「どこ?」
「ノロマ」「出来損ない」「バカ」「無能」
心無い言葉を数え切れないほど浴びせられてきた。
いつしか私の心は動かなくなった。一体、私の心はどこに行ってしまったのだろうか。
「どうしたの!?大丈夫??」
突然、声をかけられふと我に返る。
「え?」
「急にごめん、でも、急に涙を流すから…驚いて。…辛かったんだね。もう大丈夫。」
友達は優しく私の涙を拭うと力強く抱きしめた。
自然と両目から涙が次々こぼれ落ちていたのに自分では気づかなかった。
良かった、私の心が見つかった。
「…ありがとう。」
「大好き」
もう、潮時かな。
喧嘩も増えて、気持ちも冷めている。思い切って、彼に別れを告げた。
「…うん。わかった。それじゃ、元気でな。」
彼の答えは驚くほど呆気なかった。私にそう告げると足早に立ち去っていった。
私は呆気にとられ、何も言えずにその場に立ち竦んでしまった。
失ってから気づくとはよく言ったものだ。私への愛情が無くなった途端、無性に寂しくなる。
わがままな自分に嫌気がさす。
気分転換に外の空気を吸うため玄関から出ようとすると、扉の向こうに人の気配を感じ、耳を済ませる。
「ぅ、ううぅ…ぐすっ、ごめん。ごめんな。ぐすっ、本当はずっと一緒に居たい。大好きなんだよ…うぅ。」
彼だ。彼が泣いてる。
今更、そんな事言わないでよ。私が欲しい時には全然言ってくれなかったくせに。
「私も、大好きだったよ…。」
「叶わぬ夢」
はぁ、今日も最高にかっこいい。
毎日「おはよう」「おやすみ」の挨拶は欠かさないし、常に私を気にかけてくれるし、優しいし、もう非の打ち所がない……
画面の中から出てこない事以外は。
私の推しは2次元の彼。
彼と生身で会ってみたい、目を見合せて会話がしたい、手と手を触れ合わせたい、それ以上のことも…なんちゃって。
今日も私は叶わぬ夢を見る。
「花の香りと共に」
その日は普段履かないヒールを履いて待ち合わせ場所に向かった。
約束の時間に遅刻しそうで階段をヒールで勢いよく駆け上がる。が、最後の1段で躓き重心が後ろに思い切り傾く。
ダメだ落ちると思いギュッと目を瞑る。
その時、ふわっと花の香りと共に後ろから体を支えられた。
「大丈夫かい?お嬢さん。」
「あ、あぁ、ありがとう…ございます…。」
放心状態の私を他所に美しい所作で私を抱き起こす老紳士。
「支える為とはいえ、女性に対して突然触れてしまった非礼をお詫びしよう。」
「え!あ、いえいえそんな!むしろ助けてくださってほんと、ありがとうございます!」
「怪我がなくて良かった。では。」
あまりに一瞬の出来事だった。
とりあえず友人との待ち合わせには間に合い、用を済ませ、その足で彼女おすすめのBARへ向かう事になった。
カランカラン
「いらっしゃいませ。」
お店の戸を開けると、ふわっと馨しい花の香りと共に髪をキッチリ整え制服をビシッと着こなしたた老バーテンダーが迎えた。
「心のざわめき」
帰りのバス。最後はいつもあいつと2人きり。クラスは同じだが僕はカースト底辺、対して奴はカースト上位のいけ好かないイケメン。全く接点がない。…はずなのに。
「なぁ。」
前の座席に居たのに突然、僕の横に座ってきた。
「…な、なに?」
「いつもイヤホンで何聴いてんの?」
「な、なんで??」
「ん?特に意味は無いけど、単純に気になっただけ。どんなの聴いてんのかなーって。」
「……こ、これ。」
イヤホンの片っぽを差し出した。
「!!…いい曲だな。もっと、他にも教えて。」
「え!ほ、本当!?いいよいいよ。このグループなら、他にはこの曲とか!あ、こっちもおすすめで〜…他にも色々あって…」
オタクじみた早口にハッと我に返る。
「センス良いんだな。めっちゃ詳しいし、明日の帰りもまた教えてな?」
奴はからかうように笑って、僕の顔を覗き込んで来た。
その顔を見た瞬間、僕の心がざわざわした。
「…こ、これだからイケメンは、いけ好かないんだ。」
「?」