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「君の事が大切だよ」

「大事な友達だよ」

「いつもよく頑張ってるね」


裏返す。


『…って、言っておけば満足でしょ?』

『失敗ばかりするから尻拭い大変なんだよね。マジやめて欲しい』

『私の方が頑張ってるけど、他人に頑張ってるって言ってあげられる私、優しいなぁ』


裏返す。


「君の事が大切だよ」

「大事な友達だよ」

「いつもよく頑張ってるね」


嫌だ。もう嫌だ。
裏返す力が身に付き過ぎて、人の言葉全てに裏を感じる。
そうでないかもしれない言葉にも、裏を感じて、涙を流す。


「如何したの?」

「話なら聞くよ」

「自分の中でストレス溜め込み過ぎないでね」


裏返す。


『何で良い歳して泣いてるの?』

『どうせくだらない話だろうけど』

『お前の構ってに付き合ってるこっちの方がストレス溜まるんだけどねえ』


聞こえる。聞こえるんだ。怖い。怖い。
この裏返す力は、きっと生涯付き合わなきゃいけない力で。だから私は、一生恐怖に怯えて生きていかなきゃいけなくて。
嗚呼、なんて残酷な世界なんだろう。

世界に絶望していたある日、クラスメイトの男子が、放課後の、2人しかいない教室で、私を呼び止めた。


「俺と付き合ってください!」


裏返す。


『言っちゃった…!告白しちゃった…!!』


好き、って言葉、信用出来ないの。それでも良い?そう言うと、彼は優しく微笑んで、どうしてそれで萎えると思ったの?って返した。

……好き、なんて。

裏返す、なんてしず、縋ってみようと思った。
彼が差し出した手を掴むと、彼は嬉しそうに笑った。





数十年後。


「見て。懐かしいね、結婚式の写真だよ」


裏返す。


『やっぱり、好きだなぁ。可愛いなぁ』


裏返す。


「私もね、好きだよ」

8/22/2024, 5:22:20 PM