セキレイ

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4/30/2023, 3:01:18 PM

「楽園」

楽園って、どんな場所だろう。
苦しみのない楽しい場所って、私にとっては永遠に目覚めないことかも。

好きな人といるのは苦しみを伴う。親でも友達でも恋人でも。
娯楽だって、感情を動かされるから楽しいのであって、どんな映画や漫画やゲームも、すぐに飽きてしまうだろう。
だから、きっと、私の楽園には何もない。
ただ干したての布団でぐっすりと、明日も含め先のことは何も考えないまま眠りにつくだけ。
目覚めたら寂しくて怖くてそこは楽園ではなくなるから、死んだことにも気付かないまま、ただ眠り続けるだけ。

4/30/2023, 1:01:09 AM

「風に乗って」

優しい春風が頬を撫でて、思わずその方向を振り返れば、その風のようにやわらかなピアノの音色が聞こえてきた。下校時刻は過ぎているけれど、吹奏楽部の誰かが残っているのだろうか。
誰もいない校舎から聴こえるピアノの音色なんて、一歩間違えば学校の七不思議になってもおかしくないのに、恐怖心は一切なく、ただただ好奇心が先行して足が音源に向かって進む。
この曲、なんだっけ。母が好きなフィギュアスケートの選手が踊っていた曲だな。クラシックには疎いけれど、まさに、春風のように柔らかい、美しい曲だと思ったのを覚えてる。
でも、今聴こえるそれは、どこか寂しく孤独に聞こえる。
弾き手でこんなに印象が変わるのか、それとも私の心情がそう解釈したのか。
その訳が知りたくて、そっと音楽室の扉の小窓から中を覗いた。
それが私と彼の出会いだった。

4/28/2023, 2:51:59 PM

「刹那」

おまえといると、あっという間に老けそうだ。

いつもの調子で揶揄われても、今日は言い返してやる気にならない。私はこんなに離れ難いのに、まだ一緒にいたいのに、先輩は余裕な笑みを浮かべて楽しそうだから。
帰り道に伸びる影を、恨めしく見つめている私に気づかないはずもないのに。
言い返さない私に突っかかるわけでもなく、むしろ甘い瞳で見つめてくる彼に、なんだか居心地が悪くなって、可愛くない言葉で言い返した。

先輩にはいつも気苦労かけてますもんね。

まぁ、それもあるな。

彼はやっぱり、まだ嬉しそうに笑ってる。
なんで。もう少しで私の家に着いてしまうのに。着いてしまえばまた会いたくて焦がれる日々が始まるのに。
そう思っても、彼の瞳に邪気はない。繋がれた指先から、こっちまで気持ちが伝染して、絆されて、棘が抜けていく。寂しさが少し和らぐ。
私はやっぱりこの人に弱い。

離れる前は、少しでも可愛くいたいから。可愛くない私を上書きするように、彼の指をぎゅっと握って、じゃあどう言う意味ですか?とその真意を尋ねた。

……おまえと同じってこと。

私が老けてるってことですか?

焦って思わず食い気味で答えれば、今度は声を出して笑われた。



4/27/2023, 2:47:39 PM

「生きる意味」

生きる意味、なんてそんなものを持って産まれた人はいない。産み落とされたから生きるだけ。死ねないから生きるだけ。動物だって、人間だって同じ。考えたって意味なんてないんだから仕方ない。
投げやりに見えるかもしれないけれど、答えなんてないから。
誰かに愛されていても、愛されていなくても、生きる意味をもって産まれた人なんていない。ほんの少しタイミングが違えば、今ここに私はいないのだから。生を享けた理由なんて突き詰めれば産み落とした側のエゴなのだから。産まれたのが私でなかったとしても、親は愛情を子に注いだだろうし、恋人は違う人と愛し合っただろう。
だからこそ、生きる意味を、存在する意味を探してしまうのかもしれない。私が私である意味を。
本当はそんな答えのないことを考えても仕方がないと思うけれど、「これが私の生きる意味だ」と言い切れる人がいたならば、それだけ没頭できることがあって、羨ましいなと思う。

4/26/2023, 4:39:24 PM

「善悪」
彼は、私を、この退屈で灰色の日常から救ってくれた救世主。彼と出会ってから日常に色が差して、生きている喜びを実感する。彼は紛れもなく私の光だ。
たとえ世間から後ろ指を指されても、私だけは彼の善性に救われたのだと主張する。私だけが彼の、彼だけが私の味方で理解者、だなんて、彼の瞳に映る自分を見つめていると本当にそう信じられる。背徳感にまみれた甘い蜜に溺れているんだってわかってる。悪事を働いている自覚がないわけじゃない。
先の見えない関係だから、精一杯の美しい私で今日も彼に微笑みかけた。この時間が少しでも長く続くことを祈って。


彼女は俺をヒーローだと言う。世界が変わったのだと爛々とした目で訴えてくる。俺は君と出会ってからも、そしてきっと別れた後も何も変わらない。俺の囁く甘い言葉で喜んで、滑稽な悪行を犯す君を本気で愛すことはない。
それでも、蕾のまま萎れてしまいそうだった女性が、自分のの言動で活き活きと咲いていく姿にはたまらない達成感があるから、俺はまた同じことを繰り返すのだろう。
彼女の微笑みで引き際を察する。美しく咲き誇る笑顔は別れの合図だ。
バレる前に清算すれば、傷つく人間はいないのだから。

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