きっと私もお前も死ぬんだろう。
それはどっちも分かっていた。
これは何も生まない。私たちはこんなこと望んではいない。
それでも私たちは向かい合わせになって、互いを睨み付ける。
ナイフを突き刺すのも同時だった。
きっとこれでいいんだ。これがいいんだ。
双子の私たちが愛し合っているとバレるくらいなら、バレて引き離されるくらいなら、
お互いずっと憎んでたってことにして、堂々と一緒に死のう。
人が集まったお城の裏庭。
姫たちの争いの結末を見に来る使用人ども。
幸い父様と母様はいない。
「「またね」」
そっと呟いて、同時にとどめである心臓にぐさり。ナイフを突き刺した。
─向かい合わせ─ #44
友人が、昨日死んだ。
もう二度と逢えない。
ああ、こうなるならちゃんと言っておけばよかった。
─やるせない気持ち─ #43
恋というのは、もっと楽しいものだと思っていた。
こんなにも苦しいのなら、恋なんてしなければよかった。
叶う希望なんか一ミリもない。
なら、お願いだから、
そんな屈託のない笑顔を向けないでくれ。
親友だよな、って微笑まれることがこんなにも苦しいなんて思いもしなかったんだ。
避けるような態度を取ればいいのかもしれないが、理由を知らないあいつはまた無邪気な傷ついた顔で仲直りしようって突っかかってくる。
好きなのにこれ以上進めやない。
離れられもしない。
こんな恋、いらなかった。
海へ、海へと進んでいく電車に揺られる。
この電車に自分の恋情を乗せて、無理やりあいつから引き離してくれればいいのに。
まあ、できないから海へと向かっているのだけど。
電車から下りて、ざくと砂浜に足跡を残して海へ海へと歩いていった。
きっとこれで終わりにできる。
じゃあな、死ねるくらいには好きだった。
死なないといけないくらいには好きだったんだよ。
届きやしない想いと共にからだを海に沈めた、最期のこと。
─海へ─ #42
「…すき」
息が止まった。
心臓がばくん、と音を立てる。それは心地よいものではない。
天邪鬼な恋人を抱きしめる両腕が冷えていく。
いつもなら、こうやって抱きしめてキスを落として「すき」を言うと必ず「きらい」が帰ってきた。
天邪鬼なそいつだから、きらいはすきの裏返しだと分かってたし、少し照れながら「きらい」を伝えてくるから、それでそれだけで幸せだった。
こいつのことは言葉はぜんぶ裏返しで、そこも含めてぜんぶぜんぶすきだ。
なのに、今こいつは…
「俺のこと、きらいになったの…?」
「……はあ?」
俺を払い除けるようにして、俺の腕から逃げたそいつ。
…ああ、よかった。これはいつも通り。
「なんで?なんできらいになった?さすがに毎回毎回うざかった?…ごめん。謝るし、もううざいと思われるようなことしない。嫌なとこぜんぶ直すから」
いつもの癖で、きみに触れようとしていて、はっと手を引っ込める。
…これだから、嫌われたんだろう。
俺がこいつにべたべたするのを嫌がってるのは、嬉しいの照れ隠しだと勝手に解釈していた。
本当に嫌がってるときも、あるよな、そりゃ。
…なに、やってんだろ。
「別れたいって思ってるほど、俺のこときらい?」
「……はあっ!?」
…え、なにその反応。
俺がそう出ると思っていなかったときの反応だ。
「お前っ、お前さあ…!あーもうざけんな!人が折角素直になってやったのに…!」
「……え」
素直に、って…?
もしかして、ツンデレってこと?
デレの部分がきて、俺はそれを誤解したと…?
「もう知らねっ。きらいだばか!」
「ね、お願い。もいっかいだけ、すきって言って」
「ぜってーやだ!つか離れろお前はっ」
「俺はめっちゃ好き。大好き。もう一生離してやんない」
「俺はっ、きらいだしっ。だいっきらいだしっ」
「うん、知ってる。かわいすぎか」
「……ほんとは、お前に嫌いって言いすぎてお前が俺に飽きてないか不安になって、すきってちゃんと言わなきゃと思って、それでだからっ。繋いどくためだけだしっ。別にお前のことなんかすきじゃねーしっ。馬鹿!」
「うん、かわいすぎだ」
─裏返し─ #41
「…ここからなら、私も飛べるかな」
少女は、そっと屋上から地面を見下ろした。
高い。暗い。怖い。
でも、少女はそれ以上に思ってしまうのだ。
ここから脱け出したい、と。
空を飛んでみたい、と。
少女は目をぎゅっとつむって屋上の縁から、一歩踏み出そうとした。
そのときだ。
「……え」
ぶわ、と風に頬を撫でられた。否、撫でられたなんてものではない。風でこちらの世界に押し戻されるようだ。
ふらついて後ろに手をついた少女は、つむっていた目をあけて、おどろく。
「……なに」
そこには、鳥のような人間のような生き物がいた。言ってみれば鳥人間、だろうか。
黒と白のグラデーションの翼。
よくわらかない布を無駄に使いすぎな衣装。
「あー、すいません。今ちょっと忙しくてですねー、死ぬのはまた今度にしてもらっていいっすか?」
鳥人間はノートをどこかからなのか取り出して忙しなくペンを走らせながら言った。
「あ、やば。次の仕事結構遠いじゃん。んじゃ、そゆことでー」
空いた口が塞がらない、とはこのことだろう。
鳥人間───命に関わる仕事っぽかったし、格好もぽいから、天使なのだろうか───は白と黒の羽を辺りに漂わせて、鳥のように暗い空の向こうに消えていった。
─鳥のように─ #40