しずく

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7/6/2025, 12:09:55 PM

 からころ、からころ。
 俺と彼の間でなにかが波打ち際みたいに揺れては引いていく。
 そのなにかを明白にしない今の距離が心地よくて。
 
「…まだ、帰りたくない」
「!…えぇ、しかたないなぁ」
 ワンテンポ遅くなる会話。
 彼があいつの拗ねた口調を真似したから、こっちも口調をのんびりとしたものへと切り替えた。
 彼の物言いにあいつを思い出さなかったと言えば嘘になる。
 俺は彼を彼として扱いながらも、あいつと重ねている。
 それはまた彼も然り。
 だってこれは意図的に重ねさせて重ねる。そんな、歪で中身を伴っていない関係。

 俺も彼もお互いを好きなわけじゃない。
 恋人ともセフレともちょっと違う。
 恋人(代替)という表し方が一番近いかもしれない。

 からころ、からころ。
 埋まらない心の空洞のなか、今日も虚しさだけを静かに重ねる。


空恋 #224

6/25/2025, 12:23:57 PM

「…お前ってまじで俺のこと好きなんだな」
「ずっと言ってるじゃん!律をつくってる細胞ひとつひとつで愛してるよ!」
「…ちっさ」
「…で…、……律はいつになったら俺のこと好きになってくれるんですか」
「……さぁ」



小さな愛 #223

6/15/2025, 1:31:00 PM

 割れてしまったマグカップ。
 否、割ってしまったマグカップ。
 慌てたように瞳に涙を溜めて、その破片に手を伸ばしたのは生涯かけて守ると決めた相手だった。
 俺が止めるのも聞かずに、破片を拾い上げようとしたきみの柔い肌がいとも簡単に傷ついた。
 じわと溢れ出す鮮やかな紅の液体。
 俺なにやってんだ。
 守ると誓っておいて、結局傷つけてるのは俺じゃないか。


マグカップ #222

5/31/2025, 1:31:53 PM

 勝ち負けなんて本当のところどーでもよかった。
「あーっもうっ、なんっで!俺が負けてんだよ!」
「今回は俺の勝ち、かぁ」
「だーっ!腹立つ!」
 くすくす笑う彼に苦しくなる心臓は誤作動なんだと思いたかった。
「でも俺数学は教えてもらってなかったら、今回確実に負けてたなぁ」
「もうお前には教えないからな!」
「えぇ、困るよ。それに、そっちも困るんじゃない?俺英語教えないよ?」
「……」
「あ、そっぽ向いた。かわい」
 うるせーばか。
 勉強会なくなんのが下心込みの"困る"だって知ったら、こいつはどんな顔するだろうか。
 その顔を知るのが怖くて今日も。


勝ち負けなんて #221

5/19/2025, 12:17:02 PM

どうしてもどうしても僕を縛る透明な糸が纏わりついてくる。
それはどうとでもほどけるのに、僕にはどうしてもそれができないんだ。
ほどけない、ほどけない。
もがいてもがいて。だから余計絡まって。
もう首まで上がってきている透明な糸。
このまま糸だらけの僕は、


どうしても... #220

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