗面所で歯を磨き、2階にある自分の部屋へ通学カバンを撮りに行った。
この後、母の車で最寄駅まで送ってもらうのだ。
萌香の母親が玄関先で萌香の名前を呼んでいる。
萌香の母「萌香〜!そろそろ、出ないと遅刻するわよ」
萌香「は〜い」
この時萌香は母の言われた通りパパの携帯へ愛情の証❤️マークだらけのメールを送るのだった。
End
お題『微熱』
水泳の補習二日目。船星(ふなぼし)は昨日と同じように1コースめで泳いでいた。
水泳部部長に教えてもらった通り息づきをすると、25m一度も足をつけずに泳ぎきることができた。
船星はもう一度25m泳いた後、プールから上がり、プーサイドで休憩をとっていると、水の入った500㎖のペットボトルを持って誰かが船星の頬に当てた。
船星は思わず––––。
船星「冷たっ!?」
と言って、見上げると昨日息づきを教えてくれた水泳部部長が隣で立って笑っていた。
水泳部部長「お疲れ。見てたぜ、お前の平泳ぎ。まだぎこちないが、最初に比べたらちゃんと息づき出来てる。家で練習したのか?」
船星は照れくさそうに、頷いた。
家でしていた息づきの練習方法は、水の張った洗面器を顔につけて10秒ごとに顔を上げる方法だった。この方法は水泳部部長が子供の時に通っていたスイミングスクールの先生から教えてもらったらしい。
水泳部部長は今でこそ人に教えるほど泳ぐのが上手くなったが、子供頃は船星のように息づきが下手でよく息を止めて泳いでいて、スイミングスクールの先生にいつも怒られていたそうだ。
十分な休憩を取った後船星は再び泳ごうとしたら、足元がふらついてしまいそのまま倒れてしまった。
どうやら熱中症になってしまっていた、それに微熱も有り、船星は大きめのタオルを体に巻き付けられてそのまま保健室に運ばれた。
2〜3時間後目が覚めた。船星は上半身を起こし周辺を見渡した。
船星「どうして、保健室にいるの?」
その声を聞いた。保健室の先生がカーテンを開けて船星の額に手を当てた。
保健室の先生「熱は引いたみたいね。学年と名前言える?」
船星「はい。1年B組、船星 渉(わたる)です」
保健室の先生「気持ち悪いとかまだ体が熱いとかある?」
船星「いえ。ありません」
保健室の先生「そう、じゃあ。着替えてから、今から渡す用紙を持って牛海(うしかい)先生の所に行って捺印貰ってきて。あぁ、それと水泳部部長にお礼言いなさいよ。ここまで運んで来てくれたから」
船星「分かりました。ありがとうございます」
船星は保健室の先生から【診察結果】と書かれた用紙を手渡された。仮病で保健室を使おうとする生徒を減らす為に作られた規則だ。
船星は枕元に置かれたTシャツをとりあえず着て、プールへ向かい、水泳部部長にお礼を言うと、水泳部部長は船星に謝罪した。船星の体調不良に気が付かなかったのは自分のせいだと言い出した。しかし船星は自分にも非があると言い互いに詫びる。そこに牛海がいたので、捺印を貰いたい旨を伝えると、船星から用紙を受け取り職員室へ向かう。
牛海「着替えたら、俺の机の上にこの紙を置いておくから取りに来いよ」
船星「は、はい。……あの補習は?」
牛海「ん?あぁ。今日で終わりだ。お疲れ!」
船星は補習が終わりほっとしたと同時に少し寂しさも感じた。せっかく知り合えた水泳部部長に会えなくなるのが残念だなと思うのだった。
End