サチョッチ

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8/5/2023, 5:24:54 PM

籠の内側で鐘が鳴る。呼吸の伸縮の奥で、手のひらに鐘の音が伝わる。熟した果実のように染まっているであろうそれは、瞼の裏の暗闇にあの人の顔が浮かんだ瞬間、堰を切ったように早鐘を打つ。全身を震わせるほど有り余るエネルギーを湛えて、胸の鐘は大きく強く響く。
(あぁ、……やっぱり彼なんだ。)
細胞の叫びを代弁する鐘は、ぼやけた疑念を確信させ、頼りない否定を打ち砕く。

8/4/2023, 3:28:34 PM

つまらないことでも、君が変な角度から面白おかしく茶化すから、私はいつも複雑な気持ちになる。
面白いと想う分、私には見えない世界が君には見えてること、私にない感性が然とあることを、君自身の口から告げられているようで、妬ましいほど羨ましいから、いつも素直に笑えない。

8/2/2023, 1:03:56 PM

 私の部屋は、気づいたときからこの病室だった。どこを見ても白とは無縁の部屋で、私にとっては馴染みの自室だが、お父様はここを「病室」と読んでいる。
 いつから私はここにいただろう。小さい頃からずっとかもしれない。でもその時の記憶は全く無い。あってもいいはずのお父様との思い出も、この家のことも、どうしてかよく分からない。それに私はなんの病気だったんだっけ。それも分からないまま長いことこの部屋で過ごしてきた。お父様はいつも私を気にかけてくれる。体の弱い私が人並みに歩けるようになるのを今か今かと心待ちにしている。お父様の飲ませる薬はどれも変わった味がするものばかりだけど、飲んだあとは気分が軽くなる。寝たきりの私を見兼ねたお父様は、ベッドの中でもお洒落が楽しめるようにと、いろんな装飾品を持ってきてくれた。綺麗になるお薬も飲ませてくれた。
 ある時一度だけ、鏡越しの私を見せてくれた事がある。化粧もしていないはずの肌は透けるように白く、髪は漆黒に照り光り、顔立ちは妖しいほど整っていた。
「これが……私……?」
どれほど過ごしたかも分からない長い日々の中にいたにも関わらず、私は私の顔を知らずにいたのだった。
「お前は生まれた瞬間から母の美貌を受け継いでいた。まさに冥府の底から差した奇跡の光のようだった。」
お父様はそう言って私を抱きしめた。
「お前は間違いなく私の娘だ。永遠に傍にいるぞ、アイラ。」
お父様の温かな腕に包まれて、私はずっとこの幸せが続くのだと確信した。手元に置かれた鏡の隅にちらりと映る、首筋にぼんやりと残った細い跡を、心の隅で気にしながら。

8/1/2023, 2:08:11 PM

明日、もし晴れたら、日が昇らないうちに鳥を飛ばそう。あの人が私のためだけに作った鋼の鳥を、あの人の居場所へ向けて飛ばせよう。一週間前の約束を覚えていると、あの人に知らせるために。

あの人は声を待っている。私を本気で受け入れる気持ちがずっとくすぶっている。今か今かと心待ちにするあの人の顔が浮かんで離れない。

鳥が届き次第、必ずあの人は迎えに来る。そうしたらすぐにでも私は寝床を抜け出して、彼の腕の中へ飛び込むだろう。いつ帰るとも知れない、この家を背にして。

7/31/2023, 10:33:20 AM

適応できない
学習出来ない
教養もない
合わせられない
空気が読めない

迷惑にしかなれない
邪魔にしかなれない
ストレスにしかなれない

私がいるだけで、私より必要とされている人たちが
皆嫌な気持ちになる

どうせ私は嫌われ者 能無しの知恵おくれ
関わる人間を不幸にしか出来ない

事あるごとにそう思わせられてきた
そう思わなければならないのだと思うようになった

だから、一人でいたい

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