桜散る
「今年ももう桜終わっちゃうねぇ」
彼女はベランダで残念そうに桜の木を眺めながら晩酌のビールを飲んでいる。
俺は夕飯の食器の片付けをしながら
彼女の話を聞いていた。
「杏さんがこの部屋に引っ越す事にした決め手だったもんね」
「そう!!ここはお花見最強スポットなんだから!」
「めちゃくちゃドヤ顔してる笑」
彼女は新居の内見の際に窓から見える
桜をいたく気に入ってこの部屋に引っ越すことを決めたのだ。
『お花見が家でできるのすごくない!?』
興奮気味なメッセージと共に写真が送られてきたのを
よく覚えている。
「秋の紅葉も好きだけどさー、咲き始めのワクワクする感じが桜にはあって好きなんだよね。」
「ふふ、そうなんだ。」
みんなでまだかな、まだかなって待ってさ、
役所の人が仰々しく双眼鏡で確認して
開花だ!!!って宣言するの。
なんか、可愛いというか愛おしくなるんだよね。
そう言って彼女は散り始めた桜を
名残惜しそうに眺める彼女。
片付けを終わらせて彼女の隣に座ると
髪の毛に桜の花びらが付いているのを見つけた。
「杏さん、髪に桜がついているよ」
「ほんと?かわいい??」
「ふふ、確かにいつもより可愛く見えるね」
「シロくんは優しいなぁ」
本当のことだからね、と俺は彼女に口付けた。
桜を愛おしむ気持ちも、散ってしまうのが少し寂しいと感じる気持ちも、貴方に出会って知った。
だから来年もまた2人で桜を眺めて
なんでもない話をしようね。
そんな想いをこめて、もう一度口付けた。
夢見る心
「杏さんって夢ってある?」
5歳下の彼氏、シロくんに聞かれたことがある。
「夢かぁ。」
具体的に貯金がこれくらい欲しいとか
働かなくても生活できるようになりたいとか
なんとも味のないことしか浮かばなくて
「最近考えてないなぁ」
と正直に話した。
彼はまぁそうよねーと苦笑する。
そういうシロくんはどうなの?と聞いてみた。
こんな役職につきたい。趣味を仕事にしてみたい…とか、てっきりそっちの話が出ると思ってた。
「俺は、そうだなあ。あなたと家族になりたい。」
「…意味わかって言ってる?」
「分からないほどガキじゃないつもりですけど」
「そ、そうよね。」
「ちゃんと聞いてた?」
「骨身に刻んだ」
真っ赤な顔でそう応えると
彼は私の大好きな笑顔を向けてくれた。