ルール
杏さんと俺の中のルールは基本ふたつ。
決まりをつくると
守った守らないで喧嘩になるから
のっぴきならない事がない限りは
決まりは作らない。
これからどうする、より
どうやって解決するかが大事。
もうひとつはそんな二人の間で決められた
唯一と言って良いほどのルール。
ある日ふと冷蔵庫に入っている
駅前のスイーツ店の限定プリンは
どんな理由があっても食べてはならない。
食べたが最後、
杏さんが般若の顔になって戻ってこなくなる。
もうあんな鬼みたいな顔は
見たくない…。
マジで怖かった。
たとえ間違いだったもしても
迷い癖のある私。
アイスクリームのフレーバーを選ぶような
小さなことですらパッと決められない。
「杏さん迷ってる?もしや。」
「うう、お察しの通り…」
「いいよいいよ、ゆっくり悩みなー」
なかなか決められない私を
なんにも気にしない様子のシロくん。
「ごめんねいつも優柔不断で…」
「ぜーんぜんっ」
そう言ってニカッと笑顔をくれる。
苦悩の末やっと注文を決めて
近くのフードコートで食べることに
「んまぁ!」
「杏さんほんといい顔で食べるよね笑」
「久しぶりに食べたけど最高や…!」
「その味で正解?」
「間違いなし!大満足!」
「そゆとこほんといいよねぇ、杏さん。」
「??」
「杏さんは決めたことには絶対に後悔したり、
やっぱりあっちのがよかったなーとかクヨクヨしたりはしないなって。
今日みたいにアイスのフレーバーでも、人生を左右するような大きな決断でもさ。
たくさん時間かけて迷うし悩むけど、出した答えには迷いがないというか。」
「あー、それはそうかも。」
「その時の自分の最上の答えだから
間違ってたとしてもそれはそれで受け入れるって
前に言われたのすごいかっけえなって覚えてるんだよね。」
「そ、そう?」
照れくさくて、へへへと笑う私。
「そゆとこも好きよ?」
彼にそう言われて
また自分のことを少し好きになれた…気がする。
雫
「今日はお祝い!!飲む!!!」
大親友の友人の結婚式の三次会迄楽しみ尽くした彼女がまだ飲み足りないと帰ってきた。
「杏さん大丈夫?」
「全然へーき!!」
「まぁお酒は強いって知ってるけど。」
とりあえず水を飲ませようと準備していると
彼女はお酒専用の冷蔵庫から大事そうに取り出してきたお酒を見せつけてきた。
「…雫酒」
「一緒にのも?って明日休みだよね?」
「うん。俺はへーき。」
「よし!のも!」
小さく乾杯をして
彼女は美味しそうにお酒を飲む。
俺も一口飲むと、彼女がドヤ顔でこちらを見ていた。
「美味しいっしょ」
「んまい。すごい美味しい。」
「そ」
何もいらない
シロくんは優しい。
一緒にいるとお姫様になったんじゃないかって
思うくらい甘やかされている自信がある。
過去にこんなに優しくされたことがなかったから
初めは戸惑うこともあったくらいだ。
さりげなく車道側歩いてくれたり
飲みでもご飯でもリサーチ完璧だし、
とにかくこっちが気づく前に色々気がついて
サラリと自然に助けてくれるのだ。
「シロくんって優しいよね。」
ある日。
職場の仲間で飲んだ帰りに送ってくれるという彼に
酔いに任せて聞いてみた。
「え、俺すか?普通ですよ笑」
「いやいや。こんな優しい人会ったことないよ」
「ほんと?やった!」
「あはは笑」
「今度はちゃんと私がリードしていい飲み屋探さなきゃな!!」
「…」
「え?どしたの?」
シロくんが私の手を取っていた。
ドキッとして彼を見ると、彼は真剣な顔で
「俺は、杏さんになんかして欲しいって思ったこと何も無いよ。」
「あ、、そっか、ごめん、見当違いのこと言ってたかな?」
「そうじゃなくて、その、何にもいらないからさ」
真っ直ぐな瞳に撃ち抜かれそうになる。
ドキドキしながら続きを待つと彼は続けた。
「俺を好きになって。」
無色の世界
人と仲良くなるのが苦手だった。
嫌われるのが怖いから。
こう言えば嫌われるかも。
こうしたらウザがられるかもしれない。
学生時代の失敗を引きずって、
大人になってからも他人と深く関わることを
避けて生きてきた。
周りから見たらきっと
見えてるようで見えていない
透明人間のような存在なのかもしれない。
それで良かった。…はずだった。
だけどシロくんに出会って
世界が変わった。
彼は私と一緒にいたいと言ってくれた。
人付き合いが苦手な私を
それも貴方だと受け入れてくれた。
私がわがままを言えるようになったのは
間違いなく彼のおかげだ。
付き合ってしばらくしてから
彼に聞いてみた。
「どうして私だったの?」
そう言うとシロくんは
ふふっと笑って
「杏さんを初めて見た時、キラキラってしてたんだ」
と言った。
「キラキラ?」
「他の人とは違うって直感したの。」
「そんなこと言われたことないよ?目立たないとはいよく言われるけど。」
「めっちゃ目立ってたよ?少なくとも俺には」
「…そう、なんだ」
その真っ直ぐな言葉は、
私の心にずっと染み込んでいく。
そしてまたひとつ、
私が色づいていくのだ。