遠くの空へ
僕が幼い頃に母は体を悪くして亡くなった。
当時の僕はまだ言葉を覚えたてで、状況を理解することができなかった。
父は男手ひとつでそんな僕を育ててくれた。
公園で遊んでいた時、周りはみんな母親と来ていたり両親と遊んでいるのを見て不思議に思った。
「パパ〜、ママは?」
それは悪意のない純粋な言葉だった。
父は慎重に言葉を選んで僕に伝えた。
「ママは…遠〜くのお空に居るんだよ。でも、お空から僕たちを見守ってくれてるんだ。」
「なんで僕たちを置いていっちゃったの?」
「パパや君もそうだけど、僕たちはもともと遠いお空からやって来たんだ。ママはどうしても帰らなくちゃならなくなったんだよ。」
父はなんとかなだめようと優しく話してくれた。
「でも、僕はママがいなくて寂しいよ…。お迎え行く!」
そう言って僕は空に近づくためにひたすら走ったが、石につまづいて転んでしまった。
「…うっうわあああん!わあああ!」
気づいた父がすぐに駆けつけて僕を抱きしめた。
「…ごめん。ごめんな。」
抱きしめられた僕の肩口が父の涙で濡れて、ようやく母にはもう二度と会えないのだと自覚した。
8/16/2025, 1:59:18 PM