「…すき」
息が止まった。
心臓がばくん、と音を立てる。それは心地よいものではない。
天邪鬼な恋人を抱きしめる両腕が冷えていく。
いつもなら、こうやって抱きしめてキスを落として「すき」を言うと必ず「きらい」が帰ってきた。
天邪鬼なそいつだから、きらいはすきの裏返しだと分かってたし、少し照れながら「きらい」を伝えてくるから、それでそれだけで幸せだった。
こいつのことは言葉はぜんぶ裏返しで、そこも含めてぜんぶぜんぶすきだ。
なのに、今こいつは…
「俺のこと、きらいになったの…?」
「……はあ?」
俺を払い除けるようにして、俺の腕から逃げたそいつ。
…ああ、よかった。これはいつも通り。
「なんで?なんできらいになった?さすがに毎回毎回うざかった?…ごめん。謝るし、もううざいと思われるようなことしない。嫌なとこぜんぶ直すから」
いつもの癖で、きみに触れようとしていて、はっと手を引っ込める。
…これだから、嫌われたんだろう。
俺がこいつにべたべたするのを嫌がってるのは、嬉しいの照れ隠しだと勝手に解釈していた。
本当に嫌がってるときも、あるよな、そりゃ。
…なに、やってんだろ。
「別れたいって思ってるほど、俺のこときらい?」
「……はあっ!?」
…え、なにその反応。
俺がそう出ると思っていなかったときの反応だ。
「お前っ、お前さあ…!あーもうざけんな!人が折角素直になってやったのに…!」
「……え」
素直に、って…?
もしかして、ツンデレってこと?
デレの部分がきて、俺はそれを誤解したと…?
「もう知らねっ。きらいだばか!」
「ね、お願い。もいっかいだけ、すきって言って」
「ぜってーやだ!つか離れろお前はっ」
「俺はめっちゃ好き。大好き。もう一生離してやんない」
「俺はっ、きらいだしっ。だいっきらいだしっ」
「うん、知ってる。かわいすぎか」
「……ほんとは、お前に嫌いって言いすぎてお前が俺に飽きてないか不安になって、すきってちゃんと言わなきゃと思って、それでだからっ。繋いどくためだけだしっ。別にお前のことなんかすきじゃねーしっ。馬鹿!」
「うん、かわいすぎだ」
─裏返し─ #41
8/22/2024, 2:40:24 PM