カミハテ

Open App
6/22/2024, 11:37:52 AM

日常

まことは学校が苦手だった。

人の多いところは騒がしくて好きじゃないし、
大勢の前で自分の素を出すことがなかなかできず、
苦しかったからだ。
嫌われないように過剰に気を使いまくる日々。
毎日疲弊していた。
そのため、放課後せっかく塾に行っても居眠りしてしまう。
そして、余計自己嫌悪してしまう。
それに、学校では好きな時間に好きなことをできない。
決まった時間に、決まったことをら決められたやり方でしなければならないのだ。
それがとても窮屈だった。
毎日毎日行きたくないと言いながら家を出ていた。
徐々に勉強の意欲もなくなっていき、
予習しなければ授業に追いつけないと分かっていながら、
全く予習に手をつけられなくなった。
授業の合間をぬってなんとか終わらせていたが、
ついに追いつかなくなってしまった。

その次の日、まことは思った。
予習も終わってないから、学校行きたくないなあ。
それに、学校行ったとしても疲れるだけなんだよな。
行く意味あるのかな。
マイナスに考え出したらきりがなかった。

まことは棚から体温計を取り出した。
「ピッッ」
電源を入れ、自分の脇に挟むと思いきや、
布団に擦り付ける。
何度か擦り付けたあと、温度を確認すると、36.9度と表示されている。
「もう少しだな」
もう一度強めに擦り付け、確認すると、37.3度になっていた。
「よし。」
もちろんズル休みなんてダメなことくらい、
高一にもなればわかってる。
でも、それでも、ズル休みの準備をやめられなかった。止められなかった。
そうしてまことはその日から、不登校になった。

中学の頃は、不登校になったことなんてなかった。
けれど、不登校の友達が何人かいた。
みんな面白くて良い子だった。
その頃は、不登校の子の気持ちがよくわからないなあと思っていたが、
今はよくわかる。
不登校の子は、学校に行ってないだけの普通の子供だ。
不登校だからと言って、友達がいないとか、
すごく暗いとかそういうことはない。
ただ、学校に行ってないだけの普通の子供。
学校に行ってないなら普通じゃないじゃんかと
思うかもしれない。
でも、普通ってなんだろうと思う。
学校に行くのが普通なら、
無理やり学校に行くべきなのだろうか。
別に普通になりたいと思ってなくても、
無理やり普通になるために学校へ行くべきなんだろうか。
まことは、難なく学校に行っている人たちのほう
が信じられない。。。

そもそも学校に行くのは普通なのか?
ただ、分かっていることは、
まことは全日制の高校は合っていないということだった。
いろいろ調べてみたが、
通信制の高校だとしても高校によっては大学受験を専攻するようなコースもある。
それに、まことが学校を窮屈だと思う要因の一つである、
好きなときに好きなことをできないという点についても、
高校によっては自分の気になる専門的なコースを選べたりする。
中学の頃までは、全日制の高校に行って、
難関大へ行って、大手の企業に就職するという未来しか考えられなかったから、
全日制の高校の中で、一番自分に合っているだろうというものを消去法で選んだだけだった。
でも不登校である今、
将来についてもう一度広い視野で考えてみると、
自分が思っているよりも将来の選択肢はたくさんあるということがわかる。

さらに、休みの期間を有効活用しようと思い、
いろいろなことにチャレンジしてみたところ、
たくさん趣味が見つかった。
趣味が見つかると、生きるのが楽しくなった。
久しぶりに明日が来るのが楽しみになって感動した。

趣味というのは、例えば、絵を描いたり、
アニメやドラマを見てみたり、歌手にハマったり、
読書したり、小説を書いてみたり。
そうしてまことは今、このアプリで小説を書いている。

6/21/2024, 2:53:32 PM

好きな色

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「中1の頃のまこと、すごかったもんね」

さきがまことに向かって言った。

「あー、まあね」

まことは苦笑まじりに答えた。

さきとは小1からの仲だ。

普通褒められたら謙遜しがちだが、
さきとの間ではそんな気を使う必要は全くない。

だから認めた。

まことは苦笑まじりに答えたものの、
嫌な話だから苦笑したわけではない。

中1の頃の自分自身が羨ましくて、
思わず感情が顔に出たのだ。

それを察しているさきは、話を続けた。

「5分でも空き時間があったらワーク開いてたよね。
ビビるくらい質問もたくさんしてたし」

「まあね。」



中1の頃の情熱が羨ましい。

なぜあんなに頑張れていたんだろうか。


 

小学生の頃は、勉強の仕方がめっきり分からなくて、
勉強したいのにできない!って気持ちだった。

それが、中学になって塾に入ると状況が一変する。
効率の良い勉強の仕方が分かり、
それまでしたくても上手くいかなかった勉強が
上手くいくようになった。

ずっとエサの前で「待て」されていた犬が、
「よし」されたような感覚だった。
そうして、まことは勉強にのめり込んでいったのだ。

だけど、何事もそのうち、必ず飽きは来るものだ。

自主的にかかさずしていた予習復習も徐々にしなくなり、
塾の宿題さえも遅れがちになっていった。

そして、受験生である今、
まさに勉強の情熱がほしいのに、
カラカラの状態だ。

情熱は、中1の頃に使い果たしてしまったようだった。

まるで最初に飛ばしすぎてガス欠になってしまった車のようだ。

さきが唐突に話し始めた。


「私が中学受験したときさ、
絶対同じ中学に合格しようって言い合ってた友達がいたんだよね。
りこちゃんって名前なんだけど。
その子もまことみたいに暇さえあれば勉強頑張ってたんだよ。
小6でそれができるってすごいよね」


急に中学受験の話をして、
一体何を伝えたいんだろうと不思議に思う。



さきは私立の中学受験をしたが、
今はまことと同じ、市立の中学に通っている。

「最初は私の方が断然点取れてたの。
私、点取れてるからいいやって全然勉強しなかったんだ。
それで、夏になってからのりこちゃんの伸びがすごくて。」

今さきは中3だ。

さきがしているのは小6のときの話だから、
約3年前の出来事だ。

そこまでいうほど昔の話ではない。

もしまことがさきの立場なら思い出すだけで苦しい話だ。

しかし、さきはそうは微塵も思わせない話し方だった。

淡々と話す。

「まことが勉強してる姿が、
りこちゃんに重なって見えたの。
あぁ、この子はきっと伸びるんだろうなと思ったよ」

さきはまことの目をまっすぐ見て言った。

「へえ。そうなんだ。ありがとね。」

確かに、中1の1年間の成績の伸びは我ながら凄まじかった。

最初の定期テストの順位は中の下くらいだったのに、
その次のテストでは見事1位に躍り出たのだ。

努力すればするほど上へ上がれる。
上へ上がれば上がるほど皆に頭が良いと褒められる。

それが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

勉強が大好きだった。

そうして、1年のうち最初の一回をのぞいて、
それ以外の全ての定期テストで学年1位をとり続けた。



当然だが、一番上に行くと、それより上がない。

目指すものがない。

ずっと学年1位をとり続けていたまことは、
だんだん勉強の情熱が冷めていった。

そのかわりに、どんどん下が追い上げてきて、
自分との差が縮まるばかりだった。

その追い上げに焦り、
1位で居続けることのプレッシャーに押しつぶされそうになっていった。

そして、情熱ではなく不安に突き動かされ勉強するようになった。

2位が一番楽だと何度思ったことか。



その頃からだろうか。

勉強が嫌いになってしまったのは。。。



「どんなに好きなものでも、
必ず好きから外れる瞬間が来るんだよね。。。」

「その通りだね。
あー、でも私、犬は小さい時から好きだよ。」

「いいな、そういうものがあるの」

「えー、まこともなんかあるでしょ。
例えば、、、、あ!青色とか!
結構前から好きじゃない?」

まことは気まずそうに口を開ける。

「それが、、、最近好きじゃなくなってきちゃって。
飽きちゃったのかな。
小物とか選ぶ時、前までは絶対青だったけど、
最近は逆にピンクとか選んでてさ」

「えー!
あの前世は海で来世は空ですかってほどに、
狂おしく青好きなまことさんがピンクゥゥ!?」

盛大に貶している気がするが、気づかないふりをした。

「そ。」

「ちょっとちょっとここは突っ込んでよぉー!」

2人は大きく笑い合った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねえ、あそこじゃない?ペットコーナー。」

「ああ、ほんとだ」

まことと母は百均にいた。

飼い犬のリードが壊れたので買いにきたのだ。

2人はペットコーナーに向かう。

「青と茶色があるね。
まことはどっちがいい?」

「、、、どっちでも。
お母さんが好きな方でいいよ。」

「え?そう?
まことなら絶対青選ぶと思ったんだけど。」

母は少し不思議そうな顔をまことへ向けたが、
すぐにリードの方へ顔を戻してしまった。

母がリードを選んでいる間、まことはその辺をうろちょろしていた。



と、1つのマグカップが目にとまる。

目を見張った。

「、、、綺麗、、、。」

久しぶりに物を綺麗だと思った気がした。

マグカップを手に取ってみる。

猫のシルエットを指でなぞってみる。

ざらざらとしていた。



色は、
青色だった。

深みがあって本当に綺麗な青色。

人生で見てきた色の中で、一番美しいと感じた。

そして、青色に感動している自分に驚く。

青は好きじゃなくなったんじゃ、、、?



まことは呟く。

「いや、違うか。」




まことは今までの色に対する認識が間違っていることに気づいた。

おそらく、色に好き嫌いなんてないんだ。

青が好きと言っても、
好きな青色とそうでない青色とあるし、
見た場所、時間、誰と一緒に見たかによっても綺麗と感じるかどうか変わる。

だから、簡単にこの色が好きとか嫌いとか言えないんだ。

その時見たその色が、綺麗だと思うか否か。

ただそれだけ。

シンプルな仕組みだ。


しばらく見とれていたが、まことははっとする。

このマグカップ、お母さんに頼んで買ってもらおう。

まことはマグカップを持って急いで母のもとへ向かう。

一応お店の中なので走らないけど、
ほぼ小走りになっている。

早く行かねば。

母が会計を済ませてしまう前に間に合うと良いけど。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



その日の夜。

お風呂上がりのまことは、
ほくほく顔で例のマグカップに牛乳を注いでいた。

まことは改めてうっとりとマグカップを見つめる。

「やっぱこの青、いつ見ても良い色。」

まことは嬉しそうに牛乳を飲んだ。





6/20/2024, 3:37:04 PM

あなたのおかげで




結構長いと思います。
あと、人によっては熱苦しいと感じるかもしれません。
ご了承ください。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


高校受験の前日。

その日はうちの塾で激励会があった。

「激励会してくれるのは嬉しいよ?
めちゃめちゃ嬉しいけどさ、
前日は最後の追い込みしたいから、
激励会は前日じゃなくてもうちょい前がよかったかもしれん」

「気持ちはわかる。
でも正直前日に追い込みしたところでそんな変わらんくない?」

「言われてみれば確かに」

謎におじさん顔のうさぎが、「それな!」とブリッジしながら叫んでいる、
かなりシュールなスタンプが送られてきた。

スタンプをリプライして、
「何このスタンプ!?爆笑」と返す。

まことは、親友のさきとLINEで会話していた。

さきは中学校も塾も一緒で、
小1の頃から仲良しの幼馴染だ。

と、母の声が横から飛んでくる。

「まことー?
もうそろいかないかん時間やないのー?」

「え、もうそんな時間なん? うーわまじやんけ!」

まことは急いでメッセージを打ち込んだ。

「じゃ、そろそろバイバイ!」

「おけ、5時半に駅前で会おう!わが友よ!」

返信をさっと確認してスマホをかばんへぶちこむと、
そのかばんの持ち手をがっっと掴み玄関へ走る。

「今日もさきちゃんと塾行くのー?」

「うんそうだよ」

靴を履きながら母の問いに答える。

「そっか、気をつけてねー」

「はいはーい、じゃ、行ってきまーす!」

「行ってらっしゃーい!」

勢い良く玄関から飛び出し、
走りたくないから早歩きで駅まで向かう。
足を忙しなく動かしながら、
まことは考えごとをしていた。


はぁ〜ついに明日が受験本番かぁ〜

もうここまで直前の直前になると、
逆に緊張しないかも。

もうやるしかないんだよね。

緊張っていうか、
明日で受験地獄が終わるっていう嬉しさが大きいわ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「わお、一番じゃん」

「おお」

まこととさきは塾の教室に入った。

いつも通りの席に座る。

さきが笑いながら言った。

「今日はさすがに猿園にはならないよね」

「さすがにねぇ」

まことも笑い返しながら言った。

いつもの授業前の教室は本当に騒がしい。
動物園の猿コーナーかというぐらい、
騒がしく雑談しているため、
私たち二人はこっそり授業前の教室を「猿園」と名づけていた。

今日はさすがに受験前日なので、
皆緊張して静かな雰囲気になるだろう。

しばらくして、ぞくぞくと中3生が集まってきた。

「、、、猿園だね」 

「、、、むしろいつもより猿園だね」

2人で肩を震わして笑った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


激励会が始まった。

まず、各教科担当の先生が、
それぞれエールや気をつけてほしいことを伝えていく。

いつも抜かりない几帳面な性格の社会の先生が、
下見をサボり、
受験当日に迷子になってしまった話を聞いた時は驚いた。


ここから真面目なセリフが続くので、
今はリラックスタイムで堅い話はごめんだよーって方は今から5個目のセリフからご覧ください。



そして最後に、塾長であり数学担当の先生が話した。



「まず、忘れ物をしないこと。
意外と忘れるのが受験票だから。気をつけて。
明日の本番、無駄なことで神経使わず、
テストだけ!テストだけに集中できるようにするためにも、
今日帰ったら必ず受験票入れてね」


確かに。
明日の朝も、一応忘れ物チェックした方がいいだろう。


「次に、もし仮に!仮にだよ!?
忘れ物をした場合だけど、
絶対家に取りに帰らないで。
筆記用具も借りられるし、
受験票も再発行してもらえるから。
家に帰っちゃうと、
時間ロスになるし、
気持ちも余計焦っちゃうから。
とりあえず、自分の体を無事時間通りに受験場所へ運ぶことを一番に考えて」



ま、受験表も生徒証明書も忘れた場合は取り帰らないといけないけどね。

受験票再発行するには生徒証明書がいるんだもん。



「そして、できない問題に囚われすぎないで。
大丈夫!
このクラスの皆レベルで解けない問題はだっれも解けないから。
それよりもできる問題を確実に、確実にとって。
とはいえ、それぞれ戦略があるだろうから、
ラストの激ムズ問題で点稼ぎしようと思ってる人はその戦略をやりきってね」


うんうん。
うちのクラスは過去の塾生の中で一番優秀らしい。
その証拠に、県トップの高校受験者が過去最多なんだって。
へへん。
かくいうまこともそのうちの1人だ。


「それから、今日明日はなるべくいつも通りの生活をして。
いつもと違うこと、
例えば一夜漬けするとか、
いつも本読んでから寝るのに早めに寝たいからそれをやらないとかはしないで。
じゃないと調子狂って全力出せないから。
全力出して落ちた時は諦めつくんだけど、
出せずに落ちた場合諦めきれないからさ。
多少集合時間が早いから早起きするとかあるかもしれないね。
まあそれはしょうがないけど、
全力出し切るために、
なるべくいつも通りの時間に寝て、起きて、朝ごはん食べてね。」



本当に本当にその通りだ。 

いつもアニメ見ながら夜ご飯食べるから、
今日もそうしよっと。

あと、明日はいつも通り納豆ご飯食べよ。



塾長は力強く言った。

「最後に、絶対に絶対に受験が上手くいく魔法の秘術を教えてあげる」


え!?そんなものあんの?もっと早く教えてよーー

ま、塾長のことだから、
前日に言うからこそ意味があるんだろうけど。

皆、塾長の言葉を聞き逃すまいとより集中して聞いている。

なぜか、塾長が話し始めるまでの間が、
とても長く感じられた。



塾長がゆっくりと口を開けた。


「明日の朝、
 家を出る前に、
 お母さんとお父さんに、
 今まで支えてくれてありがとうって伝えること。
 これが魔法の秘術。」



へえ。

「女の子たちは大丈夫だろうけど、
男の子とかは特にね、恥ずかしいかもしれない。
だけど、明日の朝だけだから。
恥ずかしいのは。
これさえ言えば本当にうまくいくから。
僕を信じて言ってほしい。
言えるよな、大輝??」

最後の方、塾長は大輝に笑いながら言った。

どっと教室が笑いに包まれる。

まことたちは反抗期真っ只中の年齢だが、
そのなかでも高橋の反抗期っぷりはすごいことで有名なのだ。

うちの塾は先生も混じってカードゲームをしたり、
雑談したりするので、
大輝の反抗期ネタは鉄板だった。

大輝自身も笑っているので、傷付いてはないだろう。

さきは机に突っ伏して爆笑している。

さきがそんなふうに笑う時はよほどのどツボにハマったときだ。

まことも声を出して笑った。



「じゃあ、僕らの話はこれで終わり。
みんな、明日は精一杯全力出しておいで!!
頑張れ!!!」



塾の先生全員に熱いエールを送られながら、
皆家へと帰っていった。

まこととさきも帰ろうとした時、
塾長に呼び止められた。

「まことちゃん!さきちゃん!ちょっと待って。」

一体なんだろうと振り返ると、
塾長は手を差し出していた。

「最後に握手しとこか!!」

塾長はにかっと笑った。


まことたちは、塾長に誰よりもお世話になった塾生トップツーだった。

塾長は、緊張しいでネガティブすぎる二人に対して、正確なアドバイスをしつつ、励まし続けてくれた。

塾長の、握手で最後の最後まで勇気づけようとしてくれている心遣いを感じて、
まことは目頭が熱くなった。

塾長に握手しながら、
言葉に魂を込めるぐらいの強い気持ちで言う。



「「絶対に、受かった報告をしに来ます」」



二人で合わせたわけでもないのに同じ言葉が出た。

言い方もトーンもそっくり。

驚いて顔を見合わせる。

「ハハハハハハッ!やっぱ二人は仲良いね〜」

塾長の豪快な笑い声が響き渡った。

塾長の手は、大きくて、厚くて、あたたかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次の日の朝。

玄関の前で、まことは見送ってくれる両親に向かって気持ちをこめて丁寧に言った。


「お母さん、お父さん、この一年間、たくさん支えてくれてありがとう。
二人のためにも、悔いないように全力出し切ってくる。」

両親は、少し驚いた顔をした。

それはそうだ。

まことは普段、感謝の気持ちなんてめったに伝えない。

お母さんは少し屈み、
まことの両肩の上に手を置いた。

「まことが一生懸命に頑張ってたから、
お母さんたちも一生懸命支えようと思ったんだよ。
まことの頑張り、お母さんたちが一番わかってるから。
今日までの頑張りを全部全部ぜーんぶ!
出し切っておいで!」

まことは少しうるっときてしまった。

と、次は父が口を開く。

「名前、書き忘れんじゃないぞ」

「わかってるってば!!
今日だけで4回目それ!何回言うんだよ!!」

父の言葉で一気に涙がひっこんでしまった!

まことがツッコむとお父さんが破顔した。
そして答える。

「うん、今日もまことはいつも通り元気だな。
試験も絶対に大丈夫だ」

「そうね」

「なんなんだよ二人して!もー!!」

まことが頬を膨らます。

3秒後、3人は大きく笑った。



「それじゃ、そろそろ行ってきます」

「「行ってらっしゃい」」

あたたかい笑顔に見送られて、まことは玄関の扉を押した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

受験日から10日後。

8時58分。

まことと母はドキドキしすぎて手から手汗ビームを大量に出しながら待機していた。

今日だけで1週間分のティッシュを消費してしまうんじゃないだろうか。

9時になったらネットで合格発表が行われる。

母はスマホの待機ページを凝視している。

「まことなら絶対に受かってると思うけど、
絶対受かってるけど、やっぱり緊張するね」

まるでスマホに向かって話しているようだ。

まことはくすりと笑いながら落ち着いた声で答えた。

「そうだね。
ま、もし受かってなかったとしても、
そんときはそんときだよ」

母はやっと顔を上げてまことを見た。

「まことってば、こういうときだけ不思議と
肝座ってんのよねぇ」

「それはどうも。
ん?こういうときだけってなに!?
だけってなに!?」

まことが問い詰めようとしたとき、
母が時計を見て言った。

「あ、9時になった!!」

「え」

急いでスマホを手に取り、合格発表のページに進む。

自分の受験番号に近い番号を爆速で探す。

そして、ゆっくりとゆっくりと一つずつ一つずつ番号を確認していく。

受かってたらいいけど、
受かってないのに見間違えて喜んでしまったら後からきついからだ。


「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、あっった、、、、、」

見つけた直後は受かった実感が湧かない。

5秒後くらいからじわじわと喜びが湧き上がってくる。

「う、う、受かった?、、、、、受かった、、、、!
本当に受かったんだ、、、!」

「お、おめでとう、、、!
おめでとうまことっ、、、!!!」

母は顔をくしゃくしゃにしながらまことに飛びついてきた。

「まことの頑張りが報われて本当に本当に良かった、、、、!!」



まことは普段母とハグすることはほとんどない。

たまにハグされそうになった時は避けるぐらいだ。



、、、だが、今だけは。

まことは口をへの字に曲げつつも
母のハグを受け入れた。

「うぇーん良かったねえまこと、、、ズビッズビッ」

「ほら、お母さんティッシュ」

「うううありがとうまことーーーー」

もしかしたら家中のティッシュがなくなってしまうかもしれない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「本当に受かって良かったよねぇ二人とも」

「本当にそう」

まことの母とさきの母がほっとした顔で話している。

合格発表の日のお昼時、
まこと親子とさき親子はお祝いのランチ中だ。

「でも、私の努力というよりかは、
塾長のおかげだから」

まことはスパゲッティを頬張りながらもごもごと言った。

さきも首がもげるんじゃないか心配するくらい
首を縦に振っている。

「まじでそう。
塾長がいなかったら私たち受かってないよね」

塾長は二人にとって恩師だ。

きっとこの恩は一生忘れないだろう。

そのことを誰よりも自分の子どもの様子を見てきた母親達は理解している。

「塾長には感謝しなきゃね。
塾長も一生懸命に支えてくださったしね。
でもあなた達2人の頑張りもあると思うよ。」

「「ありがとう」」

まあ、まこと達の努力が全くなかったわけではないから、
間違いではないだろう。

ランチを食べ終わり、デザートを食べている時、
まことは思いついた。


「私、塾長に感謝の手紙書こうかな」

「それめっちゃいいね」
「いいと思う」
「私も書こうかな!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


塾長へ



中学校1年生から3年間、本当にありがとうございました。 

私は、先生が本当に生徒たちのことを一生懸命考えて授業してくれていることを日々感じていました。

先生の授業は、一貫性があり、
根拠の部分まで深掘りして解説してくださったことで、
説得力があって本当に素晴らしい授業でした。
だからこそ、安心して先生の言葉を信じ、
ここまで勉強を頑張り続けられたんだと思います。

私は、そんな先生の授業が大好きです。

特に中3の1年間は、親身に勉強の相談にのってくださったり、
たくさんの質問に丁寧に回答してくださって本当に助かりました。

私が第一志望の高校に受かったのは本当に本当に先生のおかげです。

ありがとうございました。

先生はいつも頭が切れて、優しくて、面白くて、
私の唯一無敵の恩師です。

私はそんな先生が大好きです!!

いつか私も先生のような大人になりたいと思います。

まだまだ先生にはほど遠いので、高校でも勉強メキメキ頑張って少しでも先生に近づこうと思います!


最後に、今まで本当にありがとうございました。
お身体を大切になさってください。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



後書き

小説ぶって後書き書いちゃいました(≧∀≦)
読んでくださりありがとうございます!

どうして「あなたがいたから」のお題でこの話を書いたかというと、
答えはいたってシンプルです。
こんなことを言うと親不孝だと思われるかもしれませんが、
お題を聞いたとき、まず一番に思い浮かんだ人が、
家族ではなく、塾長だったんです。

以下、塾長がいかに素晴らしい先生だったかを熱く
語る文です。
熱い思いが苦手な方は、とばしとばしご覧ください。

人間は必ずしも欠点があるものですが、
塾長は1つもありませんでした。
嘘みたいな話ですが、本当にないんです。
誰もが失言して後悔した経験があると思います。
私もよく失言をしてしまうのですが、
塾長は全くしないんですよ。
相手の表情や仕草をよく観察して、
すぐに察して細やかな気配りをしてくれました。
頭の回転も速く、
何か相談ごとをするとすぐに最適解に導いてくれました。
カードゲームやなぞなぞなども
あっという間に解いてしまうんです!
何よりも、生徒にたくさん勉強してほしい、
たくさん勉強して見える世界を広げてほしいという
熱い思いを持っていました。
その思いをたくさん言葉にしてくれました。
その思いに心動かされ、
私は先生の言葉を糧に受験期を乗り切ったくらいです。
質問回答や相談の約束はほとんど忘れず、
万が一忘れても真摯に謝罪をしてくれる。
本当に信頼できる先生でした。
塾長以上の人格者はもう生涯会うことはないでしょう。
そのぐらい素晴らしい先生でした。



塾長のアドバイスのセリフは本当に私の恩師である塾長から頂いた言葉です。
私自身、このアドバイスを実践して第一志望の高校へ合格しました。
本当に素晴らしいアドバイスです。
だからこそ、塾長のアドバイスシーンは、
全国の受験生のみんなへのアドバイスとしても伝えたいと思い、
多少長くなろうともノーカットで書きました。

拙い文章でしたが、
どうか、私の文章が、
一人でも受験生や何かを頑張る人の励みになりますように。

最後に、受験生、頑張れ!!!ファイト!!!!

6/19/2024, 5:37:09 PM

まことのひとりごと


青春コンプレックス。

相合傘と聞いて一番に思いついた言葉がこれとは、
さすがに自分でも自分が哀れになってくる。

相合傘なんて私には無縁の世界だ。

その説明は長くなるから、忙しい人はぜひとも飛ばして頂きたい。




中学の頃、自分で言うのもなんだが、私は優等生だった。

本気で自慢でもなんでもない。

私には勉強しか取り柄がなかったのだ。

取り柄と言っても、運良く頭の良い両親の血を受け継いだことと、これまた運良く素晴らしい塾に巡り会えたことによる結果。

本当に私は環境に恵まれていると思う。

だから、私の努力はほんの少しだけだ。

唯一の取り柄が、周囲の良い環境なくして形成は不可能だったと考えると、事実上私に取り柄なんてないと思う。

中学の頃は、私が優等生で、異質な存在だから、周りの子は私との接し方がよく分からず、仲良くなれないのだと思っていた。

それは違った。

中学の頃から、優等生であっても、たくさんの友達がいる人だっていた。

なぜ気づかなかったのだろう。

いや、薄々気づいてはいたけど、器用にできる人が羨ましくて妬ましくて、気づかないふりをしていたのかもしれない。

優等生だからなんてただの自分がコミュ力ないことの言い訳だ。

その証拠に、同じ学力レベルの人が集まるはずの高校で、新しくできた友達の数は中学入学の頃と大して変わらなかった。

何が優等生だ。

自己分析もまともにできていない。

自分が情けない。

そんなにコミュ力に自信がないなら、力をつければ良いと思うだろう。

もしくは、コミュ力とか難しいこと考えず、ただ話しかければ良いだろうと思うだろう。

それが難しいんだって!

今まで一切してこなかったことを突然始めるんだから。

意外といけるわとかなるはずもなく、むしろ予想よりずっと疲れる。

自分のコミュ力のなさに毎度のようにおっかなびっくりしちゃう。

そんな感じだから、当然、恋人ができたこともない。

町で幸せそうなカップルを見るたびに鬼の形相で歯軋りし、地団駄を踏み、爪が手のひらに食い込んで血が滲んでる。(冗談です)

最近は恋愛ソングも聴けなくなってしまった。

相合傘なんて、言葉を聞いただけでのたうち回ってしまう。

仕方ないのだ。

私は重度の青春コンプレックスだから。

私の情けないひとりごとを最後まで聞いてくれてありがとう。

6/18/2024, 6:33:55 PM

「落下といえば」



「おばあちゃんのお兄さんが亡くなったんだって」
母がまことに言った。
「へえ」
身内の訃報を聞いた返答として、あまりにも軽いかもしれない。
しかしまことにとって、会ったこともない親戚というのは他人と同義だ。
面識のない相手の死を悲しむことは困難すぎる。
そもそも、祖母に兄がいることすら、訃報を聞く今の今まで知らなかったのだから。


「蜘蛛膜下出血で亡くなったんだって」
「へえ」
心臓発作とか、脳出血とかもだけど、そういう突発的な病気で死ぬのは嫌だっただろうな。
死ぬまでの準備ができないから。
大切な人に別れの言葉を言うとか、最後の晩餐として好物を食べるとか、死ぬまでにやっておきたかったことに挑戦するとか。
病気は病気でも、突発的に死ぬものでなければ、できることは多いだろう。
自殺なら、自分で死ぬタイミングを決めるわけだから、当然死ぬ準備も自分のペースでできるし。

ふと、まことは、考える。
もし自分が死ぬなら、どんな死に方をしたいか。
答えは、飛び降り自殺だ。
理由は簡単で、高いところから飛び降りると気持ちよさそうだから。
デメリットとして、まことが飛び降りた後、周囲の人が迷惑を被ってしまうことが挙げられる。
だが、死ぬ時ぐらい、人の迷惑考えなくて良くないか?
線路に飛び出すとかはさ、結構な人数だけど、ビルからの飛び降り自殺とかなら、そこまででしょ。

Next