「いつからアイツのこと好きだったんですか?」
「バカ、あからさまに態度から好きが滲み出てただろ。先輩は無意識だったかもしれねえけど……」
いつものように飲み会に誘われ、「絶対に参加してくださいね」と後輩に釘を刺されたことに若干の嫌な予感を感じつつも酒は飲みたかった。だから参加した。
乾杯し、約五分後ぐらいに後輩たちは俺にそんな問いを投げかけてきた。
「そう……だったか?」
「そうだよ。本当に鈍感だな。だからお前、彼女できねえんだよ」
「それを言われたら、なんも言えねえ……」
酒もまだ全然入っていないのに盛り上がっている後輩たち。
「いつから好きって自覚したの?」
そのまま別の話題へそれてしまえ。
そう願ったが、俺の隣に座っている同僚がニコニコと笑いながら問いを投げかけてくる。
「お前はそんなこと聞かなくても分かってるだろ」
睨みつけてみるが、笑顔で見つめられるだけだった。
付き合いが長いこの同僚には相談することも多々あったし、逆に始めは向こうから「あの子のこと好きなんでしょう?」と言われたぐらいだ。
「そう! それそれ! それですよ! 俺はそれが聞きたかったんです! いつから好きだったんですか?」
再び嬉々とした目で後輩たちは食いつくように俺に問う。
横目で彼女の様子を窺う。
少し離れたところに座っている彼女も俺と同じように同僚、後輩、先輩に囲まれていた。
「どこが好きなの?」
「いつから好きなの?」
「告白は何て言われたの?」
「キスはもうした?」
そんな声が聞こえてくる。
そっちもそっちで俺と同じように周りから俺たちのことを問われているらしい。
こっちより踏み込んでいる問いに酒もまだ大して飲んでないのに頭痛がしてきた。
(絶対に参加しろ、と言っていたのはこれが理由か……)
跳ねる心臓を抑え込むように酒を煽る。
俺たちが何か答えない限り――いや、正直に答えたとしても周りの気が済むまでこの問は終わらないのだろう。
――終わらない問い
この世に永遠なんて、ない。
だから、綺麗に咲いた花に癒されたり、空を見上げて綺麗だって思えたり、一瞬一瞬の全てが尊く感じる。
けれどあなたが
「俺の胸の中にある愛は永遠だと思ってる」
って、曇りのない顔で言ってくれるから
私も永遠を信じてみようと思えた。
なんだか、涙が溢れそうになってしまい、堪えながら私は頷くだけの返事をした。
あなたは愛おしそうに笑いながら、私を抱きしめてくれる。
すると、胸に温かくて、優しいものがたくさんたくさん溢れて止まらなかった。
ああ、永遠はここにあったんだね。
――永遠なんて、ないけれれど
あなたはわたしの隣にいるのに、あなたの気持ちは私よりずっとずっと遠くの場所にある。
まるで遠くの空にかかっている大きな虹みたい。
綺麗な虹をくぐろうと思って、一生懸命走っても、絶対にそこへ辿り着くことはできない。
あなたを振り向かせようと努力しても、あなたの気持ちはこちらを振り返ってはくれないのと一緒だね。
遠くの空を眺めるみたいにあなたを見ているだけしかできない。
「ねえ、今日帰ったらそっちの家に行っても良いかな? お母さんとお父さんが今日いないから、夕飯なくてさ」
「おー」
「これ秘密なんだけど、お母さん料理よりおばさんの料理好きなんだよね!」
「おー」
「じゃあ私がおばさんに連絡しておくね!」
「おー」
「……ついでにおばさんにえっちな本を隠してる場所教えとくねー」
「おー…………って、はあ!? ま、待てッ! やめろッ! 言わなくて良いだろ、そんなこと!! というかなんでお前が知ってんだよ!?」
「知らないよ。前、遊びに行った時になんか焦って隠してたから適当に言っただけー。やっぱりえっちな本持ってるんだ……男の子だもんねえ」
「なんだよ、ブラフかよ……!!」
「だってわたしの話聞いてないし……どうせまたあの先輩のこと見てたんでしょ」
「……わ、悪いかよ」
「べっつに〜! 悪いとは言ってないけど、わたしの話もちゃんと聞いてよね!」
「分かった、分かった」
「すっごい棒読み〜」
空からしたら、わたしなんてちっぽけな存在。
それでもわたしは、今日も遠くの空へ想いをはせる。
――遠くの空へ
「パパ、おしごとなってかわいそだったね」
「そうだね」
「パパ、昨日すっごいたのしみしてたんだよ? 今日きるおようふくをまくらのとなりにおいて寝てたんだよ!」
「忘れ物もしないように荷物の準備もいっぱいしてたもんね」
「してたー!」
楽しそうに昨日のパパの様子を教えてくれていたけど、次第にうるうると瞳に涙が溜まっていく。
「……パパもいっしょに、来たかったな」
「パパがお仕事行くときに何て言ってたか覚えてる?」
「『たのしんできてね』」
「そう! だから、楽しいー!っていう写真たくさん撮ってパパに送ってみよう? 喜んでくれるよ?」
スマホのカメラを起動し、インカメラに切り替えたあとに画面を見せると両手でこぼれ落ちそうな涙を拭った。
「うんっ!」
遊園地を楽しんでいる私たちの写真をたくさん撮って、パパへ送るとすぐにメッセージは返ってきた。
かわいい!!!!!!!!!
今度パパもいっしょにいく!!!!!!!!!
ぜったいに!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「パパ、げんきだね!」
「ビックリマークいっぱいだね」
ニコニコと嬉しそう笑いながら、娘は辿々しくぽちぽちと返事を打っていた。
パパだいすき!!!!!!!!!!!!!!!!!!
――!マークじゃ足らない感情
「ねえ、特別な日ってどんな日だと思う?」
ソファに深く腰をかけ、雑誌を読みながら彼女は言った。
「……そりゃあ、……何か良いことがあった日だろ」
「抽象的〜。例えば?」
ぺらっと雑誌を捲りながら彼女にまた質問を投げかけられる。
どうやらお気に召す答えではなかったらしい。
「誕生日とか、記念日とか……」
「ありきたりだねえ」
雑誌から顔を上げたかと思えば、殴りたくなるような腹立つ顔をした彼女に鼻で笑いながらそんなことを言われる。
例をあげろと言われてあげたのにどんな仕打ちだ。
腹が立つ。
「わたしは毎日が特別な日なのに。『おはよう』って言ったら、『おはよう』って返してくれる人がずっとそばにいるから」
彼女は幸せそうにはにかんだ笑顔は一瞬で苛立ちを吹き飛ばした。
手招きすると彼女は余計に嬉しそうに俺のほうへ近付いてくる。何も言わずに俺の腕の中へ潜り込んでくる愛くるしい彼女に頬が緩んだ。
――special day