27(ツナ)

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8/26/2025, 11:46:21 AM

素足のままで

初めて好きな人と海に行った。
夏の灼熱の太陽に焼かれた砂浜は、まるで鉄板の上のよう。
あまりの暑さに「あちちちっ」と足をバタつかせると君は私の前に来て、しゃがむとその大きくて逞しい背中を私に向けた。
「どうぞ?」
「…え!」
「お嬢様専用のおんぶです。」
そんなふざけたことを言いつつも君の両耳は真っ赤だった。もちろん私も。
「…あ、ありがとう。」
おそるおそる彼の背中にもたれかかる。
素足のまま彼の背に揺られた。

8/21/2025, 3:54:07 AM

きっと忘れない

小さい頃は大人には見えない摩訶不思議なモノが見える。
きっと、無意識に周囲の様子を見ようと意識しているからだろう。
かくいう私も小さい頃は色々見えた質で。
特に覚えているのは"妖精"を見たことだ。
真冬の東北へ家族旅行。無数の雪が降りしきる中、露天風呂は最高だった。
露天風呂の岩にもたれ掛かり、雪を眺めていると、フラフラとこっちに近づく挙動不審な雪が見えた。
よーく目を凝らしてみると真っ白な髪に真っ白な肌、淡い薄水色のワンピースのような服に背中からは半透明で光沢を帯びた羽が生えていた。
じーっと見ているとあっちも気がついたのか、私に笑いかけた。
「うふふふふっ。」
「!?」
「…忘れないでね。」
「!…うん。忘れないよ。きっと忘れない。」
そう言葉を交わすと、妖精は白銀の世界へ消えてしまった。
私は急いで部屋に戻って暇つぶし用に持ってきたスケッチブックに妖精の姿を描いた。
私が描いた雪の妖精の絵は大人になった今でも手元にある。
あの出来事は夢や幻なんかではなく紛れもない現実だったんだ。

8/19/2025, 10:32:51 AM

なぜ泣くの?と聞かれたから

中学に上がった頃、父と母は離婚して、私は言われるがまま母に連れて行かれた。

私は父さんのことが本当に大好きだった。本当は父さんと一緒に暮らしたかった。でも、不安定で弱くてどこか危うい母にはストレスのはけ口である私が必要だった。
最初の頃そんな母との生活が辛くて毎日のように泣いていた。
ある日「なんで泣くの?」と普段よりトーンの低い感情のない恐ろしい声色で母が尋ねてくる。

私は勇気を振り絞った。
「…本当は父さんと暮らしたかったのに、母さんが無理やり連れて行って、母さんとの今のこの生活が辛いからだよ!」
母は無言のまま私の頬を思い切り叩いた。
痛くて辛くて苦しくて悔しくて憎くて
私は握りしめた拳を解いて勢いのまま母の顔に向かって同じように平手打ちした。
すると、母は唖然として仕舞いには涙を流し始めた。
「…母さん、あなたはなぜ泣くの?」

8/18/2025, 11:05:26 AM

足音

これは私の友人の話です。
大学進学を機に友人は都会で一人暮らしをすることになり私はそのまま田舎に残る形で別々になりました。
ある日の夜、友人から電話がかかってきたのです。
「助けて。怖い。ストーカーかもしれない。誰かわからないけど、毎日私の部屋の中に人が入ってくる!足音が聞こえるの。」
「えっ!?それって、警察に行った方が…。」
「行ったよ!!でも、取り合ってくれなかった。確かな証拠は持ってなかったし…。証拠撮ろうとしてビデオカメラ回してたけど、足音しか聞こえないの。上手くカメラの画角をかわして姿が全く映らなくて…。」

私は生まれつき霊感というものがあり、集中すると多少は霊を視ることが出来ました。
私は友人には視えない何かが視えるかもしれないと思い友人に頼んでビデオカメラの映像を送ってもらいました。
すると、そこには膝から下の両足のない20代くらいの青年がカメラの方を見てぼーっと立っていました。
「これだ」と思い、友人にすぐ連絡しようとしました。でも、ふと疑問に思ったのです。
ビデオに写った霊は両足がなかった。
どうして、足音がするんだろう。
もう一度、ビデオの映像をよく見ました。
すると、友人のベットの下の隙間に生きた人間の顔がうっすら見えました。
足音はこれが原因だったのです。

すぐに友人に連絡を入れました。しかし、一向に繋がりません。それから何度も連絡すると、1度だけ通話がつながりましたが、『ダッダッダッ』地団駄を踏みながら歩くような足音だけが聞こえてきました。

8/17/2025, 12:04:08 PM

終わらない夏

夏の魔性。
夏だけは毎年待ち遠しくて、終わってしまうとものすごく寂しく感じる。
夏は魔性の季節だ。

暑さで人を惑わせて、あの世へ行ってしまうヒトも多い。

川で溺れた親戚の弟がいる。
きっと彼も夏の魔性に当てられて、死の世界へと誘われた。
毎年夏はやってくる。魔性の夏が。
終わらない夏が。

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