27(ツナ)

Open App
8/16/2025, 1:59:18 PM

遠くの空へ

僕が幼い頃に母は体を悪くして亡くなった。
当時の僕はまだ言葉を覚えたてで、状況を理解することができなかった。
父は男手ひとつでそんな僕を育ててくれた。

公園で遊んでいた時、周りはみんな母親と来ていたり両親と遊んでいるのを見て不思議に思った。
「パパ〜、ママは?」
それは悪意のない純粋な言葉だった。
父は慎重に言葉を選んで僕に伝えた。
「ママは…遠〜くのお空に居るんだよ。でも、お空から僕たちを見守ってくれてるんだ。」
「なんで僕たちを置いていっちゃったの?」
「パパや君もそうだけど、僕たちはもともと遠いお空からやって来たんだ。ママはどうしても帰らなくちゃならなくなったんだよ。」
父はなんとかなだめようと優しく話してくれた。

「でも、僕はママがいなくて寂しいよ…。お迎え行く!」
そう言って僕は空に近づくためにひたすら走ったが、石につまづいて転んでしまった。
「…うっうわあああん!わあああ!」
気づいた父がすぐに駆けつけて僕を抱きしめた。
「…ごめん。ごめんな。」
抱きしめられた僕の肩口が父の涙で濡れて、ようやく母にはもう二度と会えないのだと自覚した。

8/15/2025, 12:07:53 PM

!マークじゃ足りない感情

「人の感情ってさ、ある一定のキャパ超えると無くなるよね?エクスクラメーションマークすら出ない。」
暑さしのぎに入ったカラオケの一室で歌も歌わず友達とダラダラ駄弁っていた。
「急になに?エクス?なに?…一定のキャパってなに?感情無くなったことあんの?」
「…ある。」
「えー、まじか。何があったのさ?」
クーラーの風に当たり続けて頭がボーっとして来る。
「寝てる時にな顔になんか落ちてきたの。んで、電気つけて、顔を手で払ったらボトって落ちたんよ。」
「え…な、何が?」
友達のあまりに真に迫った様子に眠気が覚めて、ゴクリと唾を飲む。
「……ゴキブリが。」
「──。」
ホントだ。感情のキャパ超えると人って無になるんだ。

8/14/2025, 10:51:07 AM

君が見た景色

君は霊が視えると言った。
そんなの嘘だと言うと君はただ悲しい顔をした。
君のことは好きだったけれど、君の言うことが信じられなくて辛かった。

僕は転んで怪我をして角膜を損傷してしまった。
視力が回復する兆しはなく、角膜の移植手術をすることになった。
ドナーが見つからなかったなか、近所に住む君が話を聞きつけてドナーになると言ってくれた。

手術は無事成功した。いよいよ包帯を摂る事になり、久しぶりに外の景色を見た。
今まで見えなかったモノが視えるようになった。
「これが、君が見ていた景色か。」
その時、僕はやっと君と視界を共有できたようで嬉しかった。

8/13/2025, 10:52:11 AM

言葉にならないもの

『書く習慣』を初めてそろそろ半年になります。
いつも短編の訳の分からない自己満足物語をいろいろ書いてきました。
初めて自分自身の気持ちと言いますか、日常のつぶやきと言いますか、そんなものを書きます笑

『タコピーの原罪』というアニメを見ていました。
絵が可愛らしくて何気なく見ていたらあまりにも重い内容で、1話目後半で既に目から大量の涙が辛いのに面白くて結局最後まで見ました。
「辛い、苦しい、可哀想。」そんな思いが限界まで来て抑えきれなくてただひたすら嗚咽していました。目から涙が止まらなくてでも声は出せなくて。

心の底から悲しい、辛い時って声が出なくなるんだな、言葉にできないんだなって実感しました。

毎日、自分の稚拙な文を読んで"♡"を頂いた時も言葉にならない喜びに打ち震えてます。笑
結論、いつも読んでくださってありがとうございます!(^^)

8/12/2025, 11:55:48 AM

真夏の記憶

真夏のある日、僕は倒れた。
原因はよく覚えていない。
薄れゆく意識の中で誰かが僕に必死に声をかけ続け、介抱してくれた。

僕を抱きかかえた腕は逞しく、「大丈夫ですか?」と言う耳に残る妙に艶っぽい低い声だけを覚えていた。
彼の介抱のおかげもあり、僕はすぐに退院した。
病院の人に聞いても「名乗らなかったから、わからない。」と言われ、結局お礼を言えずじまいだった。

それから1年後、真夏のある日。
暑くてフラフラして倒れそうになった瞬間、後ろから抱き留められた。
覚えのある逞しい腕と「大丈夫ですか?」と言う耳に残る妙に艶っぽい低い声。 1年前、僕の命を救った彼だと直感した。
「ありがとう、ございます。…あの、変な事聞くんですけど…1年前も助けてくれましたよね?」
「1年、前。」
「あれっ、違いました?すみません。」
人違いをしてしまったかと急いでその場を離れようとする。
「勘違い、なんかじゃないですよ。」
「……え?」
「あー、いえ、忘れてください。あ、でも忘れる前に一言だけ、俺はずっとあなたを見ていました。好きだから。でも、あなたは俺に応えてくれない。だからまた、あなたの記憶を消します。あなたからの愛は受け取れなくても、あなたに触れられるだけで俺は幸せだから。」
そういうと、彼は僕の額に手を当てた。

全身の力が突然ガクンと抜けてその場に倒れた。
薄れゆく意識の中、僕は彼の腕の中に抱かれた。

Next