インディウム

Open App

鴨川沿いを歩いて下る。


日は暮れ泥んで、

日陰は、その領域を拡げていく。


修道院やら幼稚園やらの影が

河川敷を呑み込んでいって、

やがてその影は

病棟やアパートの影と一体になっていく。


一刻ごとに拡がる日陰は、

まるでひとつのケモノのように、

しかして全く無機質に、

やがて川面の煌めきすらも呑み干していく。


そうして残されたわずかな日向にも

ついには日陰が染み出していって、

とうとうひとつの世界を成した。


ところで今宵は新月であって、

この世界で煌めくものは

今やもはや寒空に浮かぶ

寂しげな金星だけである。




しかしながら

この削ぎ落とされた世界に残った金星の

何と気高く美しいことか。


この夜という世界では

たったその金星の表だけが

唯一の日向なのだ。



あんな輝きが我が手にあれば、

あるいはその一片でも

我が人生が抱擁するというなら、

きっとそれを

幸せと呼ぶに違いない。


(日陰)

1/29/2025, 1:29:09 PM