27(ツナ)

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6/22/2025, 11:12:35 AM

「どこにも行かないで」

優しい両親のもとに産まれた礼儀正しく優秀な娘。それが私。
誰が見ても非の打ち所がない素敵な家族。
だがある日突然、私の中で何かが切れてしまった。
きっかけはテレビで、都会のある一角に問題を抱えた子供たちのスラム街のような場所があるというドキュメンタリーを見てからだった。

私はその日以来、あの街の光景が頭から離れなくなった。毎日毎日あの街の事を考えた。
次第に「私もあそこへ行きたい」という思いが強くなった。

両親は私の異変に気づいて、必死に涙を流しながら引き留めた。
「お願いだから…どこにも行かないで。あなたの居場所はここなのよ。」
追い縋る母親を見て、冷酷に言う。
「まだ私を縛るつもり?私の居場所はここじゃない。私は今までどこにも行けなかった。ようやく、自由になれる。」
母は呆然として、父には無言で平手打ちされたが、それでも私の足はあの場所へ向かっていた。

そして今思う、私はなんて愚かな間違いを犯したのだろうかと。
私は「自由」と「無秩序」を勘違いしていた。
自由な居場所なんかではない、ここはこの世の──。
自分がいかに満たされて、何不自由なく生きてきたのか痛いほど実感して、人目も気にせず路上で泣き崩れた。

6/21/2025, 11:24:02 AM

「君の背中を追って」

社長と出会ったのは小学生の頃まで遡る。
都会から引っ越してきた彼は、持ち前の明るさと話術で直ぐにクラスに馴染んだ。
幼い頃からそんな人を惹きつけるカリスマ性のあった彼を僕はずっと陰ながら羨望の眼差しで見ていた。

「将来は社長になるんだ!」
それが彼の口癖だった。クラスメイトはみんな、バカにしたり面白がっていたが、何故か僕はそのバカみたいな夢が実現する予感がした。

そうして君の背中を追った結果、やはり君は夢を叶えた。最初は僕と2人の小さな会社だったが、
彼はまた自信満々に言った「よし、社長は叶えた!次はこの会社をでっかくするぞ。」
僕はまだまだ君の背中を追い続ける。

6/20/2025, 10:33:30 AM

「好き、嫌い、」

子供の頃、よく花占いをした。
道端に咲いている花を無造作に引き抜いては「好き、嫌い、好き、嫌い…」と花弁を1枚ずつむしり取っていく。
あの頃は何も考えなかったが今思うと残酷だなと感じる。
誰に教えられるでもなく、物心ついた頃には既にやっていた。

私たちは生まれながらに悪人だという説があるが、本当にそうかもしれない。
花だけでなく虫の命でさえ、なんの悪意もなく無慈悲に平気な顔をして奪っていた。

子供と公園に遊びに行った日、子供が不意に道端の花を引き抜いた。
教えてもいないのに「好き、嫌い、好き、嫌い…」と私の隣で無邪気に花占いをやりだした。
あぁ、私たちは生まれながらに悪人なんだ。

6/19/2025, 11:18:07 AM

「雨の香り、涙の跡」

雨が降ると心がズキズキと苦しくなる。
無意識にあの事を思い出しているのだろう。

8年前の今日のような梅雨のある日、僕は彼女と買い物に出かけていた。
あんな土砂降りの日に反対車線から時速100km近くの車がタイヤを滑らせ、僕たちの乗る車に衝突した。
手術を受けてしばらく入院して、目覚めると彼女はもう居なかった。彼女は即死だった。

初めは相手のことを恨んだが、矛先が次第に自分自身に向いてきて、自分で自分のことを痛めつけることもした。
「どうして僕が生き残った?」
「何故、あの時ハンドルを切らなかった?」
「あの瞬間……僕はなぜ笑っていた?」

どんよりとした雨の空を眺めて濡れた土や泥の香りと自分の腕から滲み出る血の匂いを嗅ぐ。
僕は梅雨になるとそうして、あの頃を思い出しては涙を流す。この涙がどんな感情の涙なのか、わからない。

なぜなら今も鏡に映る僕は顔にうっすら涙の跡を残して笑っているから。




6/18/2025, 11:16:26 AM

「糸」

ねぇ、『蜘蛛の糸』って知ってる?

中学生の頃、同級生の女の子に教えて貰った。
彼女は僕の境遇を知ってか知らずか、その話をしてくれた。
不幸な結末だったが、とても印象に残った。

当時の僕は人生で1番最悪な時期だった。
母親の再婚相手に毎日のように殴られ蹴られ、ご飯もろくに与えて貰えない日々。
クラスメイトからはガリガリにやせ細った僕を揶揄って幽霊と呼ばれた。
あの頃、僕は生きるか死ぬかの瀬戸際だった。

そんな時にクラスメイトの女の子からその話を聞かされた。
彼女はまるでその話に出てくるお釈迦様のように無邪気に微笑んで僕に手を差し伸べてくれた。
「君は私からの蜘蛛の糸を掴む?それとも?」
僕は無意識に彼女の手を取っていた。

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