夜が明けた。
「好きだよ」
好きな相手に好きだって伝えるのって
とても難しいと思ってた。
言わなくても態度で伝わるでしょって
思ってた。
正直照れくさい、って思ってた。
そんな価値観をガラッと変えてくれたのが
彼女、杏さんだった。
「好きって言うのが照れくさい?」
まだ僕らがただの先輩後輩だった頃、
飲みの席で元カノの話を聞いてもらってた時。
先輩だった杏さんは驚いた顔をしてそう言った。
「なんか好き好き言うの歯が浮きそうになるっていうか。。ガラじゃないって言うか。一緒にいるんだから好きに決まってんじゃん、って思っちゃったんすよね。」
「まぁ、確かに言い慣れないと照れくさいっておもっちゃうのかもねぇ」
でもね、と杏さんは続けた。
「大切な人に好きって伝えられるのって幸せな事だよ。とってもね。」
「確かにそうですけど…」
「シロくんもちょっと後悔してるんでしょ?」
「まぁ、不安にさせた結果その後振られましたからね。」
「じゃあその分、次に誰かを好きになったらその分沢山気持ち伝えていかなきゃね」
「そうなれるように頑張るっす!」
「えらい!!!ちゃんと経験を糧にして成長してる!シロくんのそゆとこ好きだよ」
その瞬間。
酔って少し赤らめた顔で
ふにゃっと笑った杏さんに
ときめいてしまった。
「俺も優しい杏先輩好きです」
咄嗟にそう言っていた。
(杏さんは酔って覚えてなかったけど。)
君からのLINE
「まーた変なスタンプ買ってる…」
彼女からのLINEに俺は思わず苦笑いを浮かべる。
画面にはネタスタンプが連打されていて
「最高に可愛くない!?」と一言だけ
メッセージが残っていた。
彼女…杏さんは周りからは仕事のできるしっかりとした女性として通っており、
こういうことを出来るのが多分ほんの一部の友人と
恋人である自分だけなのだ。
だからなのか
使えないスタンプ買うなよと少し呆れる反面、
心を許してもらえてる嬉しさもある。
「︎👍🏻 ̖́-」と返信を返しながら
こういう所も可愛いなって思っている俺は
相当彼女を好きなのだなと改めて思った。
誰にも言えない秘密
誰にも言えないから「秘密」なのだ。
私にもいくつかある。
秘密にした時点で
誰にも言わない。
それが大切な人であっても。
大切な人だから言わない、とも言えるけど。
「めちゃくちゃ意味深…」
「見ても言わないよ?笑。ってかそんな大層な秘密持ってないし。私も。」
「怪しい…」
そう言うとシロくんはさっきより大袈裟に
私を見つめてきた。
いたずらっ子のような表情のシロくん。
「無理に聞きだす気もないくせに」
「…バレたか笑」
彼のこういうところ、
本当に好きだ。
でも今これを言ったらなんか負けな気がして
あえて言わないことにした。
これも「誰にも言えない秘密」…かな?
梅雨
雨が降っている。
昨日梅雨入りしたとニュースで見たのを
思い出す。
何より体調が思わしくない。
頭も身体は重いし
ずっと眠い。
「杏さん大丈夫?」
休みの日で遊びに来ていた
シロくんが心配そうに
ソファでゴロゴロする私の隣に座った。
「ごめんねシロくん。せっかく来てくれたのに」
「俺も会いたくて勝手に来たから気にしないで」
そう言って良かったらと
温かいカプチーノを勧めてくれた。
「すごい。美味しそう」
「友達から貰ったんだ。ミルクフォーマー。使ってみたくて持ってきちゃった。」
1口飲むと美味しくて
思わずふふっと口元が緩んだ。
「すごく美味しい」
「よかった」
そう言ってシロくんは私の頭を優しく撫でた。
「少し楽になったら後で映画見よう。一緒に見たくて見るの我慢してたやつあるんだ」
「うん。」
「無理はしないでね?」
「ふふ、大丈夫。ありがとうね」
彼の優しさとカプチーノが
身体のだるさを
少し和らげてくれた気がした。