27(ツナ)

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「雨の香り、涙の跡」

雨が降ると心がズキズキと苦しくなる。
無意識にあの事を思い出しているのだろう。

8年前の今日のような梅雨のある日、僕は彼女と買い物に出かけていた。
あんな土砂降りの日に反対車線から時速100km近くの車がタイヤを滑らせ、僕たちの乗る車に衝突した。
手術を受けてしばらく入院して、目覚めると彼女はもう居なかった。彼女は即死だった。

初めは相手のことを恨んだが、矛先が次第に自分自身に向いてきて、自分で自分のことを痛めつけることもした。
「どうして僕が生き残った?」
「何故、あの時ハンドルを切らなかった?」
「あの瞬間……僕はなぜ笑っていた?」

どんよりとした雨の空を眺めて濡れた土や泥の香りと自分の腕から滲み出る血の匂いを嗅ぐ。
僕は梅雨になるとそうして、あの頃を思い出しては涙を流す。この涙がどんな感情の涙なのか、わからない。

なぜなら今も鏡に映る僕は顔にうっすら涙の跡を残して笑っているから。




6/19/2025, 11:18:07 AM