サチョッチ

Open App
7/28/2023, 2:34:01 PM

一人で行くお祭りは寂しいというより不気味である。露店が並ぶ通路を歩き回ることは何ら訳ない。むしろめぼしいものがあちこちにあってつい衝動買いをしそうになる。だが問題は踊りの場面である。老若男女交えた人間が列をなし、曲に合わせて舞いながら移動する姿は、むろんにぎやかとも取れるのだが、あれに囲われると異界へ連れ去られそうで不安になる。普段と違う夜の空気が見慣れたはずの景色を特別なものに塗り替え、それにより見えない不思議な力が作用してあらぬ"手違い"が起きるのではないかという気にさせられるのである。あり得ないとばかり思い込んでいた何かの扉が、高揚した人間の欲と夜闇に響く曲の妖艶さによって知らず知らずのうちに開いていくような不穏さが、華やかに賑わう周囲の様子をかえって不気味にする。あるはずのない疑念や恐れが広がるにつれ、目の前の明るさが一層目立つのが気が気でなくて仕方ない。

7/25/2023, 3:10:18 PM

 カーテンのかかった巨大な鳥かご。いつもの部屋。気持ちでは長く過ごしているが、ここに来てからどれくらい経つだろう。柔らかな絹の外は無骨な鉄柵で囲われているが、私はこの場所が嫌いではない。全身を優しく受け止めるマットレス素材の床に、周りには私好みの可愛らしいクッションやぬいぐるみが飾られている。光源は火傷をしない不思議な青い炎。頭上の遥か上にランプのように吊るされて燃えている。厳かな南京錠のついた出入り口は、私を連れ込んだ彼にしか開けられない。
 彼は私の心を繋ぎ止めるため、定期的に鳥かごを訪ねては、あの手この手で尽くしてくれる。珍しい骨董品や装飾、服なんかも贈ってくれたり、心地よい香りを焚きながら触れ合ったり、身も心も自分のものであるという証として、裸体に筆で模様を描かれたりもした。彼がいつも言って聞かせていた通り、私は彼から与えられる全てを「愛」として受け取った。そもそも鳥かごに住まわせるのも、私の存在を常にそばで感じていたいからだ。初めて出会ったときから「特別」であると感じた私を離したくないのだ。年中鳥かごの中に封じられてこそいるが、彼が私を傷つけようとしたことは一度もなかった。今ではぼんやりとしてしまった昔の生活に比べ、こちらの方がなんとなく過ごしやすいように思えた。

カーテンがふわりと揺れ、陰から彼が現れる。心から私を愛しい目で見下ろし、そっと音もなく身を寄せる。
「僕と君だけの世界だから。」
柔らかな声とともに、私は胸の内がくすぐったくなるのを感じた。
 これから先も、きっと私は彼の鳥かごの中で守られ続けているだろう。
ここなら、何も出来ない私を責める人はいないから。

7/23/2023, 3:40:41 PM

花咲いて 闇より深く 焦がす空

地元では花火大会が行われました。家のすぐ目の前というレベルの近さだったので圧巻でした。
呑みながら見たかった… 

7/21/2023, 3:09:49 PM

今一番欲しい物は、あえて記憶から消しておく。本気で欲しいと思うものほど、早々手に入らないから。あえて意識から外す。そうして何気なく暮らしていると、忘れた頃にふと手元に転がってきたりする。もしくは手に入れられるだけの条件が偶然揃ったりする。欲をいかに無意識と化せるか、そしていかにチャンスをたぐるかがキーかもしれない。

7/20/2023, 1:40:53 PM

私の名前は「救世主」を意味する。我が子を幼いうちに亡くした両親にとって、後から生まれた私の存在は文字通り救いそのものだったようだ。だがそんな両親からの思いは皮肉にも私の生き心地を窮屈にするばかりだった。私は故人の生まれ変わりとされたのだった。
成人してからもしばらくは死んだはずの人間と重ねられたトラウマに苛まれた。自分が自分として生きている実感が出来なかった。亡霊と一体化した立場を脱することが出来たのは生涯のパートナーのおかげだった。私の精神の不安定さや気まぐれを従え、磨き抜いた才能を見抜き、発信すべき方向を取り決めてくれる絶対的な存在だった。彼女のおかげで私は亡霊の影を伺わせるものでしかなかった自分の名前を、心から胸を張って名乗ることが出来る。

「天才画家、サルバドール」と。

Next