《あの日見た煌めき》
(刀剣乱舞/ソハヤノツルキ)
夏の夜。夜火奪還作戦の甲斐があり、花火が打ち上がる景趣を手に入れたとのことで、本丸の皆で花火を見ようという話になった。
ソハヤは軽装に着替え、兄弟の大典太と共に花火が打ち上がるのを待った。
そして審神者の合図で花火が華やかに空に咲く。
色とりどりの夜の花が、夜空を彩る。
多くの刀剣男士が「おぉ!」と声を上げて喜ぶ中、ソハヤは、ふとある記憶が蘇る。
こんな打ち上げ花火ではなく、もっと身近で見れた....。
「手筒花火だ....」
あの日、駿府城で見えた煌めきを、ソハヤは朧気だが思い出したのだ。
かつての主、徳川家康が見た手筒花火の煌めきを。
「刀でも打ってんのか、ってくらいの火花だと思ったが、花火だったんだな....」
何百年の時を経て、あの日見た煌めきは
今はより一層美しく輝いている。
《些細な事の積み重ねが理由となる》
(刀剣乱舞/大典太光世)
病に伏した際は枕元に置けば治るとも言われた霊刀。
その強大な霊力ゆえ、小鳥も近付けない為、かつては蔵に厳重に仕舞われた刀剣。
強さに縋るのも、その強さを恐れて蔵に閉じ込めたも人間だと言うのに、その身勝手さを許し、愛した刀。
それが【大典太光世】なのだ。
主が苦しむなら元凶を断ち切ろう。
皆と見る明日を信じられたのは、外の世界に連れ出してくれた"審神者"のおかげだから。
蔵の窓から見えた四季の移ろいを、この身をもって体感できた。
些細な事と笑うかもしれないが、与えられた愛を返したいから、刀を振るい、過去を守り、未来へと繋げるのだ。
人々に愛され、守られて、今の主に会えたのだ。
歴史を守るには十分な理由にはなるだろう?
そう言って微笑む大典太光世の顔には、出会った頃の暗さはもう見えない。
《灯火が消えぬように》
(刀剣乱舞/石切丸)
石切丸という刀剣男士は、戦より神事に親しみを持つ刀だ。
敵を斬ることより病魔や厄災を断つ。
人の為に、人ならざるモノを斬る刀。
その点においては、今の彼の斬る敵も人ならざるモノであり、大差ないと思えたのが修行先での気付きらしい。
病魔や厄災を斬ることで、人々の心に灯る灯火を守り、
敵を斬ることで、その先を生きる人々の生命という灯火を守る。
誰かを救う、ということ。
誰かを守る、ということ。
それは人々の笑顔と明日を護ること。
それが今の石切丸が刃を振るう理由なのかもしれない。
《最期の言葉を聞けない》
(刀剣乱舞/岩融)
これは、とある閉鎖本丸の話である。
その本丸は全振りに個人用の端末を1台支給していた。
緊急事態や秘密裏に話したいことがあった場合に使うようにとの事だった。
ある日、岩融は単騎出陣を行なっていた。
そんな時に端末に通知が入った。
【本丸が襲撃されてる】
送り主は初期刀・蜂須賀虎徹だ。
岩融は慌てて帰還しようと転移装置を起動させる。
が、ピクリともしない。どうやら時間遡行軍の襲撃により転移が出来なくなったようだ。
そうしている間にも本丸には敵が押し寄せ、仲間と主の身が危険に晒されている。
そして暫くしてから、また通知が入った。
【後は頼んだよ】
それからの事は岩融自身、よく覚えていないらしい。
気付けば本丸に帰還し、誰一人として生きている気配がしなかった事。
持っている端末をあの日以来開けずにいる事。
そして、自分をどうか刀解して欲しいという申し立てがあったのが今日だ。
「あの日に蜂須賀より送られた言葉の後にも幾つか送られていたのは分かっていた。しかし開けずにいるのだ」
「開き、見てしまえば恐らく俺は正常な精神では居られぬ気がしてな」
あれから"開けない"(あけない)事を選んだのだ、と。
その話を聞いた政府の担当官は、彼の端末を開く許可を得て、メッセージを開いた。
そこには
【岩融だけでも生きて】
【自分を責めないでくれ】
【いつかまた会えたら、共に戦場を駆け抜けよう】
そして審神者からのメッセージが。
【岩融、またね】
担当官はそれらのメッセージを読み、岩融にこう告げた。
「是非とも仲間たちからの言葉を受け取って下さい」
《思い出の欠片が足りない》
(刀剣乱舞/今剣)
源義経の守り刀。それが今剣である。
彼自身も義経公の守り刀であったことを誇りに思っている。
けれども今剣には義経と弁慶の事しか無い。
《義経記》に記された短刀。現物はない。
いわば朧げで、不完全な存在。
三条小鍛冶宗近の作刀というのも、
磨り上げられて小さくなったということも、
五條天神社での回顧や清水寺での義経と弁慶の戦いの記憶も。
全てが不確かな要素で成り立つ存在。
故に義経記こそが今剣、ひいては岩融が顕現出来る唯一の依代とも言える。
いや。もしかすると、義経記だけではなく
謡曲や御伽草子の【橋弁慶】なども彼を構成する要素なのかもしれない。
いずれにせよ、万人に愛された源義経という存在を語り継ぐ存在の今剣が、語り継がれる為の軍記物によって存在を語り継がれるというのも、また皮肉なのかもしれない。