いっそのこと、突き刺すように鋭い雨にしてくれれば。
柔い雨は遠くから静かな音を連れてくる。
冷たい雨粒が髪を伝う。雨の冷たい感覚すら、なくなってきてしまいそうだ。
ははっと嘲笑が漏れる。
ああ、わかってたのにな。
どうせこうなるなら、雨がふるなら、突き刺すように鋭い雨にしてくれればよかった。
───ねえ、知ってる?
「ゆう...! こんなとこにいた...!」
雨で汚れることを厭わないような雨を弾く足音。
勢いあまって腕に絡み付いてきた暖かい体温。
果てしなく続いていた空を遮断した淡い色の傘。
「冷たっ、風邪引くって...。...なにがあったの?...なんて聞かないけど、聞けないけど、俺はゆうの味方ってことだけ覚えといて、ほしい」
真っ直ぐに見つめてくるきみの視線が怖くて、また目を逸らす。
───その優しさがいちばんつらいんだよ。
無邪気な太陽を向けられる、醜い感情にまみれた人間の気持ちなんか、...知らないね。
いっそのこと、突き刺すように鋭い雨にしてくれれば。
─柔らかい雨─ #111
11/6/2024, 12:38:45 PM