君と紡ぐ物語
君と出会ってから私の人生に新しい物語が始まって、それまで灰色だった私の人生が色付いた。
毎日、面白いことも辛いことも何も無くて麻痺したようだった。
何を見ても感情が動かなくて、笑い方も泣き方も忘れてしまった。
そんな時に君と出会った。
初めはなんとも思わなかったけど、手と手が触れ合った瞬間、無くしかけていた感情が戻ってきた。
君は眩しいくらいの笑顔で私を見た。
ドキッと心臓が大きく動いて
「あ、この人だ。」私の心の中でそう声がした。
失われた響き
幼い頃から続けていたピアノ。
なんとなく、一生続くんだろうなって根拠の無い想いがあった。
でも、ある日突然、私の両手は動かなくなった。
若年性パーキンソン病だと告げられた。
ピアノを弾きたい気持ちだけが毎日毎日大きくなって、鍵盤に手を置くと筋肉が強ばって震えで手が動かない。
ピアノの前に座るだけで今では涙が止まらなくて、「動け、動け、動け。」と自分で自分の手を叩いたこともあった。
自分の手で美しい音色を奏でられることが好きで、生きがいだったのに、
病によって失われた響きはどこにも誰にも届くことはなくなって、ただ私の心の中に黒い塊となってこだまするだけだった。
霜降る朝
寒さで布団から出るのも億劫になる。
でも、仕事に行かなくちゃ。
起きて見る外の景色に息を呑む。
霜が降りて草木や車、道が白く縁取られていて、なんとも不思議な光景だった。
まるで額縁に入れられた、絵を見ているよう。
そんな、霜降る朝の景色を見ながら、ブラックの苦いコーヒーを飲み干す。
さあ、あの絵の中へ飛び出すぞ。
厚着して、意を決して、白く縁取られた世界へ。
心の深呼吸
心が疲れてしまった。忙殺されていく日々に。
そんな時は深呼吸をする。
思い切り息を吸って吐く、文字通りの深呼吸、ではなく。
自然に触れて、日光を浴びて、好きなものだけを食べて、好きなことだけをする、まる1日を『好き』に囲まれて自由に過ごす。
すると、モヤがかかったように苦しかった心がパッと晴れ渡って、軽くなる。
忙しくて目まぐるしい毎日だけど、たまには心の深呼吸をしてリフレッシュしてね。
時を繋ぐ糸
糸電話が置いてある。
広い公園の小さな休憩所のテーブルの上にぽつんと。
糸の先はずーっと向こうにあるようで、どこにつながっているのか分からない。
好奇心に負けた僕は糸電話を取ってみる。
「も、もしもーし。誰かいますか?」
受話器を耳に当ててみた。
「……。」
「はっ、やっぱイタズラか。てかどこに繋がってんだ?これ。」
なんとなく反対側が気になって糸電話の糸の繋がる先を目指して歩いた。
10分くらい歩いたところでまた、公園の休憩所を見つけた、そこのテーブルに糸電話のもう片方が同じように置かれていた。
なんとなく、また受話器を耳に当ててみた。
「……。」
そりゃ、なんも聞こえないわな。
「…も、もしもーし。誰かいますか?」
ほっといて帰ろうとした時、そう、受話器から声が聞こえた。返事しようかと迷っていると続けて
「はっ、やっぱイタズラか。てかどこに繋がってんだ?これ。」と、聞こえてきた。
待てよ。このセリフ、さっき僕が言ったセリフと一字一句同じだ。
好奇心と恐怖心がせめぎ合ってる。
僕はその場で"10分前の僕"を待つことにした。