サチョッチ

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6/14/2023, 4:43:34 PM

あいまいな空
人を刻みたい
薬で抑える
あいまいな気分 普通か異常か
異常とはなんだ 普通とはなんだ
どっちつかず 
       あいまいな自分

6/13/2023, 2:19:06 PM

鬱蒼とした樹海の奥にも梅雨はやってくる。陰鬱とした空と湿った草木の匂いは、昼夜問わず暗がりに沈む御殿から住人の気配を一層失わせていく。鬱之宮は自室の窓辺でため息を付いた。毎日変わらず眺めている外の景色だが、今日は一段と重苦しい。こうなってはただでさえ落ち込んでいる自分の精神もきっとどん底のまま戻れないだろう。そんなつまらないことばかり考える。鬱之宮は自分の脳髄の造りが心底嫌いだった。
(このままどうせ一人きり……)
鬱之宮は思った。ほぼ無意識だった。
 突如部屋の隅の押し入れがガタガタと鳴った。鬱之宮はビクリと肩を震わせ、すぐさま弾かれたように襖へ飛びついた。戸を開いた瞬間、暗闇の奥から伸びた赤茶け色の縄が、鬱之宮の手を捉えて奥へ引っ張り込んだ。彼女の姿が音もなく暗闇に消えると、そのまま襖はバタンと閉じた。

「おぉ…愛しき我が"おうつ"…。今宵も会いに来たぞ。」
青白い顔の血まみれの貴族が話しかけてくる。鬱之宮は生気を失った頬を紅に染めて見つめる。
「呪髪親王様……お会いしとうございました…!」
鬱之宮は飛び込むようにして貴族の胸にすがる。貴族の首には赤茶けた縄が巻き付いていた。首吊縄呪髪親王(くびつりなわのろいがみしんのう)――それがこの貴族の名であり、鬱之宮の想い人である。
「今日はまた新しい縄を編んだので、お前の首に似合うかと思って見せに来たのじゃ。」
そう言うと呪髪親王は袖口から青紫色の縄を取り出した。鬱之宮は渡されるままそっと手に取る。仄かに花の香がする。
「これは…?」
「梅雨の時期ゆえな、紫陽花を素にして編んだのじゃ。お前の首に青い紫陽花が映えたら美しかろうと思ってのう。」
呪髪親王は柔らかな声で言う。鬱之宮は口元をフッとほころばせ、照れくさそうに俯いた。
「親王様の縄は、いつも私に寄り添って下さいます。」
鬱之宮の言葉に呪髪親王はそっと恋人の髪を撫で、渡した縄を静かに取ると、鬱之宮の首に頭からふわりとかけてやった。
「いつでも私はお前を想っておる。私の縄をかけたお前は一段と綺麗だ。」
甘く囁く声を聞きながら鬱之宮は親王の胸に抱かれる。暗闇の中で2つの歪な青白い影が寄り添い合う。
「……最期を超えても愛おしいぞ。おうつ…。」

御殿の外。日暮れの紺の庭を幾千の銀の矢が打ち付ける。

6/12/2023, 10:40:55 AM

私は馴染みの喫茶店に入った。ベルの音を背に進んでいくと、こぢんまりとしたテーブルとチェアが並んでいる。ここに来るのはいつも一人だ。基本的に私は、何をするにも人を誘わない。とくに食事は必ず自分だけでこっそり楽しむ。
店の一番奥の席に着く。この街はお店の中でさえ暗いけど、より暗がりに近い場所が私は好きだ。メニューを手に取り開く。表のメニューボードにあったものと同じ名前が載っている。やはり新作とのことでメニューにでかでかと写真つきであった。ブルーハワイのような青いドリンク系のスイーツらしい。チョコレートで出来た鳥の羽のアクセントが素敵な一品。
呼び鈴を鳴らすとウェイトレスが来るが、やっぱり全身真っ黒なので表情が見えない。
新作スイーツを注文すると、ウェイトレスは何気ない様子で話してきた。
「そいえばいつも一人で来てるよね?一人は好き?」
「はい!」
私は普通に答える。
「お食事はお友達と一緒の方がもっと美味しくなるはずよ♪」
ウェイトレスは得意げに言ってのけたが、私は申し訳無さそうに返す。
「…好き嫌いがあるもので、食べるところを見られたくないの。」
「まぁ!そうなの?」
ウェイトレスは少し驚いたような声を上げた。
私は少し俯いて気まずそうにする。
「まぁ、食の好みって人それぞれだもんね。これからご注文伝えるから、出来るまで待ってて。」
ウェイトレスは屈託のない様子で言い、スカートを翻して厨房へ消えた。声色は軽やかだったが、顔はどんな色を浮かべていたのだろうか。この街の人たちの顔は私のには見えないが、私の顔は彼らからどう見えているのだろう。
ときどき、そんな不安がふと過る。

「黒い街」Ⅱ

6/12/2023, 9:21:20 AM

見慣れた商店街の路地裏の向こうには、色のない黒い街がある。住人は皆影、影、影……顔の見えない人ばかり。窓辺の看板猫すらも、本当に黒猫なのかは知らない。空はいつも夜みたいに真っ暗。時計はあるけど朝はない。ポツポツと灯る街頭の明かりを辿りながら、横目で小さなお店の並びを眺める。ショーウインドーの小さなランプに照らされて、不思議なアンティークの小物が光っている。ここの人たちは、とても優しい。声も言葉も無いけれど、なんとなく、動作の一つ一つが温かい。彼らが営むこの街が、とても愛おしい。今は心の穴を埋めるために時折訪ねてくるだけだけど、近いうちに、私もここに住むことにしようかしら。
はたと足を止めて振り向いた先、目についたお気に入りの喫茶店のメニューボードに、見慣れない名前があった。ざっくり見るとスイーツらしい。
「あ!新作出したんだ!」
私は心が踊るまま、いつもより軽い足取りで店のドアを潜った。カランカランとなるベルの音を、影の行き交う石の道が静かに聞いていた。

「黒い街」Ⅰ

6/10/2023, 1:45:24 PM

やりたいことは焦って見つけるものではない。当たり前だと思っていたはずの生活に居心地の悪さを感じたら、少しずつ形を帯びていくものだ。望んでいたはずの物事にぼんやりとした不自由さを覚えたら、あとはそれを徹底して突き詰めていけば、次第に本当の願望が洗われてくるはずだから。

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