「生まれてきてくれてありがとう」
はあ。ご苦労さまです。
そう言うしかないですもんね。
「好き、です…」
卒業式の桜の下、俺の袖を掴んで引き止めた後輩。
消えてしまいそうな震える声だった。
「…ありがとう」
目を開いた彼が、ぱっと顔を上げる。
その顔には、なんで…と戸惑いと驚きが滲んでいた。
すっと目線を逸らす。
…ごめん、知ってた。
ついでにこの日に告白されることも知っていた。
さぁ、と桜に吹かれる。
彼の比較的長めの髪がそよそよと拐われてく。
応えたくなる唇が震える。慌ててぐっと唇を噛んだ。
だめ、だめだ。
ここで間違えたら、また繰り返されるだけ。
「…でも、ごめん」
たのしかった。たのしくないわけがなかった。でも、こうなるって分かってると、…やっぱりどの思い出にも切なさが滲んでいるんだよ。
つぅと涙が一筋、俺の頬を伝っていった。
未来の記憶 #183
(お題が最近専ら考えていた小説のネタにピンポイントすぎる…上の話はその小説書くためのいくつか思いついた候補のなかで没になったもののひとつ)
「久しぶりだね〜」
「…そう?」
敷いたばかりのレジャーシートにごろんと転がった友人が、視界いっぱいに広がる星空を前にして感嘆の声を上げた。
「そうだよ! 去年はふたりとも受験で来れなかったじゃん、毎年恒例の天体観測! だから今日来るの楽しみにしてた!」
満天の星空を写した無邪気な横顔に、ちくりと胸が痛みを孕む。
…だから来たくなかったんだ。
寝転ぶ彼の隣に一人分作られた空間。「早く来なよっ」とその表情で言われると断ることなんかできるわけもなくて。
心臓の音が伝わらない程度の心の余裕である、少しの間を空けてそっと隣に寝転んだ。
「むぅ」
「……、」
心の余裕の距離はいとも簡単に詰められた。
首ごと横に回すと、ぱちっと音がして世界が重なった遠い数センチ。
「距離遠くない? なんかよそよそしいし。…前はもっとくっついてきてた」
さみしい、と傷ついたように目を伏せて、きゅっと手を繋いできた彼。
…ほらこうなる。僕がこんな感情持ってるせいで、うまく隠せないせいで、彼のことを傷つけてしまう。
どれくらいの時間がたっただろう。数分だったかもしれないし、何十分だったかもしれない。果てしなく長くも短くも感じられた。
「…あっ! 流れ星!」
その声にゆるゆると顔を上げる。
僕が視界に捉えてすぐ、それは闇夜に溶けていった。
「なにかお願いできた?」
ちらりと視線をやると、きらきらとした表情で。
僕はまたきみに恋するんだ。
「したよ! 内容は…教えないけどっ」
「できたんだ、いいなぁ」
「そっちはどうなのさ」
不安げな上目遣い。
これも無意識なんだろうな。
「思いつく前に消えちゃった」
ふふ、と力なく笑ってみせる。
願うなら…そうだな。
___この想いをすべて消してください。
星に願って #182
(設定としてはこの世界は夏らしいです。寒い冬の星空の下、寝転んでるのは可哀想だなと。…この寒さで外で寝るなんて…考えただけでも風邪ひきそう)
遠くに。できるだけ遠くに。
がたん、ごとん、と揺れる夜の電車の窓から何気なく外を覗く。
真っ暗な空にまばらに散っている星々。
…まるであなたみたいだ。
僕の手が届かないほど遠くに行ってしまったひと。
それでも僕を愛してくれたひと。
だけど僕のほうから手を振り払ってしまったひと。
僕以外誰もいない車両のなか、目を伏せる。
遠くに。できるだけ遠くに。
夜に揺れる電車が僕のこころを置き去りにしたまま、僕をあなたのいない夜に引っ張っていく。
遠く.... #181
I just wanted to have a heart to heart with you.
僕はただ、あなたと心を通わせたかった。
heart to heart #180
(間違ってたらすみません。英語にがて…)