お題『太陽の下で』
夏休みが始まった初日、僕は学校に来ている。
夏季補習生と全く別の理由で僕は今、補習を受けている最中だ。
夏の照りつける太陽の下で、僕はプールサイドで準備運動をしていた。体力の無い僕はこの準備運動だけでバテてしまいそうになる。
何故、僕がプールにいるかというと、体育で水泳の授業の時運悪く夏風邪を引いてしまい、出席日数が足りなかったのだ。補習人数は比較的少なかった。
まぁ、無料でプールに入る機会は滅多にない。何より水の中だから陸上に比べて暑さも少し和らぐので体調が万全な生徒は出席していることが多いので男子で補習を受ける生徒は少ないのが理由だ。
プールの1コース目で僕は平泳ぎをしていると、プールサイドから声が聞こえる。25m泳ぎ切った後僕は、一度プールから上がると目の前にガタイのいい男性が仁王立ちしていた。そして僕に声を掛けた。
男性「君、息継ぎしないのかい?」
僕は下を向いたまま答えた。
船星「う、上手く出来なくて……」
男性「それは危険だな、少し休憩した後教えてあげるよ」
その男性は半ば強引に船星に息継ぎ法を教えた。
休憩中に話を聞くと船星より2年上つまり3年生の水泳部部長をしている。午後から部活で使う為午前中は準備に来ていたのだ。
水泳部部長「明日も、補修で来るのかい?」
船星「あ、はい。」
水泳部部長「そうか、じゃあまた明日な!気をつけて帰れよ」
船星「は、はい。ご指導ありがとうございました」
船星はその先輩に向けて深く頭を下げた。
夏の太陽の下で、汗をかきながら船星は家路つくのだった。
End
お題『セーター』
祖母が私(わたくし)の名前を何度も呼んでいる。
祖母「可論(かろん)ちゃん、可論ちゃん」
委員長(可論)「何?おばぁちゃん」
祖母「今年の冬はすごく寒くなるらしいじゃない。だから今からお祖父さんの為に手編みのセーターを編もうかなって思うんだけど今年はどの色がいいかしら?」
手先の器用な祖母は編み物が趣味でセーターは勿論、手袋、マフラーを毎年手編みしている。まだ夏だというのに準備が早いなぁと毎年思っていた。
委員長「去年は、黒だったから。今年はベージュとか柔らかい色がいいじゃないかな」
祖母「ベージュ?……あぁ!?肌色ね」
祖母には聞き馴染みのない色だったが、すぐに理解してくれた。祖母は毛糸ボックスと書かれた箱から毛糸を探しいたがベージュ色は無かった。
すると祖母は少ししょんぼりした顔で––––。
祖母「明日お店に行こうと思うのだけど、珍しい色だ売ってると思う?」
委員長「大丈夫だよ。もし売ってなかったらネットで私が買うわ。だから心配しないで一度確かめに行ってみって」
その言葉を聞いた祖母はにっこりと笑っていた。
End
お題『落ちていく』
夕食の後食器洗いを終えて家事が一息ついた頃萌香の母親がリビングで寛(くつろ)いでいる萌香に自分が高校生だった頃の夏の思い出を語り出した。
萌香の母親「今朝ね、とても懐かしい思い出の夢を見てのよ」
萌香「どんなの?」
萌香の母親「パパと出会う前。ママがそうね萌香くらいの歳、高校生だった頃の夢よ」
萌香の母親は夏休みに入ってすぐ、モデルやアイドルの新人発掘オーディションに応募していた。
当時の夢が女優になることだったので、その下積みとして先ほど述べた職業に応募したが全て一次審査で落ちていくのだった。
夏休み期間だったし、大手の芸能プロダクショが募集していたこともあってか募集人数も通常の2倍、3倍はあったと後日オーディションを取材していた雑誌の記事に書かれていた。
それでも諦めることができず、萌香の母は高校生2年生の夏に大人気シリーズのドラマの撮影が近日地元であるという噂を近所の人が話しているのを偶然聞きいたのである。
しかもそのドラマのエキストラを募集しているらしい。萌香の母親は早速応募してみた。結果はまたしても落選してしまったという。
萌香「マミィの夢って女優だったのね」
萌香の母親「そうよ。何度、応募しても落ちるばかりでね……」
萌香「もし受かっていたらパパと出会わなかったの?」
萌香の母親「かも知れないわね(笑)」
ジリリリーンと一本の電話がなった。萌香の母親は電話に出た。電話の相手はパパだったらしく母親は嬉しいそうに話している。その様子を温かいミルクティーの入ったマグカップをスプーンでくるくるとかき混ぜながら萌香は、母親の電話が終わるのを待っていた。
End
お題『夫婦』
学校から帰って来るとリビングから女性の啜り泣く声が聞こえる。
萌香は、恐る恐るリビングの扉を開けると……。
そこには面識のない太ったおばさんが泣いていた。
萌香「だ、誰?家間違えた??」
萌香の頭の中はパニックだ。静かにリビングの扉を閉め玄関の方へ歩きドアに手を掛けた瞬間ガチャりとドアが開いた。萌香はドアに引っ張られそのまま入ってきた人とぶつかってしまった。
萌香の母親「あら、大丈夫?萌香」
聞き慣れた声、顔を上げると母だった。萌香は幼い少女に戻ったように母親に抱きついた。
萌香「マ、マミィ〜💦」
萌香の母親「どうしたの?何かあった?」
萌香「り、リビングに知らないおばさんがいるの!?」
萌香の母親「萌香覚えてないの?2件隣の町内会の会長さんよ」
萌香「覚えてないよぉ。ってかその会長さんがどうして家にいるの?」
玄関で母親と話しているとリビングにいる会長がこちらにやってきた。
会長「輪通(わづつ)さん、どうなさったの?」
萌香「すみません。娘がちょっと怖いものを見たらしくて」
会長「そうなの?今、すごく良いシーンだから静かにしてくれるかしら」
萌香の母「は、はい。すみません。私、外で娘と話して来ますね(苦笑)」
そう言って萌香の母は萌香を連れて玄関の外を出た。
母親の話を聞く限り、会長は昼過ぎに夫婦喧嘩をしたらしい。夕方になっても自分の家に帰らない為、さっき会長の家に行って、旦那さんに家に帰って来るようにお願いして来たのだった。
会長の旦那「妻が長居してすみません。今から連れて帰りますので、家の中にお邪魔してもよろしいでしょうか?」
背が低く、紳士のように優しい声の老人が萌香の母に尋ねた。
萌香の母「えぇ。会長(奥様)はリビングにいらっしゃいますよ。玄関から右にある部屋がリビングです」
会長の旦那「そうですか。ありがとうございます」
会長の旦那は軽く会釈し、萌香の家へ入って行った。
数分後旦那と共に会長は萌香の家から出てきた。
会長「輪通さん、お邪魔しました。お茶菓子美味しかったわ。ご馳走様」
会長は機嫌良く旦那と腕を組んで自分の家へ帰って行った。どうやら仲直りしたらしい。
ご近所の話によると会長夫妻はつまらないことでいつも喧嘩するらしく、今回は昼ドラと高校甲子園のTVを観る権利の争いだったのである。
End
お題『どうすればいいの?」
夏季補習生の発表が職員の掲示板い貼られた金曜日の5時限終了後の休憩中、僕は授業で出題された宿題をしていた。その時血相変えた大神が僕の席に来て勢いよく机を叩いた。そして珍しく落ち込み、吊り上がった眉がハの字になって悲しい顔を僕に向ける。
僕はかける言葉を探した。
船星「どうしたの?」
大神「聞いてくれるか船星!俺な、これからどうしたええと思う?」
疑問を疑問で返されても、全く理解出来ないでいると生徒Aが大神に変わって説明してくれた。どうやら大神の名前が夏季補習生の中にあったらしい。夏休みは全てバイトに費やすつもりだったみたいで今更バイトのシフトを変更して貰うのは難しいかも知れないと嘆いている。
船星「僕にどうすればいいか聞かれても困るよ。ここは素直にそのバイト先に説明して、シフト変えて貰うしかないんじゃないかな」
大神「せやな。俺、頑張って交渉してみるわ。ありがとう。あ、そう言えば、職員室の廊下で萌香(子猫)ちゃん見たで、なんや悲しんでたり、喜んでたり。表情コロコロ変わって忙しいそうやったわ(笑)」
船星「そ、そうなんだ。あの子も補習生なのかな?」
大神「分からんわ。俺ら名前知らんしな」
チャイムが鳴り休憩が終わった。そして6時限が始まった、僕は慌てて宿題を机の中にしまい教科書を机の上に置くのだった。
End