あんず

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5/9/2024, 11:43:43 AM

忘れられない、いつまでも


あの日は珍しく父とふたりで外出をした。
父は口うるさいし顔も怖いけど
とても優しい人だった。

父の日が近いこともあって
なにかプレゼントをしたいと言う私に
今日2人で出かけてるのがプレゼントだから
別にいらんぞと嬉しそうに言った。

父へのプレゼントを半ば強引に買い、
夜は美味しい居酒屋でお酒を飲んで
沢山話をした。

母さんも連れてくれば良かったかなと言うと
今日は父さんとデートなんだからダメだと
言ったのが可愛いなぁと思ったことを
よく覚えている。

酔いも回ってきた頃、父が突然

「杏は大事な人っているのか」

と聞いてきた。

「え!いないよー。作る暇ないもん忙しくて」

「確かに。毎日大変そうだもんな。」

「欲しいけどねぇ。彼氏。」

なかなかむずかしいんすよ、、と
とほほ顔の私に父は

「…どんな人と付き合っても父さんも母さんもお前が選んだ人なら大丈夫だと思ってるから、もし紹介したくなったらいつでも遊びに来なさい。」

と穏やかな声色で言った。


「父さんは『娘は渡さん!』っていうタイプかと思ってた笑」

冗談交じりにケラケラ笑う私。
すると父はより穏やかな声で

「そんなわけないだろ?父さんが母さんに出会って、人生が明るくなったように、杏にも自分の人生観が変わるような出会いがあるはずだよ。その時が来たらきっと杏にもわかる。この人なんだって」

その時の父さんの言葉、表情、お店の喧騒、全てが
一枚の写真のようにずっと忘れられないでいる。

そしてそれから数年後、
私はシロくんに出会った。

父さんの言葉の本当の意味を
その時わかったように思う。




「杏さん、俺やっぱりスーツで行った方がよくない!?初めてお家にお邪魔するのに普段着でほんとにいいの!?」

「大丈夫。父さんも母さんもそういうので人を見たりしないよ。」

「うう、緊張する、、」

そう。父も母も私が選んだ人を
この人と生きるって決めたってことを自分の事のようによろこんでくれるはず。

きっとあの日と同じような顔で声で
私たちを受け入れてくれる。




5/4/2024, 11:05:28 AM

二人だけの秘密


部署は違うけど同じ会社に勤める私たち。
別に付き合いを隠してるわけじゃないけど
みんなに言う必要もないと思って
あえて言わないでいる。


「津部さん(杏さん)お疲れ様です。今お時間いいですか?」

「賀田くん(シロくん)お疲れ様。どうしたの?」

企画書の件で確認したいことが…と
シロくんがやってきた。

いつも私に見せるふにゃんとした雰囲気とは
全く違う凛々しい姿にちょっとドキッとする。

…シロくんわざとカッコいい感じ出してるな。
何となくわかる。

「ありがとうございます。では僕はこれで。」

確認を終えてシロくんが部屋を出ていくと
隣の席のマキちゃんがため息をついた。

「賀田くんかっこいいですよねぇ、、」

「ねぇー…ん?」(LINE着信)


(杏さんさっきめっちゃクールでカッコよくて素敵だったよ…(*´³`*) スキスキ)

「(´゚艸゚)∴ブッ」

「先輩?」

「う、ううんなんでもない…笑」


このギャップは内緒だな。
可愛すぎる笑笑

5/1/2024, 11:49:18 AM

カラフル


仕事を終えて会社を出る。
あぁ、今日はダメダメだった。
疲れすぎた。
自分の仕事も忙しかったし
トラブル対応もあった上に
ややこしいクライアントとの商談も重なった。

あかん、ヘロヘロや。。

こんな日はあれに限る。
心を決めた私は閉店間際のデパートへと
早足で向かった。


「…よし。」

「杏さん…これ全部食うの?」

「気が済むまで食べる。」

「もしかしてこれ…」

「お店にあったマカロン全種類!!」

「…コーヒーいれてあげるね笑」

お気に入りのお皿に
色とりどりのマカロンを並べて
にんまり顔の私と隣で苦笑いを浮かべるシロくん。

可愛いものを愛でる。
それを食べることで
心も体も満たされていく、という魂胆だ。


ひと口食べると
まったりと甘い味が口に広がった。

「くぅっ、甘いねぇーー」

「やってる事可愛いのにリアクションオッサンなんだよな、、笑」


…まぁ案の定、2個でギブでしたけど。


「だから俺聞いたでしょ、全部食うのって」


シロくんが、杏さんらしいわって笑いながら
コーヒーをお茶に代えてもってきてくれたのでした。



4/28/2024, 12:45:23 PM




「お前の生き方って刹那的すぎんのよ」

昔、大学時代の先輩と飲みに言った時に言われたことがある。


「どゆこと?せつなてき?」

「刹那っていうのは極めて短い時間、みたいな意味な。ってか知らんのか、意味」

「わざと難しく言うなよな。」

俺がそう文句を言うと
先輩は大事なのはそこじゃないのよと言って
グラスのビールを飲み干した。

「あんまりにも先を考え無さすぎなんだよな。その日が楽しかったらいい、今この瞬間が楽しいのが1番!みたいなのが見てて危なかっかしいんだよな。
そろそろちゃんと将来の事とか考えないと。」

「ジジィみたいなこと言うなよめんどくせぇ。いいんだよ、俺は。多分だけど早死するタイプだからさ。その日この瞬間を楽しいって思えてないとある日突然死んだら後悔するじゃん。」

子供の屁理屈みたいな事を言ってると
思ってはいる。でも本当にそう思っている部分もあった。

人生は短い。親を早くに亡くした俺はとにかく後悔しない生き方をしたかったのだ。
親のようにやり残した事、悔いを残して死ぬなんて絶対に嫌だった。

「まぁお前の人生だからな。俺はこれ以上は言わんけど。自分が人生をかけて大切にしたい人が出来た時に、金とか職とか特技とかさ、とにかくなんでもいいから武器のひとつでも持っておけよ。」

「…おぅ」

「選ばない人生はいいけど、選べない人生にはしないでくれよ。お前には幸せに生きて欲しいんだ」

その為には一緒に生きてくれる人が
お前にはきっと必要だよ、と先輩は言った。


その言葉をそれから数年後に痛感することになるとは
その時の俺は知る由もなかった。


(これはあなたに出会う前の話。)

4/27/2024, 11:11:04 AM

善悪



物事の善し悪しは立場によって違うんだから
だからどちらがいいとか悪いとか
簡単に決めるべきではないわ。

先輩が言ってくれた言葉を
多分私は一生忘れないとおもう。


仕事でヘマをして上司に散々絞られ、
本気で仕事をやめようかと悩んでいた頃。

気持ちが凹んでいてなかなか仕事も進まなくて
コーヒーでも飲もうとして自販機に向かう途中。

給湯室からキャッキャと騒ぐ声が聞こえてきた。
聞くつもりはなくても話は聞こえてくる。

……私のことだ。

今回のヘマ話が1.5倍くらい誇張されて
噂話の花が咲いていた。

あぁ凹む。
勘弁して。。

固まってしまった足を無理やり動かそうと
して歩き出した時。

「気持ちよくない話を大きな声でするのは感心しないわ」

と少しトーンの低い声が聞こえてきた。

杏先輩だった。
いつもの優しい声とは少し違う、
少し冷たい声。

「でも、そのせいで課長が大変な目にあったって…」

反論する女子社員。

「物事の善し悪しは立場によって違うんだから
だからどちらがいいとか悪いとか簡単に決めるべきではないわ。
…ただ、その話をする為に仕事をサボって喋ってるって言うのは善いか悪いかははっきりしてると思わない?」

そう言われ、言い返せなかった女子社員達は
そそくさと部署に戻っていった。

「杏さん。。」

「ん?」

「ありがとうございます。」

「私苦手なのよ、ああいう集まり方。」

そう言って杏先輩は近くの自販機で温かいコーヒーを買って戻ってきた。

「杏さんの、善し悪しは立場によって違うって言葉。すごく救われた気持ちになりました。」

「ふふ、あれね。私もそう言って助けてもらったことがあるの。」

だからいつか機会があったら絶対使うって決めてたのよ。

そう言って先輩は笑った。


※後輩さんのミスは課長が指示ミスしてて
そのせいでミスった、という話でした。

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