「好き、です…」
卒業式の桜の下、俺の袖を掴んで引き止めた後輩。
消えてしまいそうな震える声だった。
「…ありがとう」
目を開いた彼が、ぱっと顔を上げる。
その顔には、なんで…と戸惑いと驚きが滲んでいた。
すっと目線を逸らす。
…ごめん、知ってた。
ついでにこの日に告白されることも知っていた。
さぁ、と桜に吹かれる。
彼の比較的長めの髪がそよそよと拐われてく。
応えたくなる唇が震える。慌ててぐっと唇を噛んだ。
だめ、だめだ。
ここで間違えたら、また繰り返されるだけ。
「…でも、ごめん」
たのしかった。たのしくないわけがなかった。でも、こうなるって分かってると、…やっぱりどの思い出にも切なさが滲んでいるんだよ。
つぅと涙が一筋、俺の頬を伝っていった。
未来の記憶 #183
(お題が最近専ら考えていた小説のネタにピンポイントすぎる…上の話はその小説書くためのいくつか思いついた候補のなかで没になったもののひとつ)
2/12/2025, 11:55:06 AM