NoName

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9/6/2024, 4:16:14 PM

如何して気付いてやれなかったんだ。
お前はこの世界を、必死で生き抜いてきたのに。
誰よりも優しくて、健気で、愛に溢れていて。その根底にある想いは只一つ。『皆が幸せに天寿を全うする』。それだけだった。
なのに、こうも世界は、人間を残酷な運命に閉じ込めてしまうのだ。

それに気付いた時には遅かった。
引かれた境界線は、越えたくても越えられなくて。お前はいつも通りの笑みで此方を見つめている。
まるで、「また会えますよ」と言いたげに。

そうかもしれない。屹度俺等はまた巡り会える。その時は、その時こそは、お前のSOSを、ちゃんと聞き届けるから。ちゃんと、絶対、手を差し伸べるから。

お前は人の死を見過ぎた。見過ぎて、絶望した。俺等はずっと、お前に護られていた。

手遅れな手は、虚空を切る。



「…また、もう一度、会いましょうね」










*タイムオーバー

*人生 を 再スタート しますか ?

▼ YES
  NO

*人生 を リスタート します。










時が告げられる。
また、絶望の幕が開ける。



「初めまして」

「…あ"?誰だお前」

8/25/2024, 3:56:20 PM

私はよく『泣き虫』と言われる。
自分でも自覚があるし、そう言われるのも仕方ないと思うし、直したいとも思っている。

初めて自覚したのは小学5年生の頃。委員会の仕事で、ルールを守れていない子に注意する役割をもっていた私は、クラスのカースト上位である女の子に注意をした。
その女の子は頑なに守れていない事を認めたくないようで、私に対し苦しい言い訳を繰り返し、大声で怒鳴った。
私が正しいのは明らかだ。絶対彼女が間違っていると断言出来た。それなのに、目の前にいる彼女の責めるような口調、態度、声量に押し負け、涙を流してしまった。


「何で泣くの。私が悪いみたいじゃん。やめてよ」


それ以来私は、その子が苦手になった。そして同時に、私は自分が悪かろうと悪くなかろうと、そう言う言い方をされると泣いてしまう程泣き虫で弱いのだという事を知った。

__そして私は今、カフェで幼馴染と向かい合わせで座っている。

私は、他愛の無い話をする幼馴染の顔を見る事が出来ない。昔のあの出来事がフラッシュバックし、怖くなってしまうから。
幼馴染は、私にメニューを見せてきた。「これ美味しそうじゃない?一緒に食べようよ」と言った。シェアが苦手なタイプなのに珍しい。と思った私は、思わず顔を上げた。


「あっ、やっと顔見てくれたね」


ガシッ、と顔を両手で挟まれる。しまった、罠に嵌ってしまった。幼馴染は私をじっと見つめると、やがて柔らかく微笑んで言った。


「貴方と真正面から向き合いたいの。だからここに座ったんだよ?…昔のまま、弱虫で良いの?」


幼馴染のその一言が、何故か私を鼓舞した。私は否定すると、自分の意志で幼馴染の顔を見つめた。ほんのり嬉しそうにするのを捉えた。

…何だ、案外、単純に克服出来るものなんだな。

私の中の過度な恐怖心が消え去った気がした。
私は幼馴染と、向かい合わせの席で、暫く紅茶を嗜むのだった。

8/24/2024, 4:05:06 PM

私には3つ上の姉がいる。
姉は中学時代生徒会長をやっていたらしい。先生からの信頼も厚く、姉が卒業すると同時に入学した私はすぐ様有名人となった。

"出来ない妹"として。

姉は勉強が出来た。学年上位の成績を残していた。
姉は運動が出来た。運動会で団長として活躍していた。
姉は芸術が出来た。絵は入賞し歌は上手かった。

ありとあらゆる才能を、あの人は持っていた。
母には姉と同じ高校に進学しろと言われた。その方が制服代を浮かせられるからって。
この辺りじゃ有名な進学校。勉強の出来ない私からしたら雲の上の存在。高嶺の花な姉と同レベルになれ、なんて。

__嗚呼。本当、遣る瀬無い気持ちになる。





私には3つ下の妹がいる。
妹は小学校の頃から独創的なアイディアであっと人を驚かせたらしい。ボランティアにも積極的に参加していて、他地域にも行く事があるからか、クラスメイトが何故か妹を知っていた、なんて事もよくあった。

大好きだ。

妹は気遣いが出来た。人の体調不良にすぐ気付いた。
妹は手伝いが出来た。母と共によく台所に立っていた。
妹はお世話が出来た。近所の子供の遊び相手になっていた。

ありとあらゆる思いやりを、あの子は持っていた。
あの子が母から私と同じ学校に行けと言われているのを見て、申し訳なかった。私は流され易い人間だ。薦められるままに高校を受験して、薦められるままに通っている。
私というブランドをあの子が背負わないように、私は私を抑えなくては。高校では生徒会には入らない。何にも関心の無い、一般女子高校生でいよう。

__嗚呼。本当、遣る瀬無い気持ちになる。

8/22/2024, 5:22:20 PM

「君の事が大切だよ」

「大事な友達だよ」

「いつもよく頑張ってるね」


裏返す。


『…って、言っておけば満足でしょ?』

『失敗ばかりするから尻拭い大変なんだよね。マジやめて欲しい』

『私の方が頑張ってるけど、他人に頑張ってるって言ってあげられる私、優しいなぁ』


裏返す。


「君の事が大切だよ」

「大事な友達だよ」

「いつもよく頑張ってるね」


嫌だ。もう嫌だ。
裏返す力が身に付き過ぎて、人の言葉全てに裏を感じる。
そうでないかもしれない言葉にも、裏を感じて、涙を流す。


「如何したの?」

「話なら聞くよ」

「自分の中でストレス溜め込み過ぎないでね」


裏返す。


『何で良い歳して泣いてるの?』

『どうせくだらない話だろうけど』

『お前の構ってに付き合ってるこっちの方がストレス溜まるんだけどねえ』


聞こえる。聞こえるんだ。怖い。怖い。
この裏返す力は、きっと生涯付き合わなきゃいけない力で。だから私は、一生恐怖に怯えて生きていかなきゃいけなくて。
嗚呼、なんて残酷な世界なんだろう。

世界に絶望していたある日、クラスメイトの男子が、放課後の、2人しかいない教室で、私を呼び止めた。


「俺と付き合ってください!」


裏返す。


『言っちゃった…!告白しちゃった…!!』


好き、って言葉、信用出来ないの。それでも良い?そう言うと、彼は優しく微笑んで、どうしてそれで萎えると思ったの?って返した。

……好き、なんて。

裏返す、なんてしず、縋ってみようと思った。
彼が差し出した手を掴むと、彼は嬉しそうに笑った。





数十年後。


「見て。懐かしいね、結婚式の写真だよ」


裏返す。


『やっぱり、好きだなぁ。可愛いなぁ』


裏返す。


「私もね、好きだよ」

8/21/2024, 4:19:08 PM

「逃避行をしよう」

君はそう言った。
望まれず生まれた子供達。仲間達。
最後に残った俺と君も、苦しかった。
2人で隣の国へ逃げよう、と決めた。
こんな冷たい国じゃない、明るい国へ。
鞄には、ありったけの、2人だけの思い出の品物を詰めて、
半年前始めた、2人の逃避行。
望まれず生まれた俺達だから、望んで生きた唯一の時間は楽しかった。生きてる、って思えた。
俺達は幸せだった。


それも一瞬で、儚く崩れ去った。
君は地獄に生きていたのに、誰よりも優しい人間だった。
だからきっと、終わらせたかったのだろう。
空腹に力尽きそうな俺に差し出された、食べ物。
虚ろな焦点の定まらない目で、それを咄嗟に掴んで食べた。
君の心で、君の命だった筈なのに、いや、だからこそ、食べてしまった。


そして着いた。隣の国へ。
君が忽然と居なくなった後、我武者羅に逃避行を続けて、漸く辿り着いた。
俺は臆病だったから、君のいない人生を最期まで生き続けるなんて、出来やしなかった。
本当は、君の希望に魅せられた人は沢山いたんだ。今、仲間達と、崖で想い出を語っている。
俺は、逃避行を終わりにする。君との追いかけっこも、終わりにする。昔、仲間達と遊んで、決着のつかなかった追いかけっこ。

「さあ、飛び立とう。全ては、鳥のように」

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