一人で行くお祭りは寂しいというより不気味である。露店が並ぶ通路を歩き回ることは何ら訳ない。むしろめぼしいものがあちこちにあってつい衝動買いをしそうになる。だが問題は踊りの場面である。老若男女交えた人間が列をなし、曲に合わせて舞いながら移動する姿は、むろんにぎやかとも取れるのだが、あれに囲われると異界へ連れ去られそうで不安になる。普段と違う夜の空気が見慣れたはずの景色を特別なものに塗り替え、それにより見えない不思議な力が作用してあらぬ"手違い"が起きるのではないかという気にさせられるのである。あり得ないとばかり思い込んでいた何かの扉が、高揚した人間の欲と夜闇に響く曲の妖艶さによって知らず知らずのうちに開いていくような不穏さが、華やかに賑わう周囲の様子をかえって不気味にする。あるはずのない疑念や恐れが広がるにつれ、目の前の明るさが一層目立つのが気が気でなくて仕方ない。
7/28/2023, 2:34:01 PM