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10/25/2021, 2:32:56 PM

「失われた長い時間」

中学生は、初詣に来ていました。
勿論、お母さんと一緒です。

「絵馬にお願い事書くよー。
 子供の学力がうーんと伸びますように」

中学生は
「普通の中学生の生活を送りたい」
と、書こうとしていました。

「勿論、頭が良くなる願い事よね?」
と、お母さんが口を挟み、
中学生の絵馬を勝手に書き換えてしまいました。

「これでヨシ!
 成績が上がりますようにってお祈りしよ」
お母さんは絵馬を奉納所に飾り、
中学生とお祈りしました。


中学生は「トイレに行く」と言い、
お母さんから離れました。

中学生はトイレから出て、
お母さんの所に戻ろうとすると、
大きな絵馬を見つけました。
絵馬には沢山の願い事が書き込まれていました。

「君も大絵馬に書こうとしてるのかい?」
神主さんが中学生を見て言いました。
「その大絵馬は自由に書き込んで良いものだよ」
「何でも良いんですか?」
「ちゃんと願い事を書いてくれよ」
神主さんはジョークを交えて言いました。

「よーし、本当の願い事を書こう」
中学生は「普通の中学生の生活を送りたい」
と、書きました。

今年はどんな年になるんだろう?
やっぱり勉強ばっかりの毎日になるのかな?
中学生らしい事何もやってない…
ずっと、小学校の勉強ばっか。
何か楽しい事無いかな?

「ちょっと、こんな所に居たの?
 トイレが終わったんだったら早く来なさい」
中学生はお母さんの所に戻りました。

10/24/2021, 11:59:40 AM

「失われた長い時間」

中学生は本屋に居ました。

中学生は健常者同様ファッション誌に興味があって、
モデルを始めとする芸能人は、
どんなにきらびやかで
有意義な人生を送っているのだろうと、
中学生は夢を見る様に思っていました。

中学生は
ティーン向けのファッション誌のコーナーに行くと、
オシャレな同年代の子達がコーナーを占領していました。
中学生は困ってしまいました。

「ねぇ?イモがコッチ見てんだけど」
「見た感じ障害者っぽいじゃん。
 ファッション興味あんのかな?」
「笑うんだけどw」

中学生は同年代の子達が自分を見てるのは分かるけど、
何を言ってるかまでは分かりませんでした。

「放っとこうよ。その内どっか行くじゃん」
同年代の子達はコーナーに居座ってしまいました。
「あの!スミマセン…」
中学生は同年代の子達に話しかけました。
「雑誌、取らせて下さい!」
「あのさ~ちゃんと話してくんない?」
「アンタさ、見た感じ障害者っぽいけど、
 お洒落しても顔面偏差値低いから
 オタク向けの雑誌でも見とけば?」
「障害者がお洒落しても、キモいだけだってww」
同年代の子達は中学生を見て、大笑いし始めました。
中学生は泣きながら本屋を出ました。


中学生は家に帰ると、お母さんから物凄く怒られ、
何度も何度も引っ叩かれました。
中学生は自分の部屋に閉じ込められました。

何で真面目にならなきゃいけないの?
障害者はお洒落したらダメなの?
勉強ばっかりは地獄だよ。
普通の子みたいにお友達作って
街とかに遊びに行きたいのに…

中学生は勉強机でただ泣いていました。

10/22/2021, 11:09:10 AM

「失われた長い時間」

中学生は一人だけの教室に行き、授業を受けていました。

早く沢山の人々が居る部屋に行って、
皆と一緒に授業を受けたい。

中学生は必死に小学校の問題を解いていました。


ある日、障害者の就労施設の見学に行く事になりました。
その事をお母さんに伝えると、

「出来損ないのアンタにピッタリだね。
そこしか働き先が無いなんて悲しいね」

と、中学生に言いました。


見学当日、中学生は初めて目にする就労施設を見て、

「将来はここで働くんだね。
本当は動物のお世話をする仕事がしたかったんだけど…」

と思いました。

就労施設の中はダンボールでごった返していて、
中学生は危うく転びそうになりました。

「どうだい?就労施設は?」

施設の職員は中学生に優しく語りかけました。

「ここしか働く所は無いんですか?」

「残念だけど、君が働く場所は就労施設以外無いんだ」

担任は中学生に言いました。

中学生は、部屋の隅にうずくまっている男性を
見つけました。

「ああ、彼は小学校の頃に酷いイジメを受けて
不登校になったんだ。その時に病気を発症して、
普通の会社じゃ働けなくなったから
この施設で働いているんだよ」

施設の職員は淡々と利用者の説明をしました。

「?」

「何言ってるんだろう?」
と、中学生は不思議に思いました。

普通の世界で生きられなくなった者は
隔離された世界へ送られ、幽閉生活を送る。
障害者も例外ではない。

障害者だって、自分の主張を通して
やりたい事や行きたい場所へ行って
人生を謳歌したい。

だけど、障害者は「当たり前」の権利が無い。

中学生は寂しい気持ちになりました。

10/21/2021, 11:42:19 AM

「失われた長い時間」

中学生は、今まで無音の世界で生きて来たので、
音と言う不思議な体験に魅了されていました。

「おや?ずいぶん早くに天国に来たんだね」
中学生は、生まれて初めて聞く言葉に驚きました。
「驚かなくて良いんだよ。
人間界でやり残した事は無いかい?」
中学生は内容が理解出来ない
老人の言葉にただ怯えるばかりでした。
「お前さんには勉強と言う物が必要じゃの。
人間界で勉強を頑張り」
中学生は人間界に戻されました。


中学生は目を覚ますと、
駅のホームに立っていました。
あの心揺さぶる振動はどこに行ったんだろう?
無音の世界で中学生は呆然としていました。

家に帰ると、お母さんに何発も平手打ちをされました。
そして、勉強漬けの日々に戻りました。


お母さんは、中学生によく
「アンタは不細工だからアイドルになれないし
風俗でも生きられないよ」
「不細工は勉強が取り柄だけど、
アンタは馬鹿だし障害者だから
普通の人の100倍以上努力しないと駄目」
「小学校の勉強すら出来ないんだから
大人になったらお金を稼げなくて餓死しちゃうよ」
と、言われていました。

勉強する意味あるんだろうか?
勉強しなきゃ殴られるから勉強してる。
中学生は疑問に思いながら勉強していました。

「生きるの意味は何じゃ?」
中学生の頭の中であの老人の声がしました。
「生きる?生命活動を維持する…
って辞書に書いてあった」
「生きるは辞書には乗り切らない程奥が深いんじゃ。
よーく考えて、自分なりの答えを出すんじゃ」
「待って、ヒントを教えて…」
老人の声はプツリと消えました。

中学生は生きると言う意味を考えました。
でも、漠然とし過ぎていて何も思いつきませんでした。

生きるって前に進む?
生きるって時を動かす?
生きるって食べる?
生きるって息をする?

中学生は自分なりに考え始めました。

10/21/2021, 9:09:00 AM

「失われた長い時間」

とある夫婦の元に
一人の可愛い赤ちゃんが生まれました。

赤ちゃんは生まれつき耳が聞こえません。
それが原因で夫婦はすれ違い、
ついには離婚してしまいました。

赤ちゃんは最初、
他の赤ちゃんと比べて何も出来なかったので
知的障害児として扱われました。

赤ちゃんは成長し、
中学生になったある日、
知的障害ではなく難聴だと
お医者さんに言われました。

中学生はろう学校に転校しました。
だけど、知力が小学一年生レベルだったので、
ろう学校の通常クラスでは勉強出来ませんでした。


お母さんは、
「子供が勉強出来なかった長い時間を取り戻したい」
と、切に願い、子供を勉強漬けにしました。

中学生の勉強時間は一日18時間。
睡眠時間は一日2時間で、
娯楽は一切ありません。

中学生は少しでも遊んだり、約束を破ると
お母さんは酷く叱り、平手打ちを何度もしました。

お母さんは子供の為だと
教育ママになって

子供が将来、
社会に出た時に少しでも生きられるようにと
中学生に必死で勉強をさせました。


中学生は、

3時間以上寝ただけで
無理矢理起こされて平手打ちされ、

テストの点数が悪いと、
嫌いな食べ物を食べ切るまで食べさせられる

そんな人生が嫌になって
ある日、家出をしました。


中学生はどこか遠くへ行こうと
駅に向かいましたが、

駅のホームから転落して
勉強の無い世界へと行きました。

その時、初めて音という物を
耳にしました。

鳥のさえずり、海のさざなみ、風の音…

中学生は
他の人達が体験している世界を
耳で感じ取っていました。

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