「タイミング」
ある日、電車に乗り遅れそうで猛ダッシュしたが、目の前でドアが閉まって行ってしまった。
またある日、洋服屋で限定のセールをやっていて、好きなタイプの服が100円で手に入った。
タイミングは人生に面白味というスパイスをくれる。
きっと何もない平坦な人生はつまらないだろう。
色んなタイミングが私達の人生をちょっぴり豊かにしてくれていると思う。
「虹のはじまりを探して」
「虹の始まりを見たら死んじゃうんだって!」
「えぇぇ〜こわーい!」
下校中にそんな会話が聞こえてくる。
きっと何の根拠も無いデマだ。
でも、田舎に住んでる僕のおばあちゃんも前に「虹ん始まりを見っと、魅入られてけ死んでしまうど。」と同じようなことを言っていたのを思い出した。
方言が強くて良くは分からなかったけど、虹を酷く怖がっている様子だった。
雨が止んですぐ晴れ間が現れた、ふと空を見上げてみると少し先の方に虹が出はじめているのを見つけた。
僕は走った。虹の始まりを見たら…そんな馬鹿げた話と思いつつも確かめずにはいられなかった。
虹の始まりに一体何があるのかを。
そして僕は虹の始まりを見てしまった。
「オアシス」
僕にとって君はオアシス。
どんなに仕事で疲れきって帰っても、君の「おかえり」という声と笑顔で疲れを吹き飛ばしてくれる。
君がいなくなったら、僕はこの砂漠でひとり彷徨って枯死してしまうだろう。
…重いよね?だけど、それだけ僕にとって君は必要不可欠な存在なんだ。
君にとっての僕もオアシスに成っているといいな。
「涙の跡」
私の父は厳格で他人にも自分にも厳しい人だった。娘の私のことも一切甘やかさず育ててきた。
良い人と出会い結婚することになり、いよいよ今日が挙式の日。
父の腕を掴んで共にバージンロードを歩く。
チラッと横目で父を見たが、緊張しているのか普段通りの真顔だった。
それから順当に式は進んでいき、披露宴に。
宴も終盤、両親への感謝の手紙を読み上げる。
すると、途中なのに父が席を立ってどこかへ行ってしまった。
私も手紙を中断して母と一緒に父を追いかけた。
「お父さん!まだ、手紙読み終わってないよ。」
父はそっぽを向いて拳を握りしめて肩を震わせていた。
「……す、すまない。すぐ戻る。」
もしかして、泣いているのかと思いそっと近づいて顔を覗くと口をへの字に結んで必死に涙を堪えていた。
頬には既に涙の跡がくっきりと残っていた。
「半袖」
真っ直ぐ伸びた綺麗な黒髪に、可愛らしい花柄ワンピースのあの子。
まるで人形のように愛らしい、
可憐な少女を体現したかのような女の子。
僕はそんな彼女の秘密を知った。
ラフな半袖姿でいつもとはだいぶ違う格好の彼女を街で見かけた。
陶器のような細くて真っ白な腕をあらわにして。
そんな腕の辺りにチラチラ見え隠れするものがあった。
僕は思わず彼女を追いかけて咄嗟にその腕を掴んでしまった。
「うわぁ!びっくりした…君、同じクラスの子だよね?」
「あ、ごっ、ごめん!いきなり掴んだりして!あのっ、この腕のって…。」
僕が掴んだその腕には肩から二の腕にかけて龍や桜の和彫りが入っていた。
「あー…驚いた?うちの家系そういう所だから。怖がらせちゃうから、みんなには言ってないんだよね? 君も、内緒にしてくれるかな?」
あぁ、だから彼女はどんなに暑い日でも半袖を着なかったのか。
思いがけない出来事に言葉が上手く出てこなくて、コクコクと頷いた。
「ふふっ、ありがとう。約束、ね?」
おそるおそる彼女の小指に自分の小指を結んだ。