よつば666

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11/27/2024, 8:08:41 AM

お題『微熱』

 水泳の補習二日目。船星(ふなぼし)は昨日と同じように1コースめで泳いでいた。
水泳部部長に教えてもらった通り息づきをすると、25m一度も足をつけずに泳ぎきることができた。
船星はもう一度25m泳いた後、プールから上がり、プーサイドで休憩をとっていると、水の入った500㎖のペットボトルを持って誰かが船星の頬に当てた。
船星は思わず––––。

船星「冷たっ!?」

と言って、見上げると昨日息づきを教えてくれた水泳部部長が隣で立って笑っていた。

水泳部部長「お疲れ。見てたぜ、お前の平泳ぎ。まだぎこちないが、最初に比べたらちゃんと息づき出来てる。家で練習したのか?」

船星は照れくさそうに、頷いた。
家でしていた息づきの練習方法は、水の張った洗面器を顔につけて10秒ごとに顔を上げる方法だった。この方法は水泳部部長が子供の時に通っていたスイミングスクールの先生から教えてもらったらしい。
水泳部部長は今でこそ人に教えるほど泳ぐのが上手くなったが、子供頃は船星のように息づきが下手でよく息を止めて泳いでいて、スイミングスクールの先生にいつも怒られていたそうだ。
十分な休憩を取った後船星は再び泳ごうとしたら、足元がふらついてしまいそのまま倒れてしまった。
どうやら熱中症になってしまっていた、それに微熱も有り、船星は大きめのタオルを体に巻き付けられてそのまま保健室に運ばれた。
2〜3時間後目が覚めた。船星は上半身を起こし周辺を見渡した。

船星「どうして、保健室にいるの?」

その声を聞いた。保健室の先生がカーテンを開けて船星の額に手を当てた。

保健室の先生「熱は引いたみたいね。学年と名前言える?」

船星「はい。1年B組、船星 渉(わたる)です」

保健室の先生「気持ち悪いとかまだ体が熱いとかある?」

船星「いえ。ありません」

保健室の先生「そう、じゃあ。着替えてから、今から渡す用紙を持って牛海(うしかい)先生の所に行って捺印貰ってきて。あぁ、それと水泳部部長にお礼言いなさいよ。ここまで運んで来てくれたから」

船星「分かりました。ありがとうございます」

船星は保健室の先生から【診察結果】と書かれた用紙を手渡された。仮病で保健室を使おうとする生徒を減らす為に作られた規則だ。
船星は枕元に置かれたTシャツをとりあえず着て、プールへ向かい、水泳部部長にお礼を言うと、水泳部部長は船星に謝罪した。船星の体調不良に気が付かなかったのは自分のせいだと言い出した。しかし船星は自分にも非があると言い互いに詫びる。そこに牛海がいたので、捺印を貰いたい旨を伝えると、船星から用紙を受け取り職員室へ向かう。

牛海「着替えたら、俺の机の上にこの紙を置いておくから取りに来いよ」

船星「は、はい。……あの補習は?」

牛海「ん?あぁ。今日で終わりだ。お疲れ!」

船星は補習が終わりほっとしたと同時に少し寂しさも感じた。せっかく知り合えた水泳部部長に会えなくなるのが残念だなと思うのだった。

End

11/26/2024, 8:04:46 AM

お題『太陽の下で』

 夏休みが始まった初日、僕は学校に来ている。
夏季補習生と全く別の理由で僕は今、補習を受けている最中だ。

夏の照りつける太陽の下で、僕はプールサイドで準備運動をしていた。体力の無い僕はこの準備運動だけでバテてしまいそうになる。

何故、僕がプールにいるかというと、体育で水泳の授業の時運悪く夏風邪を引いてしまい、出席日数が足りなかったのだ。補習人数は比較的少なかった。
まぁ、無料でプールに入る機会は滅多にない。何より水の中だから陸上に比べて暑さも少し和らぐので体調が万全な生徒は出席していることが多いので男子で補習を受ける生徒は少ないのが理由だ。

プールの1コース目で僕は平泳ぎをしていると、プールサイドから声が聞こえる。25m泳ぎ切った後僕は、一度プールから上がると目の前にガタイのいい男性が仁王立ちしていた。そして僕に声を掛けた。

男性「君、息継ぎしないのかい?」

僕は下を向いたまま答えた。

船星「う、上手く出来なくて……」

男性「それは危険だな、少し休憩した後教えてあげるよ」

その男性は半ば強引に船星に息継ぎ法を教えた。
休憩中に話を聞くと船星より2年上つまり3年生の水泳部部長をしている。午後から部活で使う為午前中は準備に来ていたのだ。

水泳部部長「明日も、補修で来るのかい?」

船星「あ、はい。」

水泳部部長「そうか、じゃあまた明日な!気をつけて帰れよ」

船星「は、はい。ご指導ありがとうございました」

船星はその先輩に向けて深く頭を下げた。
夏の太陽の下で、汗をかきながら船星は家路つくのだった。

End

11/25/2024, 9:46:47 AM

お題『セーター』

 祖母が私(わたくし)の名前を何度も呼んでいる。

祖母「可論(かろん)ちゃん、可論ちゃん」

委員長(可論)「何?おばぁちゃん」

祖母「今年の冬はすごく寒くなるらしいじゃない。だから今からお祖父さんの為に手編みのセーターを編もうかなって思うんだけど今年はどの色がいいかしら?」

手先の器用な祖母は編み物が趣味でセーターは勿論、手袋、マフラーを毎年手編みしている。まだ夏だというのに準備が早いなぁと毎年思っていた。

委員長「去年は、黒だったから。今年はベージュとか柔らかい色がいいじゃないかな」

祖母「ベージュ?……あぁ!?肌色ね」

祖母には聞き馴染みのない色だったが、すぐに理解してくれた。祖母は毛糸ボックスと書かれた箱から毛糸を探しいたがベージュ色は無かった。
すると祖母は少ししょんぼりした顔で––––。

祖母「明日お店に行こうと思うのだけど、珍しい色だ売ってると思う?」

委員長「大丈夫だよ。もし売ってなかったらネットで私が買うわ。だから心配しないで一度確かめに行ってみって」

その言葉を聞いた祖母はにっこりと笑っていた。

End

11/24/2024, 9:03:01 AM

お題『落ちていく』

夕食の後食器洗いを終えて家事が一息ついた頃萌香の母親がリビングで寛(くつろ)いでいる萌香に自分が高校生だった頃の夏の思い出を語り出した。

萌香の母親「今朝ね、とても懐かしい思い出の夢を見てのよ」

萌香「どんなの?」

萌香の母親「パパと出会う前。ママがそうね萌香くらいの歳、高校生だった頃の夢よ」

萌香の母親は夏休みに入ってすぐ、モデルやアイドルの新人発掘オーディションに応募していた。
当時の夢が女優になることだったので、その下積みとして先ほど述べた職業に応募したが全て一次審査で落ちていくのだった。
夏休み期間だったし、大手の芸能プロダクショが募集していたこともあってか募集人数も通常の2倍、3倍はあったと後日オーディションを取材していた雑誌の記事に書かれていた。
それでも諦めることができず、萌香の母は高校生2年生の夏に大人気シリーズのドラマの撮影が近日地元であるという噂を近所の人が話しているのを偶然聞きいたのである。

しかもそのドラマのエキストラを募集しているらしい。萌香の母親は早速応募してみた。結果はまたしても落選してしまったという。

萌香「マミィの夢って女優だったのね」

萌香の母親「そうよ。何度、応募しても落ちるばかりでね……」

萌香「もし受かっていたらパパと出会わなかったの?」

萌香の母親「かも知れないわね(笑)」

ジリリリーンと一本の電話がなった。萌香の母親は電話に出た。電話の相手はパパだったらしく母親は嬉しいそうに話している。その様子を温かいミルクティーの入ったマグカップをスプーンでくるくるとかき混ぜながら萌香は、母親の電話が終わるのを待っていた。

End

11/23/2024, 9:01:41 AM

お題『夫婦』

 学校から帰って来るとリビングから女性の啜り泣く声が聞こえる。
萌香は、恐る恐るリビングの扉を開けると……。
そこには面識のない太ったおばさんが泣いていた。

萌香「だ、誰?家間違えた??」

萌香の頭の中はパニックだ。静かにリビングの扉を閉め玄関の方へ歩きドアに手を掛けた瞬間ガチャりとドアが開いた。萌香はドアに引っ張られそのまま入ってきた人とぶつかってしまった。

萌香の母親「あら、大丈夫?萌香」

聞き慣れた声、顔を上げると母だった。萌香は幼い少女に戻ったように母親に抱きついた。

萌香「マ、マミィ〜💦」

萌香の母親「どうしたの?何かあった?」

萌香「り、リビングに知らないおばさんがいるの!?」

萌香の母親「萌香覚えてないの?2件隣の町内会の会長さんよ」

萌香「覚えてないよぉ。ってかその会長さんがどうして家にいるの?」

玄関で母親と話しているとリビングにいる会長がこちらにやってきた。

会長「輪通(わづつ)さん、どうなさったの?」

萌香「すみません。娘がちょっと怖いものを見たらしくて」

会長「そうなの?今、すごく良いシーンだから静かにしてくれるかしら」

萌香の母「は、はい。すみません。私、外で娘と話して来ますね(苦笑)」

そう言って萌香の母は萌香を連れて玄関の外を出た。
母親の話を聞く限り、会長は昼過ぎに夫婦喧嘩をしたらしい。夕方になっても自分の家に帰らない為、さっき会長の家に行って、旦那さんに家に帰って来るようにお願いして来たのだった。

会長の旦那「妻が長居してすみません。今から連れて帰りますので、家の中にお邪魔してもよろしいでしょうか?」

背が低く、紳士のように優しい声の老人が萌香の母に尋ねた。

萌香の母「えぇ。会長(奥様)はリビングにいらっしゃいますよ。玄関から右にある部屋がリビングです」

会長の旦那「そうですか。ありがとうございます」

会長の旦那は軽く会釈し、萌香の家へ入って行った。
数分後旦那と共に会長は萌香の家から出てきた。

会長「輪通さん、お邪魔しました。お茶菓子美味しかったわ。ご馳走様」

会長は機嫌良く旦那と腕を組んで自分の家へ帰って行った。どうやら仲直りしたらしい。
ご近所の話によると会長夫妻はつまらないことでいつも喧嘩するらしく、今回は昼ドラと高校甲子園のTVを観る権利の争いだったのである。

End

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