いっそのこと、突き刺すように鋭い雨にしてくれれば。
柔い雨は遠くから静かな音を連れてくる。
冷たい雨粒が髪を伝う。雨の冷たい感覚すら、なくなってきてしまいそうだ。
ははっと嘲笑が漏れる。
ああ、わかってたのにな。
どうせこうなるなら、雨がふるなら、突き刺すように鋭い雨にしてくれればよかった。
───ねえ、知ってる?
「ゆう...! こんなとこにいた...!」
雨で汚れることを厭わないような雨を弾く足音。
勢いあまって腕に絡み付いてきた暖かい体温。
果てしなく続いていた空を遮断した淡い色の傘。
「冷たっ、風邪引くって...。...なにがあったの?...なんて聞かないけど、聞けないけど、俺はゆうの味方ってことだけ覚えといて、ほしい」
真っ直ぐに見つめてくるきみの視線が怖くて、また目を逸らす。
───その優しさがいちばんつらいんだよ。
無邪気な太陽を向けられる、醜い感情にまみれた人間の気持ちなんか、...知らないね。
いっそのこと、突き刺すように鋭い雨にしてくれれば。
─柔らかい雨─ #111
鏡の前で、数秒。
寒さでぼんやりとしていた頭は、それで瞬時に冴えてしまうから嫌気が差す。
くしゃりと髪を乱して、肺に冷たい空気を送り込む。
…これがいつまで続くのだろう。
双子の弟との最後が嫌でも脳裏に焼き付いて離れてくれない。
もう会えない可能のほうがずっと高いのに。
俺と双子の弟は鏡に写したかのようにそっくりだった。
鏡の中の自分を見るといつも双子の弟を思い出す。
性格は正反対。
だからこそ小さな頃から惹かれ合うのは、ごく自然なことだった。
ふたりでいることが当たり前だった小学時代。
弟との初めてをいろいろと知ってしまった中学時代。
弟とのことが周りに知られて、引き離された高校時代。
壊された人生。
「はやく忘れたいってのに...」
いつだって閉じ込められる鏡の中だ。
─鏡の中の自分─ #110
エピローグから始まる、そんな物語があってもいいってきみが教えてくれた。
─もう一つの物語─ #109
(しばらくお休みするかもです。なかなか書けなくなってしまって、一旦離れてみようと思いまして。でも必ず戻ってきます)
暗がりの中で必死に手を伸ばしては、必死に呼吸をしようと
もがいていました。
いつか向こうの明るいところへ行けると、幸せになれると、
信じて。
でも、もがいても、もがいても、あの明るい場所には近づけませんでした。遠退くばかりでした。
いつの日か、なにかがぷつん。切れてしまいました。
あの明るいところへはどう頑張ったっていけないのか。もがいたってもがいたって、なにも変わらずに自分が苦しむだけなのか、と。
その日から、手を伸ばすことをやめました。呼吸することも諦めました。
そうして、そんな暗がりの中でぼんやりと生きてみると、案外自分に合ってる気がする、と。こっちのほうが生きやすい、と。気づいたのです。
─暗がりの中で─ #108
「…ん…、」
「あ、おはよう」
いつもの紅茶の香りに目が覚めた。
寝ぼけ眼のままゆっくりと釣られるようにダイニングに入ると、やっぱりそこには朝から爽やかで余裕をもて余しているかのような隼人の笑顔があった。
「…おれも」
「え?」
「…おれも紅茶、のみたい」
俺が視線をそらしてぼそっと言ったのは、俺の頬が熱を持っているのは、寝ぼけているせいにしておく。
苦手だったはずの紅茶。
隼人と同棲するようになり、いつものように紅茶を飲んで一日を始める姿に憧れたのは内緒だ。
隼人は一瞬驚いたように目を開いたけど、すぐ穏やかな表情になって、かたんと音を立てて椅子から立ち上がった。
なんの意識もしてなそうなのにきちんと伸ばされた背筋に、無駄のない動き。
ああそうだ。昨日は隼人の長くて細くて、でも男らしい手に好きをまたひとつ募らせたんだっけ。
そんなことを思ったのは、その手がふっと伸びてきて、ふわりふわりとおれの頭に触れてきたからだ。
「柚月くん、…ほんときみはどこまで俺を捕えて離さないんだろうね」
「は…?なっ、に、いって…」
「柚月くんは俺が好きなものだから、気になったんでしょ?好きになりたいと思ってくれたんでしょ?」
「っ、ち、ちげえし。紅茶いい香りするし、目ぇ覚めるし、飲んでやってもいいかなって思っただけだし」
「あはは、可愛すぎかな」
「~っ、」
ばか、と小さく呟いて真っ赤に染まった顔を隠すように、引き寄せられたからだを密着させる。
抱き締めながらも、髪を撫でてくるその手には安心してばっかだ。
─紅茶の香り─ #107
(今日もどうしてもからだが動いてくれなくて、さすがにやんなきゃいけないのに、熱はかったら思ってた以上に熱あったので開き直ってアニメの続き見ました(おい)
…いやぁ、こいつ人気高そうだなった思ったキャラに落ちることはまずなかったのに、今回気づいた落ちてた自分がいた。昨日の大泣きの件といい、このアニメ恐るべし)