お題『もう一つの物語』
これから語るもう一つの物語は萌香の友達、穂先(ほさき) 真珠星(すぴか)が萌香と出会う前の話である。
当時中学2年生の真珠星はいつも家に遊びに来る五つ上の兄、源星(りげる)の友達白鳥(しらとり)に恋をしていた。
1学期の終業式を終え自宅に帰ると出迎えたのは家族ではなく遊びに来ている白鳥だった。
白鳥「お帰り、真珠星ちゃん。外、暑かったでしょう。さっさ、特等席に座って冷たい麦茶をどうぞ」
特等席とはリビングの中で一番エアコンのクーラーの風が当たる場所だ。真珠星は鞄を手に持ったまま白鳥に背中を押されながらダイニングチェア(特等席)に座らされた。それと同時にガラスのコップに冷蔵庫の冷凍室から取り出した氷が入る、母親が作った麦茶を白鳥はコップに注ぎ入れ真珠星の目の前に差し出した。
真珠星「……あ、ありがとうございます」
真珠星は自分の家の麦茶だと頭で理解しているものの好きな人が“自分の為“に淹れてくれた。ただそれだけなのに少し緊張してしまい、震える手でコップを持ちそして麦茶を一気に飲み干した。
白鳥「いい飲みっぷりだね。将来が楽しみだ(笑)」
真珠星「どういう意味ですか?!」
と少し嫌味っぽく言うと。兄が白鳥と真珠星の間に割り込んで来た。
源星「そりゃ、お前酒豪って意味だよ(笑)」
真珠星「嘘っだ〜。おにぃ嘘つきだから信用できない!」
兄妹のやりとりがこれ以上長引くと喧嘩に発展しそうだったので、白鳥は真珠星の機嫌を取る為、翌日行われる地元の夏祭りに誘った。
真珠星は天にも昇る思いだ。その時決意した、このチャンス逃してたまるか!!と……
End
お題『暗がりの中で』
船星(ふなぼし) 渉(わたる)。彼には長年悩み続けているコンプレックスがある。他人からすれば悩む必要がない寧ろ親に感謝すべき事なんだろう。
小学生の時僕は良く女の人から告白された。それは中学生になっても続いていた。初めは何故か嬉しかった。でも一度も付き合うことはしなかった。だって僕には告って来た人に対して、その感情がまだなかったからだ。そんな事が続いた中学1年のある暑い日、体育祭の準備で体育館倉庫にいたら、1年上の女の先輩が僕に告白してきた。勿論僕はいつものように断った。だって一度も面識ない知らない人だったから……。
そしたら今度は僕に逆恨みした1年上の男の先輩が僕を殴って体育倉庫に閉じ込めたんだ。
暗がりの中で、僕は体育座りをして嘆いた。
船星「どうして殴られなくちゃいけないだ?!僕は……悪くない……悪いのはこの顔のせいだ!!」
船星の顔は目鼻立ちが整っている。幼さが残る所謂子犬系男子だ。
船星は体育倉庫に閉じ込められて以来前髪を伸ばし顔を見せないようになると途端に告白の数は減少をした。
彼が家の人以外の女性と話すのが苦手なのはこれとはまた別の話である。
End
お題『紅茶の香り』
湖畔でBBQを満喫した後は自由時間だった。
萌香達は近くの酪農体験ができる場所(エリア)に移動した。
体験コーナーでは『牛の乳搾り』、『手作りウィンナー』、『手作りバター』が体験できる。夏季限定で『羊の毛刈り』というのもある。
しかし訪れた時期が早かった為羊の毛刈りの方は開催されていないかった。なので通年開催されている牛の乳搾りと手づくりバターを体験する事に決めた。
係の女性に説明を受けた後消毒を終え、牝のホルスタインを前に萌香は言った。
萌香「羨ましい……」
係の女性は萌香の一言に苦笑いをしている。
係の女性「優しくしすぎると出ずらいので少し力入れても大丈夫ですよ〜」
アドバイスをもらいながら萌香達は牛の乳搾り体験した。その後別室で手づくりバターを作り。萌香達の体験は終了した。
集合時間までまだ時間がある。
酪農体験場所(エリア)から少し離れた休憩所で萌香達は、暖かいコーヒーや紅茶の香りに包まれながら集合時間までゆっくり休憩を取ることにした。
End
お題『愛言葉』
萌香と真珠星(すぴか)は無我夢中で湖畔から自分達のグループがいるBBQの場所まで走った。
萌香「な、何あいつ〜!?やばいよぉ」
真珠星「超ウケる〜。覆面マスクって……ふっふふふ(笑)」
萌香「笑えないって」
萌香は泣きそうになっていた。それに対して真珠星はお腹を抱えて笑っている。
2人の前に丸メガネをかけた委員長が不機嫌な顔をして仁王立ちしていた。
委員長「もぅ、2人共何してたの?野菜焼き上がってっるよ!!」
そう言ってBBQ串に刺さった野菜を萌香達に手渡した。委員長から受けると同時に、萌香達はさっきの出来事を話した。委員長は真珠星と同様に笑っている。
数分後同じBBQメンバーが担任と一緒に、表面が丸焦げになった巨大なお肉の塊を持って登場した。
担任「本場(アメリカ)仕込みBBQ専用のお肉だよ!!さぁクラスの皆んな食べてくれ!!」
担任の一声でお肉に群がるクラスメイト達。担任が1人1人に約2〜3cmくらいに分厚く切ったお肉を2切れずつ渡していく。これはBBQというよりステーキ肉に近い。委員長が担任に質問した。
委員長「こんなお肉どこで買ったんですか?」
担任は自慢げに語る。
担任「肉屋にオレがどれだけBBQの事を愛しているか小1時間話したら、感動して分けてくれたよ。愛の言葉ってのは強いね!」
クラスの半数は担任の話そっちのけで肉に夢中でカブリついていた。一部生徒はその話を聞きお肉屋さんに同情し何やら申し訳ない気持ちになってしまった。
愛言葉……重すぎるのは良くないと学ぶのだった。
End
お題『友達』
船星(ふなぼし)は歩みの止まらない大神の元へ走る。しかし足の遅い船星は中々追いつけないでいた。
湖畔までそう遠くないのに––––。
船星「どうして。僕は……」
息を切らしてやっと大神に追いついたと思い、顔を上げたらすぐ近くにあの女子生徒が居た。
その姿を見た瞬間僕の心臓の音は走っていた時より早く鳴り、無意識に僕より遥かに身長の高い大神の後ろに隠れた。
一方大神は萌香達と談笑している。
突然話しかけてきた大神に最初萌香は戸惑っていた。
大神「こんにちわ〜。2人して何してんの?」
萌香「え、えっと。あの……う、海を見てて」
真珠星(すぴか)「っ!?萌香、海じゃないって!?湖畔だって」
萌香「そ、そう。湖畔!湖畔を見てたの!」
顔が赤くなる萌香、呆れる真珠星に爆笑する大神。
大神「自分(萌香達の事)ら、面白いなぁ。漫才コンビ?」
真珠星「違うし。同クラ(同じクラスの事)で友達。……で私らに何よう?ナンパ?」
大神「そうそう、ナンパ。……俺の背中に隠れている、友達の船星君が自分らにナンパしょう言うてな……」
僕は焦っていた。背中にいる事が大神にはすでにバレていた事もあるが、ナンパではないと誤解が取れないまま、あの女子生徒と話すことになってしまう事に。
あと僕は家族以外の女性と話すのが苦手だ。
だからジャケットの裏ポケットから狐風の覆面を取り出し、被ってあの子の前に頭をペコペコ下げながら登場した。
そしたら案の定あの子は引いてしまい、友達(真珠星)の手を掴み逃げるようにその場から去ってしまった。
End