晴れた空の 高さに似合うような
そんな言葉を 探していた
貼り合わせた日々の 隙間を縫うように
微睡みが 零れ流れていく
そんな秋の夕暮れ。
この世界から君が消えて
ようやくそれも世界に馴染んできて
でもこの夕景に探してしまう
揺れるバスの窓には逆さまの僕だけ
橙に染まった鱗雲に
二重の虹がかかって
この世界の片隅は
無限の美に引き延ばされているらしい。
この虹の深さを、鮮やかさを、
君にどうやって伝えよう。
この空の高さを、清々しさを
どうやって呑み干せばいいのだろう。
こんな言葉を探しては埋めて、
いつまでも僕は綴るのだろうか。
やがて
秋の葉に誘われて
言の葉が朽ちるまで。
(秋晴れ)
朝、光が差した。
手を握りしめた。
生きている感覚がした。
秋の気配がする。
底冷えの朝六時。
まだ少し早いかな。
いや、起きてしまおう。
小さなテーブルに食パンを並べて
今朝の夢を
紅茶にとかして飲み込んだ。
かけたままの風鈴が
夏の記憶を悼んでいる。
八月のままのカレンダーを
ぼうっと遠目に見つめながら
今日という日を夢想した。
カーテンを透過した木漏れ日が
僕の右手を往復する。
やわらかな光が、あたたかい。
(やわらかな光)
高く高くあらねばならなかった
秋の青天井のように
ひたすらに高くあらねばならなかった
そうでなきゃばらばらになっちまうんだ
人生に必要なものは何か
金か、愛か、欲か、希望か
痛みか、悲しみか、憂いか、喜びか
翌る日も翌る日も考えた
星を眺めてはアスファルトを見つめ
雨の日は傘の中でひとり考えていた
冷えた秋の夜。
‥誇りだ。プライドだ。傲慢さと過信だ。
それが俺を繋ぎ止めているんだ。
俺は俺が嫌いだ
いや、俺は俺が嫌いだということにしている
そんな自分は好きじゃないが、
生きるのには傲慢さが必要だ。
俺は俺の遍歴を、仕事を、成果を、過去を、
この人生を尊敬している、いやしていることにしている
そしてその裏で
自尊心を蓄えて他人を見下している気がするし、
そうでない気も、単に権力志向なだけな気もするし、
ただ崇高な仕事人としてありたいとも思うし、
傲慢にもすでにそうである気もしているが、
たぶん、全部、思い込みだ。
全部、このプライドの高さが成せる、
上っ面の哲学もどきだ。
そしてこの頭に癖づいてしまった悪癖が
俺を俺たらしめている。
プライドは高く持たねばならぬ
俺は傲慢であり続けなければならぬ
ひたすらに高く
高くあらねばならぬ
この突き抜けるような青天井と宇宙との境界をも
突き破り去るほどに
高くあらねば
俺はひとつでいられない。
(高く高く)
あの夏の日、
とある街の、とあるバス停で
もう二度と会えないと思っていた君に出会った。
うっすらと雨の匂いの染みた二車線道路に
いつかの淡い想いが、しまったはずの記憶が、
ちらつくように喉の奥を刺す。
どうしようもない、あの夏の日の思い出。
だけれど、どうしてだろう、君の、君だけの
けはいが、せなかが、もうどこにもいない。
あの街と、あのバス停と、あの二車線道路と、
いっしょに押し流されてしまった君の輪郭を、
ただ、ただ、ただ、ただ、
いつまでも、いつまでも、追っている
。
(奇跡をもう一度)
雨が降る下り坂を
傘も差さずに歩いた
道路脇をいつかの花びらと
不甲斐なさが流れている
こんなのはとんだ三文芝居だ。
横隔膜の上の気持ち悪さが
僕の息を邪魔するんだ
視界の端、道行くランプが鬱陶しい
こんな悲劇のごっこ遊びがしたいわけではないんだ
ああ、
ああ、
どうか優しくしないで
生温い毒はもううんざりなんだ
もう、優しくしないで。
(優しくしないで)