ぬるい炭酸と無口な君
プシュッ、カランカラン───
町で最後の1軒の駄菓子屋の店先。
ラムネを開ける。
さぞ冷えているのかと期待して口をつけると微妙にぬるくて顔を顰めた。
隣にちょこんと幼い女の子が座ったが俯いたまま一言も喋らない。
気まずい空気に無性に口寂しく、何度もラムネに口をつける。
「……はぁ〜、暑かね。何か食べんと?」
「……。」
「兄ちゃんがなんか買うちゃろうか?」
「……。」
話しかけても全然反応しなかった。お店の中に入って婆さんに聞いた。
「なあ、あん子、全然喋らんとやばってん、どこん子か知っとる?」
女の子を指さして言うと、婆さんは不思議そうに
「あん子って誰?誰もおらんじゃなか。ちゅうか、あたさっきから一人で喋っとるばい?」
あー、無口なんじゃなくて、この世の子じゃなかったのか。ぬるかったラムネが少しだけヒンヤリした。
「波にさらわれた手紙」
忘れ物をして教室に戻ったら、親友が私の好きな人に告白しているところを偶然見てしまった。
混乱して激しい動機と吐き気に襲われて急いで教室から逃げ出した。
帰り道、堤防に座って海を眺めて気持ちを落ち着かせ、ふと鞄の中に手紙があるのを思い出した。何度も彼に渡そうとして躊躇した手紙。
「もうこんなの、意味無いじゃん…。」
私はその手紙をビリビリに破いて海に投げ捨てた。紙屑になった手紙はそのまま波にさらわれて溶けていった。
翌日、学校に転校生がやって来た。
綺麗な金髪と透き通るような翡翠色の瞳。
おとぎ話の王子様のような姿にクラス中の女子が色めき立つ。
そんな彼が突然、スタスタと私の元へやって来て手を差し伸べた。
「手紙、ありがとう。今日から君と僕は恋人だ。」
「……はぁ!?」
再び教室中がどよめいた。
「昨日、僕に手紙をくれたろう?好きです。恋人になってほしいって。」
「…そ、それ、昨日私が、(バラバラにして海に捨てたやつ…)!?」
目を丸くして固まる私の手の甲に彼は微笑んでキスをした。
「8月、君に会いたい」
進学のため、田舎を出てこっちに来てからもう1年以上が経った。
田舎に残してきた幼なじみと、最初の頃はよく連絡をとっていたが最近はめっきり頻度も少なくなり忘れかけていた。
『久しぶり。元気してら?』
急に幼なじみから連絡が来た。
『おう、元気元気。どうした急に?』
『お前に会いたいなと思って。近々そっちえ行くかなって。』
久しぶりに会えると思うと急に心が浮き足立つ。
『マジか!いつ頃来る?』
『んー8月には。』
『おけ。部屋片付けとくわ。』
叶わないと思いつつ、期待してしまう。
気持ちを伝えるのが怖くてあいつを置いてこっちに来たのに、いつまでも忘れられなくて、好きだという気持ちは冷めなかった。
今度会ったら、もう逃げずに伝えるしかない。
「8月…早く会いたいな。」
「眩しくて」
「今日さ日差し強いから、かけてみた。どお?似合ってる?」
サングラスをチラッとずらして、いたずらっぽく笑ってみせる。
そんな彼の仕草が日差しよりも眩しいのか彼女は目を細める。
「かっこつけんな、アホ。」
照れてる顔を見られたくなくて彼女はペシッと彼の頭を引っぱたく。
そんなカップルの光景を傍から眺めている私の目はもっと眩しすぎて潰れそうです…。
「熱い鼓動」
なかなか恋人ができなくてマッチングアプリを使ってみることにした。
あまり期待はしてなかったが、奇跡的に物凄くかっこよくて私のタイプの人とマッチできた。
近くに住んでいたのもあって、すぐに会うことが決まった。
それだけで嬉しくて胸がいっぱいで、その日は食事が喉を通らなかった。
いよいよ、今日彼に会える。
緊張と興奮で鼓動が激しく身体中が熱を帯びる。
初対面のはずなのに話が弾んで時間を忘れるくらい楽しかった。気づくと外はもう真っ暗、帰り際彼の車の中、会話がやんで静けさに包まれる。
突然、手を掴まれて彼の胸に押し付けられた。
『ドクンドクンドクンッ』
激しく熱い彼の鼓動が私の体にも伝わってきた。
「君のせいでこんなに鳴ってます。好きです。僕とお付き合いして貰えませんか?」
「……は、はい。お願いします。」
お互い顔を真っ赤にしながら、私たちは恋人になった。