しずく

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「久しぶりだね〜」
「…そう?」
 敷いたばかりのレジャーシートにごろんと転がった友人が、視界いっぱいに広がる星空を前にして感嘆の声を上げた。
「そうだよ! 去年はふたりとも受験で来れなかったじゃん、毎年恒例の天体観測! だから今日来るの楽しみにしてた!」
 満天の星空を写した無邪気な横顔に、ちくりと胸が痛みを孕む。
 …だから来たくなかったんだ。
 寝転ぶ彼の隣に一人分作られた空間。「早く来なよっ」とその表情で言われると断ることなんかできるわけもなくて。
 心臓の音が伝わらない程度の心の余裕である、少しの間を空けてそっと隣に寝転んだ。
「むぅ」
「……、」
 心の余裕の距離はいとも簡単に詰められた。
 首ごと横に回すと、ぱちっと音がして世界が重なった遠い数センチ。
「距離遠くない? なんかよそよそしいし。…前はもっとくっついてきてた」
 さみしい、と傷ついたように目を伏せて、きゅっと手を繋いできた彼。
 …ほらこうなる。僕がこんな感情持ってるせいで、うまく隠せないせいで、彼のことを傷つけてしまう。
 どれくらいの時間がたっただろう。数分だったかもしれないし、何十分だったかもしれない。果てしなく長くも短くも感じられた。
「…あっ! 流れ星!」
 その声にゆるゆると顔を上げる。
 僕が視界に捉えてすぐ、それは闇夜に溶けていった。
「なにかお願いできた?」
 ちらりと視線をやると、きらきらとした表情で。
 僕はまたきみに恋するんだ。
「したよ! 内容は…教えないけどっ」
「できたんだ、いいなぁ」
「そっちはどうなのさ」
 不安げな上目遣い。
 これも無意識なんだろうな。 
「思いつく前に消えちゃった」
 ふふ、と力なく笑ってみせる。
 願うなら…そうだな。
 ___この想いをすべて消してください。



星に願って #182

(設定としてはこの世界は夏らしいです。寒い冬の星空の下、寝転んでるのは可哀想だなと。…この寒さで外で寝るなんて…考えただけでも風邪ひきそう)

2/10/2025, 2:14:02 PM