あんず

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忘れられない、いつまでも


あの日は珍しく父とふたりで外出をした。
父は口うるさいし顔も怖いけど
とても優しい人だった。

父の日が近いこともあって
なにかプレゼントをしたいと言う私に
今日2人で出かけてるのがプレゼントだから
別にいらんぞと嬉しそうに言った。

父へのプレゼントを半ば強引に買い、
夜は美味しい居酒屋でお酒を飲んで
沢山話をした。

母さんも連れてくれば良かったかなと言うと
今日は父さんとデートなんだからダメだと
言ったのが可愛いなぁと思ったことを
よく覚えている。

酔いも回ってきた頃、父が突然

「杏は大事な人っているのか」

と聞いてきた。

「え!いないよー。作る暇ないもん忙しくて」

「確かに。毎日大変そうだもんな。」

「欲しいけどねぇ。彼氏。」

なかなかむずかしいんすよ、、と
とほほ顔の私に父は

「…どんな人と付き合っても父さんも母さんもお前が選んだ人なら大丈夫だと思ってるから、もし紹介したくなったらいつでも遊びに来なさい。」

と穏やかな声色で言った。


「父さんは『娘は渡さん!』っていうタイプかと思ってた笑」

冗談交じりにケラケラ笑う私。
すると父はより穏やかな声で

「そんなわけないだろ?父さんが母さんに出会って、人生が明るくなったように、杏にも自分の人生観が変わるような出会いがあるはずだよ。その時が来たらきっと杏にもわかる。この人なんだって」

その時の父さんの言葉、表情、お店の喧騒、全てが
一枚の写真のようにずっと忘れられないでいる。

そしてそれから数年後、
私はシロくんに出会った。

父さんの言葉の本当の意味を
その時わかったように思う。




「杏さん、俺やっぱりスーツで行った方がよくない!?初めてお家にお邪魔するのに普段着でほんとにいいの!?」

「大丈夫。父さんも母さんもそういうので人を見たりしないよ。」

「うう、緊張する、、」

そう。父も母も私が選んだ人を
この人と生きるって決めたってことを自分の事のようによろこんでくれるはず。

きっとあの日と同じような顔で声で
私たちを受け入れてくれる。




5/9/2024, 11:43:43 AM