あんず

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4/5/2025, 5:07:27 PM

「好きだよ」


好きな相手に好きだって伝えるのって
とても難しいと思ってた。

言わなくても態度で伝わるでしょって
思ってた。

正直照れくさい、って思ってた。

そんな価値観をガラッと変えてくれたのが
彼女、杏さんだった。


「好きって言うのが照れくさい?」

まだ僕らがただの先輩後輩だった頃、
飲みの席で元カノの話を聞いてもらってた時。

先輩だった杏さんは驚いた顔をしてそう言った。

「なんか好き好き言うの歯が浮きそうになるっていうか。。ガラじゃないって言うか。一緒にいるんだから好きに決まってんじゃん、って思っちゃったんすよね。」

「まぁ、確かに言い慣れないと照れくさいっておもっちゃうのかもねぇ」

でもね、と杏さんは続けた。

「大切な人に好きって伝えられるのって幸せな事だよ。とってもね。」

「確かにそうですけど…」

「シロくんもちょっと後悔してるんでしょ?」

「まぁ、不安にさせた結果その後振られましたからね。」

「じゃあその分、次に誰かを好きになったらその分沢山気持ち伝えていかなきゃね」

「そうなれるように頑張るっす!」

「えらい!!!ちゃんと経験を糧にして成長してる!シロくんのそゆとこ好きだよ」

その瞬間。

酔って少し赤らめた顔で
ふにゃっと笑った杏さんに
ときめいてしまった。

「俺も優しい杏先輩好きです」

咄嗟にそう言っていた。
(杏さんは酔って覚えてなかったけど。)

9/16/2024, 9:18:14 AM

君からのLINE


「まーた変なスタンプ買ってる…」

彼女からのLINEに俺は思わず苦笑いを浮かべる。

画面にはネタスタンプが連打されていて
「最高に可愛くない!?」と一言だけ
メッセージが残っていた。

彼女…杏さんは周りからは仕事のできるしっかりとした女性として通っており、
こういうことを出来るのが多分ほんの一部の友人と
恋人である自分だけなのだ。

だからなのか
使えないスタンプ買うなよと少し呆れる反面、
心を許してもらえてる嬉しさもある。

「︎👍🏻 ̖́-」と返信を返しながら
こういう所も可愛いなって思っている俺は
相当彼女を好きなのだなと改めて思った。

6/5/2024, 12:57:04 PM

誰にも言えない秘密


誰にも言えないから「秘密」なのだ。
私にもいくつかある。

秘密にした時点で
誰にも言わない。

それが大切な人であっても。

大切な人だから言わない、とも言えるけど。

「めちゃくちゃ意味深…」

「見ても言わないよ?笑。ってかそんな大層な秘密持ってないし。私も。」

「怪しい…」

そう言うとシロくんはさっきより大袈裟に
私を見つめてきた。
いたずらっ子のような表情のシロくん。


「無理に聞きだす気もないくせに」

「…バレたか笑」


彼のこういうところ、
本当に好きだ。

でも今これを言ったらなんか負けな気がして
あえて言わないことにした。

これも「誰にも言えない秘密」…かな?

6/1/2024, 11:19:21 AM

梅雨


雨が降っている。
昨日梅雨入りしたとニュースで見たのを
思い出す。

何より体調が思わしくない。

頭も身体は重いし
ずっと眠い。

「杏さん大丈夫?」

休みの日で遊びに来ていた
シロくんが心配そうに
ソファでゴロゴロする私の隣に座った。

「ごめんねシロくん。せっかく来てくれたのに」

「俺も会いたくて勝手に来たから気にしないで」

そう言って良かったらと
温かいカプチーノを勧めてくれた。

「すごい。美味しそう」

「友達から貰ったんだ。ミルクフォーマー。使ってみたくて持ってきちゃった。」

1口飲むと美味しくて
思わずふふっと口元が緩んだ。

「すごく美味しい」

「よかった」

そう言ってシロくんは私の頭を優しく撫でた。

「少し楽になったら後で映画見よう。一緒に見たくて見るの我慢してたやつあるんだ」

「うん。」

「無理はしないでね?」

「ふふ、大丈夫。ありがとうね」


彼の優しさとカプチーノが
身体のだるさを
少し和らげてくれた気がした。




5/9/2024, 11:43:43 AM

忘れられない、いつまでも


あの日は珍しく父とふたりで外出をした。
父は口うるさいし顔も怖いけど
とても優しい人だった。

父の日が近いこともあって
なにかプレゼントをしたいと言う私に
今日2人で出かけてるのがプレゼントだから
別にいらんぞと嬉しそうに言った。

父へのプレゼントを半ば強引に買い、
夜は美味しい居酒屋でお酒を飲んで
沢山話をした。

母さんも連れてくれば良かったかなと言うと
今日は父さんとデートなんだからダメだと
言ったのが可愛いなぁと思ったことを
よく覚えている。

酔いも回ってきた頃、父が突然

「杏は大事な人っているのか」

と聞いてきた。

「え!いないよー。作る暇ないもん忙しくて」

「確かに。毎日大変そうだもんな。」

「欲しいけどねぇ。彼氏。」

なかなかむずかしいんすよ、、と
とほほ顔の私に父は

「…どんな人と付き合っても父さんも母さんもお前が選んだ人なら大丈夫だと思ってるから、もし紹介したくなったらいつでも遊びに来なさい。」

と穏やかな声色で言った。


「父さんは『娘は渡さん!』っていうタイプかと思ってた笑」

冗談交じりにケラケラ笑う私。
すると父はより穏やかな声で

「そんなわけないだろ?父さんが母さんに出会って、人生が明るくなったように、杏にも自分の人生観が変わるような出会いがあるはずだよ。その時が来たらきっと杏にもわかる。この人なんだって」

その時の父さんの言葉、表情、お店の喧騒、全てが
一枚の写真のようにずっと忘れられないでいる。

そしてそれから数年後、
私はシロくんに出会った。

父さんの言葉の本当の意味を
その時わかったように思う。




「杏さん、俺やっぱりスーツで行った方がよくない!?初めてお家にお邪魔するのに普段着でほんとにいいの!?」

「大丈夫。父さんも母さんもそういうので人を見たりしないよ。」

「うう、緊張する、、」

そう。父も母も私が選んだ人を
この人と生きるって決めたってことを自分の事のようによろこんでくれるはず。

きっとあの日と同じような顔で声で
私たちを受け入れてくれる。




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