サチョッチ

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私は馴染みの喫茶店に入った。ベルの音を背に進んでいくと、こぢんまりとしたテーブルとチェアが並んでいる。ここに来るのはいつも一人だ。基本的に私は、何をするにも人を誘わない。とくに食事は必ず自分だけでこっそり楽しむ。
店の一番奥の席に着く。この街はお店の中でさえ暗いけど、より暗がりに近い場所が私は好きだ。メニューを手に取り開く。表のメニューボードにあったものと同じ名前が載っている。やはり新作とのことでメニューにでかでかと写真つきであった。ブルーハワイのような青いドリンク系のスイーツらしい。チョコレートで出来た鳥の羽のアクセントが素敵な一品。
呼び鈴を鳴らすとウェイトレスが来るが、やっぱり全身真っ黒なので表情が見えない。
新作スイーツを注文すると、ウェイトレスは何気ない様子で話してきた。
「そいえばいつも一人で来てるよね?一人は好き?」
「はい!」
私は普通に答える。
「お食事はお友達と一緒の方がもっと美味しくなるはずよ♪」
ウェイトレスは得意げに言ってのけたが、私は申し訳無さそうに返す。
「…好き嫌いがあるもので、食べるところを見られたくないの。」
「まぁ!そうなの?」
ウェイトレスは少し驚いたような声を上げた。
私は少し俯いて気まずそうにする。
「まぁ、食の好みって人それぞれだもんね。これからご注文伝えるから、出来るまで待ってて。」
ウェイトレスは屈託のない様子で言い、スカートを翻して厨房へ消えた。声色は軽やかだったが、顔はどんな色を浮かべていたのだろうか。この街の人たちの顔は私のには見えないが、私の顔は彼らからどう見えているのだろう。
ときどき、そんな不安がふと過る。

「黒い街」Ⅱ

6/12/2023, 10:40:55 AM