「またいつか」
幼い頃、小児病棟に入院していた時期がある。入院期間中にある男の子と仲良くなり、暇潰しの遊びとして文通ごっこをしていた。
毎日、今日あったちょっとしたできごとや面白かったことを書いて手紙を交換しあう。
文通ごっこのおかげで入院期間は退屈せずに過ごせた。
ある日の文通で彼の手紙には『明日、手術がある。すごく嫌だなぁ。…この手術が終わったら僕は退院なんだ。でも、君に会えなくなる方がもっと嫌だよ。君も早く元気になってね。またいつか。』とあった。
翌日、彼の手術は成功した…と思ったのに手術後状態が急変してしまい、助からなかった。
本当にもう、彼に会うことはできなくなってしまった。悲しくて辛くて苦しくて一日中泣いた。
それから彼に向けて私は最後の手紙を書いた。
『私が入院していた時、退屈しないように沢山、楽しませてくれてありがとう。私だって君に会えなくなるの嫌だよ。でも、私は君の分まで生きる。またいつか、必ず会おうね。』
「星を追いかけて」
友達に誘われて、インディーズバンドのライブに行った。
最初はバンドなんて興味がなくて、単に暇潰しのつもりで行ったが、いつの間にか彼らの演奏に夢中になってしまった。
暗闇の中で舞台上はキラキラ光り輝いていた。
私は無我夢中で彼らへ手を伸ばしていた、まるで届く事がない星を追いかける無邪気な子供のように。
「今を生きる」
産まれてくる時代は誰にも選ぶことはできない。
これは私たちにとっての平等。
よく「産まれてくる時代が違かったらな〜」と嘆く人がいる。
産まれてくる時代が違かったから何かが変わるのか?いや、きっと何も変わらない。
私たちは無数にある歯車でしかない。
『時代』を進めていくために生まれては死んでを繰り返して歯車を回していく。
そんなちっぽけな存在だけど…今、生きてここに存在している事実に間違いはない。
ならば精一杯、時には真面目に時にはバカになってほんの一瞬の今を生きてみたいと私は思う。
「飛べ」
空を飛ぶ鳥を見て羨ましいと思った。
僕もあんな風に空を飛んでみたいと、でも図鑑を見て絶望した。
人間には、翼がない。
あの鳥達みたいにはなれないんだ。
そんな時、兄ちゃんの陸上の大会を見に連れて行ってもらった。
絶望していた僕の目の前で、兄ちゃんは空に向かって高く飛んだ。
僕の絶望はその時、一瞬にして希望に変わった。
「凄い!凄い!凄い!飛んだ飛んだ兄ちゃんが飛んだ!ママ!あれなあに?」
目を輝かせて興奮している僕の頭を撫でながら母さんは笑った。
「あははっ、凄いね?兄ちゃんかっこいいね?あれは、走幅跳っていうんだよ。」
「はし…はば?と??」
「もう少し大きくなったらやってみよっか?」
「うん!僕もやる!絶対やる!」
それから数年後、兄の背中を追った僕は同じ競技の選手になった。
今日は大会、今までの練習の成果を120%出し切る。
「位置について!よーい。 」
スターターがピストルを空に向けて構える。
心臓が緊張と興奮でバクバク高鳴る。
目を閉じ耳を研ぎ澄ませると、応援席から母と兄の声が聞こえる。
「「飛べ!!!」」
パァン!!
足で思い切り地面を蹴り加速する。僕は空に向かって飛んだ。
鳥にはなれなかったけど、人間でも飛べた。
地面に着地した瞬間、目から涙が溢れ出した。
「special day」
真夜中の公園でベンチに座って黙々とケーキを頬張る、ひとりの男子中学生がいた。
なんか気になってついつい声を掛けてしまった。
「…そんなに勢いよく食べるとノド詰まるぞ?」
「…。」
そいつは横目でチラッと俺を見ると無言でまたケーキを鷲掴みにして食べ始めた。
「お、おい。無視はねぇだろ。危ねぇからもっとゆっくり食べろ?…てか、なんでこんな夜中に中坊がひとりでいんだよ?」
「…。なんですか?説教ですか?」
「あ、いや別に、そんなんじゃねーけど、こんな夜遅くに中坊が公園でケーキ食ってんのどう考えてもおかしいだろ?」
威嚇してくる猫みたいにキッと睨まれる。
「おじさんには関係ないです。今日は僕の誕生日なので、ケーキを食べてるだけです。」
「へ〜、そら偶然だな!俺も今日誕生日なんだ!まぁガキじゃねぇから、ケーキは食ってねぇけど?」
仕返しに嫌味ったらしく笑ってやると、眉間にしわ寄せて不貞腐れた。
「あ〜じゃなくて、こんなとこに居ねぇで家帰れよ。親心配すんだろ?」
「…親、仕事なんで朝まで帰ってこないんで。」
「あっ、そぅか。わりぃ。なんかお前の見てたら俺もケーキ食いたくなってきた!残ってるもう1個のケーキくれよ。」
「はぁ…大の大人が、恥ずかしくないんですか?まぁ、おなかいっぱいだからいいけど。」
ぷいとそっぽ向きながらも俺に残りのケーキをくれた。可愛とこあんじゃんと頭をくしゃくしゃ撫でてやった。
「ちょっ!?なに!?」
「…誕生日おめでとう。」
「ッ!……お、おじさんも。おめでとう…。」
「おぅ。あんがとさん。」