籠の内側で鐘が鳴る。呼吸の伸縮の奥で、手のひらに鐘の音が伝わる。熟した果実のように染まっているであろうそれは、瞼の裏の暗闇にあの人の顔が浮かんだ瞬間、堰を切ったように早鐘を打つ。全身を震わせるほど有り余るエネルギーを湛えて、胸の鐘は大きく強く響く。(あぁ、……やっぱり彼なんだ。)細胞の叫びを代弁する鐘は、ぼやけた疑念を確信させ、頼りない否定を打ち砕く。
8/5/2023, 5:24:54 PM